今朝の朝日新聞は、1面トップで安倍晋三官房長官について取り上げ、歴史観や戦争観を「いずれ語らざるを得なくなる」とおどろおどろしく書いています。まるで今まで何も語っていないかのような書きぶりですが、もちろん、事実は違います。

 

 確かに、昨年秋に内閣のスポークスマンである官房長官に就任してからは、総理とあまり違う意見や考えは述べるわけにはいかないので、発言を控えている部分はあるでしょう。でも、それも来月1日に正式に出馬を表明したら、かなり「安倍色」を鮮明にしてくるだろうなと見ています。

 

 たとえば、米田建三・平成帝京大教授(元内閣府副大臣)の近著『日本の反論』には、昨年8月ごろに行った安倍氏と米田氏の対談が収められています。そこでは、安倍氏の中国観や靖国観がかなり明確に述べられています(安倍氏が最近出した『美しい国へ』より明確に)。少し長くなりますが、引用したいと思います。

 

 《中国が反日デモ、あるいは歴史問題を言ってくるのは、構造的な問題があって、まず中国が共産主義国家だということを忘れてはいけないと思うのです。共産主義というのは、結果の平等を遠い未来に約束することによって、その間は言論の自由も結社の自由もなく、複数政党も認めていません。共産党の一党独裁による政党の指導を受けていれば、そういう未来に達することができるという考えです。それにもかかわらず市場経済を導入した結果、一部の人が富を手に入れました。共産党の哲学は捨てたわけですが、党の独裁という統治機構だけが残った。しかし、その統治機構の正当性も失っているし、もはや求心力もない。

 哲学なしでは人は生きていけません。だから、中国共産党は、残虐な日本軍から、中国人民を救った、勝利を得た党であるということを誇示することで権力を維持しています。それが、彼らが反日教育をする明確な理由ですね。彼らがいわゆる市場開放を始めた頃から、反日教育が強まってきたと言えます。彼らがその体制を続ける限り、そうせざるを得ないわけですから、この問題は繰り返し起こってくると考えた方がいい》

 

 =明晰な現状認識だと思います。小泉首相はよく「私は日中友好論者だ」といいますが、安倍氏は日中関係は「政経分離」でいこうという路線ですから、かなり違いますね。安倍氏は対談で続けて

 

 《ここで残念なのが、日本国内の世論が、常に中国の思うツボに入っていく傾向があることです。正しい主張をする人がマイノリティに追い込まれ、政治的に譲歩せざるを得なくなっていく。今もそうなりつつありますね。そして、先ほど米田さんがおっしゃったように、中国側の思惑に踊らされてしまう多くの日本人は、そもそもが、勉強不足と言ってもいいですね。テレビのコメンテーターに、その典型的な人たちがたくさんいます。論争しても、こういう問題についてはほとんど答えられない人たちがたくさんいます。たとえば、先日テレビを見ていたら、あるコメンテーターが、ある弁護士に、戦犯は国内法においては、犯罪人として扱われてはいないということを徹底的に論破されて、うつむいていたのが印象的でしたね》

 

 =今回の靖国騒動でもまさしくそうですね。安倍氏の認識に同意します。私も先日、神社関係者から「靖国問題にからんで最近はたくさん取材を受けるが、記者たちが靖国のことも神道のこともまったく知らないのに呆れる」という話を聞きました。何も知らずに中国の言いなりになって靖国を批判する。そんな実態がありそうです。この「ある弁護士」とは橋下さんでしょうか。安倍氏はさらに

 

 《まず日本の国内法で、A級戦犯が犯罪者ではないということは、遺族援護法によっても、恩給法によっても裏づけられています。犯罪者は恩給権が消滅しますが、彼らは恩給権を持っています。重光葵元外相、賀屋興宣元蔵相もA級戦犯ですが、釈放後、直ちに選挙に出ていますし、その後重光さんには勲一等も授与されています。犯罪者だったら授与されるはずがありませんね。これは当たり前のことです》

 

 =そういえば数年前、安倍氏は加藤紘一・元自民党幹事長と議論した後に「加藤さんはだれとだれがA級戦犯かも分かっていない」と呆れていたことがあります。加藤氏もこれだけテレビに出まくっているんですから、もう学習したでしょうが。まあ、中国で「靖国にはA級戦犯の位牌がある」と講演してくるような人ですから、今もあやしいかも。

 

 《(略)私はよく、中国に対して、内政干渉であると言うのは、靖国神社は日本の土地にあります。日本の中にある特定の場所に、総理は足を踏み入れるなと言うことは、明確な内政干渉です。それを認めると、それと同じように、今のような、東条英機の孫たちが自分の家にある仏壇に手を合わせることはけしからんと、日本政府自体が認めることになってしまう。これは、内面に権力が介入できる、共産主義的な思想であるし、近年で言うと、ポルポト政権的な考えと言っていい、危険な考えだと思います。あれは、地主、資本家の子供までが罪を背負っていて、糾弾される対象となりましたね。そしてその子供は、親を批判しなければ救われなかった。ですからこれは、中国の文化大革命や、かつてポルポトが子供たちに強制したことと似ているなという気がしてならないのです》

 

 =そういえば、朝日は文革もポルポトも礼賛していましたね(笑)。安倍氏が幹事長時代に中国の王毅駐日大使と会談した際、靖国問題で徹底的に論破された王氏は「安倍さん、理屈じゃないんですよ」と言ったそうです。ペーソスを感じてしまいます。

 

 小泉さんは「直感」の人でしたが、世間のイメージはともかく安倍氏はかなり「理論」の人です。少なくとも、単純な小泉路線の継承者ではないことは確かでしょう。