安倍首相が、郵政造反組の衛藤晟一元厚生労働副大臣の復党を容認する考えを示したことについて、自民党の舛添要一参院政審会長は「百害あって一利なし。論外だ。首相はぐらついちゃいけない」と強く批判しました。まだ正式決定事項ではないとは言え、この問題については、舛添氏だけでなく、小泉前首相による郵政解散・総選挙を支持した有権者からも多くの反発が出ているようです。

 また、公明党の東順治副代表は昨日早速、衛藤氏を復党させたら選挙協力ができないよ、という趣旨の脅かしを自民党側にかけてきました。東氏は記者団に次のように語っています。

 《記者 衛藤さんについて公認する動きがあるが?

 東氏 当惑しているね。これは友党として参院選を勝ち抜こうという政治姿勢で、統一地方選もある。大分県の地元では与党が協力して勝ち抜いて、勢いで参院選を勝とうとしている。前々から、もしそういうことになったら、選挙協力に重大な影響を及ぼすといっていた上にああ言うことが出てくることに当惑している。参院選に限らず、統一地方選にも影響をおよぼす。慎重に検討していただきたい。

 記者 総理自らがやろうとしているとの報道があるが?

 東氏 それは盟友関係とか、政治行動や理念を共有する部分があると書いてあるが、そうであったとしても、ここは連立与党というもっと広い立場で総合的に検討をよくしていただきたいなと思います。今回、衛藤氏との関係は今回だけのことではない。前回の衆院選でもこの問題があった。また、参院選、統一地方選に裾野が広がっている。熟慮に熟慮を重ねて、報道がもし事実ならば再考していただきたいなと思わざるを得ない。

 記者 自民党から衛藤さんの復党について話は?

 東氏 あります。大分県の地元で、大分県連関係の人からうちの県本部へ、むしろその方は当惑をしている。確認をしてほしいということで、県本部から私の所に確認がきて、それが新聞でドーンと出た。

 記者 確認した内容とは?

 東氏 もしそういうことであれば、是非、それは避けてほしい。そうしないと大分県は大混乱してしまう。むしろ自民党の下部組織が当惑しているという声があると申し上げた。

 記者 誰に?

 東氏 自民党のしかるべき人に。

 記者 その方は?

 東氏 いやあ、そういう方向性が出ていることは事実なんですよねと。他党のこととはいえ、なんとかしないと自民党は大変だ。

 記者 いつのことか?

 東氏 先週中頃かな。谷津さんもありえない、中川さん(秀直幹事長)もダメだといっていたんでしょ。それが今日ドーンと来たんだから。是非、再考していただきたい。

 記者 再考しなかったらどうなるか?

 東氏 選挙協力(の再考)に、大分県にとどまるかというところまで波及するかもしれませんね。》

 他党のことに堂々と偉そうに口をはさむ公明党のあり方はともかくとして、舛添氏の発言の背景には、こうした公明党の反発への考慮もあるかもしれません。それと、もともと目立つことを言いたがる性格もあるのかもしれません。

 ですが、この話は舛添氏が言うように安倍首相がぐらついているから出てきたことだとは思えません。むしろ、逆ではないかと思います。次に、昨晩の安倍氏のぶらさがりインタビューを紹介します。

 

 《記者 衛藤氏が復党し参院選比例代表で出馬という報道がある。総理は衛藤氏の復党についてどう考えているか。

 安倍首相 衛藤さんは基本的に私と同じ考え方、方向性をもった議員だと思います。長年、よく知っています。その中で党としては手続き的には党紀委員会で議論するということになると思いますが、最終的には私が判断したいと思っています。

 

 記者 総理が指示を出したという報道があるが、何か指示を出したのか。

 安倍首相 今の段階では決めていません。

 

 記者 公明党から困惑する声も出ているが、選挙協力に影響はないか。

 安倍首相 基本的に我が党の候補者ですから我が党の判断で決めたいと。また選挙協力においては両党の信頼関係において協力関係をしっかりと組んでいくことが大切だと思います。

 記者 指示は今の段階で決めていないということだったが、党に対して検討することも指示をしていないのか。

 安倍首相 今の段階ではまだ具体的な指示は出していません。

 

 記者 復党を認めて支持率が落ちた経緯があるが、そういった点は配慮しないのか。

 安倍首相 配慮?

