《つまり戦争とは、敵をしてわれらの意志に屈服せしめることを目的とする暴力行為のことである》(クラウゼヴィッツ「戦争論」)

 12年ほど前、戦後史開封取材班に所属していた私は、「総資本対総労働」の戦いといわれた昭和35年の三井三池争議について取材していました。福岡や熊本に飛び、当時、三池労組にかかわっていた関係者らから話を聞いたのですが、一つ興味深いことに気づきました。

 それは、三池労組の元幹部らの家に行くと、必ずといっていいほど冒頭に記した「戦争論」が本棚にあったことです。戦後最大の労働争議を戦った炭坑労働者の必読書は、クラウゼヴィッツだったようです。

 なにか戦後の労働運動の出発点を見るような思いでしたが、その後、いわゆる教育労働者たち(皮肉です)の必要以上に戦闘的な言葉遣いや、やたら好戦的な姿勢をみるにつけ、そういうものなのかという気もします。

 ただ、ろくな身分保障もなく指名解雇を受けた炭坑労働者と、身分も給与も年金も十分すぎるほど保障された教員たちとを一緒にしたら叱られますね。公務員と一般労組はやはり違います。

 ちなみに、私が取材した元三池労組副委員長(故人)は、「われわれが学んだ“社会主義”は、うすっぺらなものだった。あの労働運動は大衆を利用してきたんじゃないかという気が捨てきれない。組合全体のためにやったのか、特定のグループの人のためだったのか」と率直に語ってくれました。

 とまあ、そんなこんなで、先月に東京地裁が下した、希に見る愚かな判決の影響を危惧していたところ、早速、これを利用した輪をかけて愚かな裁定がありました。以下の記事は、弊紙も小さく掲載していましたが、毎日新聞さんが詳しいので、そっちを引用させてもらいます。

 《<君が代>卒業式で斉唱妨害 教諭の処分取り消し 道人事委
 
 01年3月に行われた北海道の倶知安町立倶知安中学校の卒業式で、君が代斉唱を妨害したとして道教委から訓告処分を受けた男性教諭(49)が、道人事委員会に処分の取り消しを求めた請求で、道人事委員会は「懲戒処分の乱用に当たる」として、処分を取り消す裁決を出した。

 東京地裁は9月、日の丸・君が代を義務付けた東京都教委の通達は「憲法が認める思想・信条の自由を侵す」と違憲とした判決が出たばかりだが、文部科学省によると、都道府県の人事委員会で処分を取り消したのは全国初とみられる。
 
 裁決では、日の丸の掲揚・君が代の斉唱の趣旨や目的は憲法や教育基本法に反するものではないとしながらも、「強制することは教職員の思想、良心への不当な侵害として許されない」として、憲法に違反すると指摘。さらに、校長が君が代斉唱の根拠とする、学習指導要領については、「大綱的な基準とはいい難く、法的拘束力は否定せざるを得ない」としている。
 
 同中では、卒業式の式次第には国歌斉唱がなく、卒業式の事前練習でも君が代の斉唱を行わなかった。しかし、当日になって、校長が一方的に君が代のカセットテープをレコーダーから流した。このため、教諭はテープを抜き取って斉唱を妨害した。その後、校歌斉唱に移ったが、大きな混乱もなく式は終了した。【千々部一好】
 
 裁決について、道教委の平山和則・企画総務部長は「懲戒処分が相当とする当方の主張が認められなかったのは誠に遺憾。裁決書の内容を検討して今後の対応を判断したい」とコメントした。
 
 道人事委の規約によると、一定の理由があれば、人事委に再審請求することはできる。同部訟務グループによると、裁決が不服であっても道教委側から訴訟を提起することはできない
 
 請求者の弁護団長である後藤徹弁護士は「(裁決は)憲法が定めた思想・信条の自由から、日の丸・君が代の強制は許されないとしている。子供たちの教育面にも配慮し、評価できる」と話した。
               (毎日新聞) - 10月23日13時53分更新》

 沙汰の限りですね。地裁レベルの判断であり、どうせ上級審で覆されることが分かりきっているのに、この北海道人事委員会の裁定は一体どういうことでしょうか。よほど物事の道理が分からない人たちなのか、道教組から強い要請・圧力を受けていたのでしょうか。

 道人事委のホームページをみると、人事委員長は北洋銀行出身で、2人の人事委員はそれぞれ弁護士と労働法が専門の大学教授のようですが、この人たちには常識というものがないのかと疑ってしまいます。こんな裁定を出して喜ぶのはだれなのか。子供たちでないことだけは確かでしょうに。

 昨日、国会前でもらった全国労組交流センターのビラは早速、この裁定を取り上げ、「現場労働者のねばり強い行動が、闘えば勝てる局面をつくりだしています。この勝利を教基法改悪阻止につなげましょう!」とはしゃいでいました。

 筆がすべったのか、「安倍政権は明らかに国会前行動(注:座り込みのこと)に打撃を受けています」とも書いていますが、いや、打撃なんて受けてませんってば。それは妄想です。

 また、都教委包囲・首都圏ネットのビラも「ハンスト中、北海道の人事委員会で『日の丸・君が代』の処分取り消しの勝利裁定が出たとの連絡が入り、ハンスト者たちは『9.21判決(注:東京地裁判決のこと)に続く大いなる勝利だ』と喜び合いました」と記しています。

 「シュプレヒコールは日教組と一緒にやっています」とも書いてあり、何だか楽しそうですが、だから国会議員も通行人も全然、相手にしていませんよって。もっと現実を直視しましょうよ。

 こんな平和な世の中で、恵まれた環境にいながら、やたらと国家と社会の悪口を言って運動とやらにうつつを抜かしている教員たちと、それにお墨付きを与える司法と行政機関。何だか脱力してしまう現実です。