今朝は夕刊当番のため、いつもの首相官邸記者クラブではなく、会社に出勤しています。数日前から家族が下痢・嘔吐・発熱などの症状に悩まされているのですが、なんだか私も体調が悪く、冷や汗をかきながらパソコンの前に座っている次第です。今週も先週も深酒する機会が多かったので、内臓が疲れている気もします。

 まあ、それはともかく、今朝の東京新聞と日経新聞に、下村博文官房副長官のテレビ出演の記事が小さく載っていました。安倍首相の靖国参拝問題について言及した部分です(実は産経も記事は書いたのですが、例によって紙面スペースの都合で入りませんでした)。

 東京《下村博文官房副長官は28日、CS放送朝日ニュースターの番組収録で、中国がけん制している安倍首相の靖国神社参拝について「カードは中国側が握っているのではなく、安倍首相が持っている」と述べ、今後参拝の可能性もあるとの認識を示した。
 下村氏は、首相が中国側から今秋訪中の招請を受けながら明確な回答を留保していることに関して「外交でがんじがらめにされて、結果的に(靖国神社に)行けなくなるようなことはしないという明確なメッセージだ」と強調した。》

 日経《下村博文官房副長官は28日の朝日ニュースター番組の収録で、安倍晋三首相の靖国神社参拝について「外交によってがんじがらめにされて結果的に行けなくなるということはしない」と述べた。》

 さて、この記事の元になった部分の原文はというと、以下の通りでした。

 《山本一太参院議員 靖国参拝の問題だが、総理が対中現実路線を打ち出した。最初に首脳会談で選んだのは中国だった。総理は首脳会談のところまでにらんでやっていたと思うが、参拝したかしないかは外に出さない政策を打ち出した。いま党内でも総理のコアサポーターの中で、参院選が終わったら、総理は靖国を参拝すべきといっている。あえて言うと、総理が今まで以上の踏み込んだスタンスで、参院選終わった後に見える形で参拝しましょうということは総理はやらないだろうし、やるべきではないと思うが

 下村氏 安倍総理は昨年10月に訪中した。そのことにより、今春に今度は温家宝首相が来ることになった。そのときに、さらにまた秋になったら安倍総理に訪中してもらいたいという話が、中国首脳からあったと。それは、実際は8月の終戦記念日よりは、春と秋の例大祭の方が靖国神社にとってはきちんとした行事であると。それを行かさせないために、そういうことを仕組んでいるのではないかという話が一部マスコミからあった。そういうことも含めて、安倍総理は4月の温家宝が日本に来たその成果、その時の話し合いによって秋にいくかいかないかは、その時期になって判断したいと言うことだ。いまこの時期に分かりました、じゃあ今度は日本の番だから(中国に)行きますということを言わないということは、つまり靖国問題含めて、行く行かないは総理自身が判断することであって、外交によってがんじがらめにされることにより、結果的にいけなくなるようなことはしないという、これは明確な総理のメッセージだと思う。中国側がカードを持っているのではなくて、カードは安倍さんが持っていて、カードを切るか切らないかは総理の判断で、主体的な外交戦略だと思う。》

 山本氏はむしろ、明示的な参拝はしない方がいいという立場ですね。これに対し下村氏は、安倍氏が参拝するかどうかは本人の意思だとしながらも、行く可能性はけっこう高いよと言っているようにも感じました。それと同時に、参拝するしないを明確にしない「あいまい戦略」によって中国をある程度操れるんだよという指摘でしょうか。

 別に根拠はありませんが、私自身は、安倍氏は秋の例大祭時に参拝するだろうなと見ています。どうせなら8月15日をと望む意見もありますが、靖国側にしてみれば、神社の最重要祭礼が執り行われる例大祭のほうがありがたいと言いますし、戦前・戦後を通して歴代首相の参拝日は例大祭かその前後という例が多く、自然でもあるからです。

 小泉前首相が昨年8月15日に参拝したのは、まさに有終の美を飾った感がありますが、あれはもともと小泉さんがこの日を公約していたから、という理由が大きいですね。マスコミや中国があれほど反対キャンペーンをしなければ、小泉氏も逆に例大祭参拝に落ち着いていたのではないかという気がします。

 ともあれ、小泉氏が中国が一番嫌がった8月15日の参拝を実行してくれたおかけで、仮に安倍氏が例大祭時に参拝しても、中国はもう以前ほどの大反発は示さないと思います。来年には国威をかけた北京オリンピックが控えており、ここで下手に日本の機嫌を損ねることの愚は、彼らも理解しているはずです。

 また、一部には安倍氏が昨年訪中した時点で靖国には行かないという〝密約〟を交わし、中国に屈しているんじゃないかという人もいますが、これは何の根拠もないと思います。安倍氏は訪中ま数日前まで、本当に中国が「無条件」で自分を受け入れるのかということを疑い、訪中すべきかどうか最後まで悩んでいたようです。

 そもそも、靖国神社やいわゆるA級戦犯に対する思い入れは、小泉氏より安倍氏の方が遥かに深いというのが事実だと思います。小泉氏は国会答弁で「A級戦犯は犯罪人だと認識している」と答弁していますが、安倍氏は「国内法では犯罪者ではない」とこれを覆しています。

 小泉氏が自民党総裁選を戦っていた6年前の4月上旬の夜のことです。当時は官房副長官だった安倍氏が、「今晩の若手議員との会合で、小泉さんは靖国に参拝すると言ったからね!!」と弾んだ声で話していたことがありました。明確な根拠があるわけではありませんが、私は「ああ、きっと安倍さんが小泉さんにそう言わせたんだな」と感じたのを覚えています。

 最近は、自分らしさをあまり隠そうとしなくなった安倍氏ですが、もともとは夏の参院選までは、自分の色を抑えていようと我慢していたとの印象を受けています。逆に言えば、参院選に勝ちさえすれば、人事も含めて好きなことをやるつもりだったというわけですね。そのときに、今さら靖国参拝を辞める理由の方が見当たらないと思うのです。