 記者 心配というか。
  

 安倍首相 国づくりを一緒にしていきたいという人に加わってもらうのは私は当然だろうと思いますよ。》

 今回の衛藤氏復党問題について、安倍首相のやり方は筋が通っていないという批判も出ているようです。しかし、私にはむしろ、安倍氏は公明党の批判や支持率低下よりも、自ら正しいと思う筋を通そうとしているように感じられるのですが。

 昨年の郵政造反当選組の復党にしても、マスコミは「選挙目当てだ」とさんざん批判しましたが、本当にそうだったでしょうか。結果的に選挙にいい影響が出たらいいとの計算もあったでしょうが、それ以上に、安倍首相はこの人たちを復党させるべきだと信じたから、そうしたまでだというのが本当ではないかと思います。

 だって、あのときも内閣情報調査室あたりの事前調査で、復党させたら支持率は10ポイントは下がるという結果が出ていました。安倍氏が何をしても支持率目当てだといいたがる人がいますが、私は、安倍氏はそれほど支持率を気にしないタイプの人だと見ています。

 それでは、郵政造反組に「刺客」を送った側の小泉氏はこの問題をどう考えているのでしょうか。以前のエントリで一度紹介したことがありますが、退任直前の昨年9月9日、フィンランドでの小泉氏と記者団のやりとりを採録します。


 《記者 三候補とも郵政造反組の復党を言っているが


 小泉氏
 これはいつの時点かで、それぞれの人がどうそのときの自民、また政権に協力するか。また、考え方としてどうなのか、選挙区事情、個人の事情、そのときの施策の優先順位によって変わってくると思う

 記者 安倍氏は郵政について、この問題は終わったと述べているが

 小泉氏
 それは
郵政民営化は決まったことだから。一つの政策課題として。それをまた、郵政民営化反対などと言って復党してくることはないでしょう。私が間違っていた、大きな時代の流れを見損なった。これから郵政民営化一段落してあとのいろんな施策がある。自民の方針についていきたいと、戻りたいという人が戻るのは不思議でない。そういうときに、総裁なり執行部がどう考えるかの問題だ。

 記者 刺客の新人議員の存在と矛盾しないか

 小泉氏
 前回は
郵政民営化が最大の争点だった。最大の争点に反対だというのは、自民党の公認候補にはなりえないでしょ。当然のことだ。刺客とかいうことではなくて、有権者に選択肢を与えた。》


 小泉氏が言うように、郵政民営化はすでに進んでおり安倍氏もそれをしっかりと継続すると言っているのです。その上で、日本が置かれた厳しい国際情勢に立ち向かい、国内的にも教育改革、憲法改正などこれから最重要課題に立ち向かおうというときに、首相が自分と同じ考えの政治家と力を合わせたいと考えることが、なぜこれほど批判されなければいけないのか私にはどうしても理解できません。

 一昨年の郵政選挙で小泉氏の郵政民営化の主張に納得し、自民党に一票を投じた人たちの中に、裏切られた思いがするという人がいることは承知しています。しかし、あえて問いたいのは、その一票は郵政民営化の是非に対して投じたのではなかったのでしょうか、ということです。

 繰り返しますが、郵政民営化の流れはもう変わりません。国家国民のために尽くしたいと考える有為の政治家を、一度小泉氏に逆らったというだけで、二度と国政の場や、力を発揮できる舞台に復帰できないようにするための投票ではなかったはずだと思います。

 あるいは、自民党が古い体質に戻り、旧態依然とした国民不在の政治を行うことにつながるのではないかと懸念されているのかもしれません。でも、これもそうはならないと思います。自民党はすでに十分に壊れてしまっていて、昔のようには戻りたくても事実として無理だろうと思います。

 そもそも、仮に衛藤氏が公認されたとしても、選挙の洗礼を受けて勝ちあがってこないことにはどうにもなりません。純粋にこの日本のためによかれと思って、衛藤氏の復党を心から望む人だって、少なくないはずだと考えるのですが、どうでしょうか。