今朝の新聞各紙は、山形の加藤紘一事務所を放火した男が容疑を認めたと報じ、産経には加藤氏の「卑劣な犯罪で許せない。言論には言論で反論すべきだ」とのコメントが掲載されています。それはおっしゃる通りでしょう。

 

 ただ、こっちはニュース価値がないと判断されたのか、加藤氏が昨日、外国人特派員協会で行った講演と質疑については、ほとんどの新聞が取り上げていませんでした。しかし、この中で加藤氏は、特派員たちに大きな誤解を与えかねない「誘導発言」をしていました。

 

 なるほど言論の自由は大切です。私とて、報道機関の末席に連なるものとして、暴力で言論が制限されることは望みません。だけれども、加藤氏の言論の質はどうなのでしょうか。これは、靖国神社や、首相の靖国参拝を評価する陣営にとっては、言論という名の一つの暴力ではないかと感じたので、紹介したいと思います。以下は、加藤氏と特派員らによる質疑応答の部分です。

 

 Q 靖国神社を米国はどう見ていると思うか

 

 加藤氏 私は、米国の対日政策は東海岸にいる20人ほどの学者、ジャーナリスト、元国務省の人など、スペシャリストの意見で決まっていくと思う。その中で一番、影響力があるのは、現実にはアーミテージだし、働いているのはマイケル・グリーンやジェラルド・カーチスらだが、私が見る限り、彼らは全員、靖国を批判し、オープンに新聞寄稿などで明らかにしている。ブッシュは小泉に一番支持しているが、小泉が変わると、ブッシュの優しさも消えていく可能性がある

 

 …はぁ?アーミテージ前国務副長官やグリーン前国家安全保障会議アジア上級部長が靖国に反対ですって?。ここまでくると、プロパガンダというより、ほとんどデマゴーグの世界だと感じます。それとも、加藤氏の目には、本当に世界はそのように映っているのでしょうか。

 

 アーミテージ氏は産経新聞に対し、次のように語っていますね。

 

 《小泉首相の靖国参拝は日中関係を難しくした理由や原因ではない。ブッシュ大統領の「日中関係は単なる神社への参拝よりずっと複雑だ」という言明の通りだ。中国は、靖国を日本への圧力につかっているため、日本がもしこれまでに靖国で譲歩したとしても、必ずまた別の難題を持ち出し、非難の口実にしただろう》(7月20日付)

 

 また、グリーン氏は産経新聞にこう語っています。

 

 《中国が日本の現首相だけでなく次期首相にも靖国参拝の中止を要求し、中止しなければ日中首脳会談に応じないとしたことは、日本の首相へのリトマス試験を突きつけたものであり、悪い間違いだ。中国は対日関係で貿易、安保、領土など多数の懸案があるのに、靖国というただ一つの争点だけを理由に日本に高圧的な要求をぶつけ、2国間の関係を悪化させ、首脳会談をキャンセルしたことは重要な外交手段を自ら奪うことになり、大きなミスだ》(6月8日付)

 

 加藤氏の言い方はあいまいで、「彼らは全員、靖国を批判し」の靖国とは、首相の靖国参拝のことなのか、靖国神社そのもののことなのか不明ですが、どちらにしろ不正確な発言です。

 

 確かに、アーミテージ氏は靖国神社の戦史博物館「遊就館」については「一部展示の説明文は米国人や中国人の感情を傷つける」と批判ともとれることを述べていますが、あくまで靖国自体を批判しているわけではありません。

 

 一方、グリーン氏は「遊就館は私も何度も見たが、フランス、イタリア、米国などの軍事博物館と1点を除いてほとんど変わりがない。その1点とは、日米戦争や日中戦争の原因についての記述が主流派の歴史観とは異なるという点だ」と非常に気を使いながら指摘するにとどめています。グリーン氏は「首相の靖国参拝のために日本がアジアで孤立しているという見解には同意しない」とも話し、加藤氏の世界認識とはほど遠いところにいる人物です。

 

 さらに、加藤氏がもう一人名前を挙げたカーチス氏は、米民主党系学者が集まるコロンビア大教授であり、ブッシュ米政権にそれほど影響力があるとも思えません。となると、加藤氏は一体、何を発信したいのでしょうか。これが自民党幹事長まで務め、一時は首相の座に最も近かった男の言うことでしょうか。あまりに軽い…。

 

 同じ講演で、加藤氏は日本社会について「発言が自由でなくなった社会に少しなったと思う。最近私がよくテレビに出ると言われるが、私がオンレコで自由にしゃべる数少ないケースだから、コメントが求められる」とも語っています。

 

 でも、加藤氏は、上に記したようないいかげんな話を「自由」に発言していますよね。ある保守系の政治評論家は、「これまでに左翼からぶっ殺すとか家に火をつけるとか何度だって言われたが、気にしない」と言論活動にあたっての覚悟を当然のように話していました。今まで、左翼・リベラルのいいかげん発言が、メディアの主流派であったため、甘やかされてきただけではないのでしょうか。

 

 何度でも書きますが、加藤氏は中国で行った講演でも、「靖国神社にはA級戦犯の『位牌』が祀られている」と事実ではない話をし、中国政府の対応をミスリードしてきた人物です。神社に位牌があると認識しているようなレベルで、靖国についてこれ以上語ってほしくないのです。

 

 また、加藤氏の言葉は、党内に自分と同じような考え方の人間がたくさんいるが、現在は発言を控えているかのようなニュアンスですが、それもどうでしょうか。

 

 7,8年前、当時は無役だった安倍晋三氏と加藤氏の政治思想について話したとき、安倍氏がこう言ったのを鮮明に覚えています。

 

 「自民党の加藤さんより下の世代に、加藤さんみたいな考え方の人はほとんど見当たらないだろう?だから、私は将来を楽観しているんだ」

 

 その安倍氏が首相の座につこうとしています。新しい時代が始まるのですから、加藤氏にはせめて、後輩たちに迷惑をかけずに退場していただきたいと心から思います。なにとぞよろしくお願いいたします。