本日は、ずっといつか書きたいと思っていて、その機会がなかった話を紹介します。韓国の人が、慰安婦問題で日本人にとってごく当たり前と思える発言をしただけで、ひどい目にあった事例についてです。ご本人が、新聞に載ることで、さらに迫害を受けることを心配されていたので記事にできなかったのですが、匿名でならばブログに書いてもいいとの許可をいただきました。

 今から10年ちょっと前のことです。私は都内で開かれていたあるシンポジウムを取材していて、日本で暮らすある韓国人(仮にAさんとします)が、会場で次のように語るのを聞き、ごく何気なく記事の一部で紹介しました。ごく真っ当な発言だなと感じただけで、まさかそれが波紋を呼ぶなどと思いも寄らず。

 《「私は強烈な反日教育を受けた世代で、日本人がどんなにひどいことをしたかという本をたくさん読んだが、『従軍慰安婦』という言葉は聞いたことがなかった。貧困家庭の親が娘を(遊郭などに)売ったという話は少しは聞いたが、強制連行の話などなかった」

 「日本のいわゆる進歩派の人と話すと、あまり勉強しておらず、韓国のことも分かっていない。日本批判のために韓国の反日感情を利用しているだけ。(河野談話などで韓国と政治的な妥協をした)日本政府は法的な正義より、風潮が容認する正義を優先させたのではないか。教科書に慰安婦を記述する気持ちが分からない」》

 そして、記事が出て1週間ぐらいたったころだったか、夜遅く、自宅の電話が鳴りました。だれからかと思ったら、Aさんから相談を受けたという私の知人が、心配そうにこう言いました。

 「産経の記事をきっかけに、Aさんの韓国の実家や、故郷の友人宅が韓国国家安全企画部(現・国家情報院)から嫌がらせの家宅捜索を受けている。別に改めて聞くこともないだろうに、わざわざAさんの友人、知人をしらみつぶしに訪ねてしつこく『Aとはどんな人間か』などと聞いて回っている。どうしたらいいだろうか」

 寝耳に水というのでしょうか。私は、韓国はもう少し民主化された国だと思っていたのですが、自国に少しでも都合の悪い言論、特に日本がらみの言論は簡単に封殺されるようです。私は、「いっそのこと、Aさんがこんな嫌がらせを受けたと記事にしようか」とも提案したのですが、Aさんには韓国で暮らす親類や知人がいるので、記事化することで今度はどんな迫害を受けることになるか分かりません。結局、「しばらく様子をみよう」ということになり、今日に至ります。

 私には、シンポジウムでのAさんの発言はごく常識的に思えますし、韓国政府を批判したものでもありません。ただ、「従軍慰安婦という言葉は聞いたことがない」「(女性の)強制連行もない」と自分の見聞の範囲で話をしているだけなのです。それなのに、国家機関であり、本来は安全保障に関する事象を扱うはずの公安・情報当局からこうした嫌がらせを受けるというのは、どう考えればいいのでしょうか。

 韓国人自身の口から、慰安婦の強制連行などなかったという「事実」の証言が飛び出すことは、国家意思として阻止し、なかったことにしなければならないほど重大な「秘密」だとでも言うのでしょうか。こんな風に一方的な言論しか許容されず、公にされない中での韓国世論とは何なのか、またそれに迎合した日本の政治家とは…と考え込んでしまいます。

 この時点から10年がたち、韓国社会が成熟して、以前のようなことがなくなったかというと、逆だと言います。きょう、数年ぶりに話したAさんは「ここ1、2年で韓国は言論封鎖は強まった。日韓関係について、韓国ではまともな言論はない。日韓関係の実情を知る人は、今はだれも発言できないようになっている。こういう中では、日本に対する客観的認識が生まれてこない」と話していました。

 発言内容がくるくる変わり、信憑性が疑われていても、日本を非難する元慰安婦の証言ならば無条件に持ち上げ、慰安婦問題でごく素朴な疑問を呈しただけの韓国人にはひどい嫌がらせを与える。何かと言うと、すぐ日本に対して「歴史歪曲だ」「妄言だ」と一方的かつ大仰に批判する国がこれです。ノム大統領が交替すれば、少しはこうした状況が改善されるのを期待したいのですが…。

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