橋本龍太郎元首相が死去しました。生前、特に思い入れがあったわけではありませんし、中国女性とのハニートラップの問題などもありましたが、心から、ご冥福をお祈りしたいと思います。

 

 橋本氏に対しては、14年ぐらい前にお嬢さんの結婚の件でインタビューして以来(当時、私は文化部でした)、何度かインタビューをする機会がありました。中でも今年2月に、都内の事務所で皇室典範改正問題について聞いたことが印象に残っています。いろいろと言われるけれど、皇室に対する尊崇の念は、確かに強く持っている人だと感じました。

 

 橋本氏が首相在任中の平成8年に皇位継承制度に関する非公式検討が始まった経緯があることから、意見を聞きに行ったのです。

 

 このインタビューについては一部、紙面化していますが、この機会にさらに詳しく橋本氏の話した内容を紹介したいと思います。新聞ではスペースの関係でどうしても省略してしまいますので。橋本氏は、皇室典範有識者会議の運営方法について強い不満を示していました。できるだけ話し言葉のまま、記してみたいと思います。

 

 問い 「有識者会議の運営についてはどうお考えですか」

 

 橋本氏 「プロセスにおいて、非常に不満を持っている。手順として。そして、私は実は両陛下を巻き込むことはいかがかとは思っていたが、それまでに、いろんな機会で皇室の中にもいくつかの意見があることを知っていたので、一度はそれを古川君(有識者会議メンバーの古川貞二郎元官房副長官)に伝えたいと思った」

 

  「ところが、古川君が『ノー』だった。要するに、有識者会議のメンバーがやっているところに、余計なことをいうのではない、というのだろうか。皇室の意見を聴くことをプロセスに含んでいないのか、純粋に皇室を巻き込まないためか分からないが、私は諦めが悪くて、『全員から聴けなんて言っていない。しかし、最長老の三笠宮殿下の意見ぐらいは聴くべきではないか』と内閣府の担当者を通じて、古川君に意見具申をした(が聞き入れられなかった)」

 

  「これは不幸なことと思うが、皇室の中の意見の違いがどの程度かは別として、いろんな形で報道に出るようになった。有識者会議の運営は間違っていると思う。率直にそう思う。少なくとも、三笠宮殿下、戦前の皇室も、占領行政下の皇室も、臣籍降下も経験され、今日までずっと皇室を見てこられた。私はも少なくとも三笠宮殿下からは話をうかがっておくべきだったと思う」

 

 「私は女性天皇を否定しない。しかし、女系天皇を認めるべきかどうかは、もっと時間をかけて考えるべきことだと思う。少なくとも、国民に女系であっても伝統が守られるという意思の統一がなければ、ばたばた急ぐべきでないと思う。少なくとも、同じ結論に達するにしろ慎重さが必要だ」

 

 「繰言になるが、私だったらあんな見え見えの形で会議をつくって、座長に『皇室の意見は聴かない』なんて言わせない。無礼だ。少なくとも非礼だ。果たしてあの人選が本当に国民を代表する人選か」

 

 「われわれは、ああいう会議が動くことを報道で知った。それで意見を言ったのだが、聞いてもらえなかった」

 

 橋本氏の言葉からは、無念、無力感、憤り、自負とさまざまな思いが伝わってきました。私個人は、政治部に配属になったばかりのころ、橋本氏の自宅に昼回り(確か土曜日)をかけた際に、いきなり30分間ほど取材作法を説教されたり、きつい目で嫌味を言われたりした経験もあるし、とっつきにくい人だなと思っていたのですが、このインタビューのときは違いました。

 

 勝手な推察ですが、きっと、橋本氏自身、この問題について発言したいことがあり、インタビューの申し込みがあった機会に、思いのたけを語ってくれたのだと思います。話ぶりは静かでしたが、そういう迫力のようなものが伝わってきたのを覚えています。

 

 橋本氏は、「私が総理を辞めてしばらくして、古川君から、『皇位継承制度の見直しの必要が生じた場合の国会議員、自民党の取りまとめのことを考えておいてください』と言ってきた」とも語っていました。

 

 皇室典範改正論議は、秋篠宮妃紀子さまのご出産までは、ひとまず沈静化しています。今後、再び論議の必要性が出てくるときが来たとしても、橋本氏が述べたように、皇室のご意見をきちんと受け止め、国民にも正しく説明したうえで慎重に進めてほしいものです。