今朝の読売新聞は解説面で、1ページ使った特集記事を掲載しています。題して「基礎からわかる『慰安婦』」。見出しは「強制連行の資料なし」「あいまい表現河野談話 『強制連行』の誤解広げる」などで、とてもいい感じの記事でした。慰安婦問題における朝日新聞の「罪」の部分にも触れており、なかなかGJ!と思って心が少し軽くなっていたのですが…。

 夕方、朝日の夕刊を何気なく手にとって私はしばし凍りつきました。そして、深く溜め息をついた後、パソコンに向かってこのエントリを書いています。さすがは朝日だなあと、今さらのように思い知りました。「朝日の魂百まで」「腐っても朝日」とか意味のないフレーズが頭の中をぐるぐる回っています。

 まず、1面に連載している人脈記「安倍政権の空気⑮」から。まず、見出しに安倍首相もかつてメンバーだった自民党の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」について、「慰安婦の強制 疑う集団」とあるのが引っかかりました。疑う集団ねぇ。何か自明のことである地動説を否定し、天地創造を唱えているかのような印象操作を狙っているような印象です。まあ、これだけならいつものことです。

 で、米下院の慰安婦問題をめぐる対日非難決議案に対する安倍氏の「当初、定義されていた強制性を裏付けるものはなかった」という答弁について「~と弁明した」と書いて、まるで言い訳をしているかのように記述しています。ここは普通の日本語では「反論」とするところだと思うのですが。

 そして、登場させたのが本岡昭次元参院副議長でした。この日教組議員は、私が3月15日のエントリに書いたように、国会で「私は、政府が関与し軍がかかわって、女子挺身隊という名前によって朝鮮の女性を『従軍慰安婦』として強制的に南方に連行したということは、間違いのない事実である思っている」などと現実と妄想の区別がつかない質問をした人物です。

 社会党から民主党へと移り、慰安婦への国家補償を求める「戦時性的強制被害者問題解決促進法案」を書いたそうですが、朝日の取材に対し、「政権交替したら、真っ先にこの法案が実現するんですよ」と語っています。私はこれを読み、絶対に民主党に政権を取らせてはいけないと改めて心に深く刻みました。

 それはともかく、朝日の記事には 「92年1月、中央大教授の吉見義明(60)が、日本軍が軍慰安所設置を指示した公文書を発見し、政府も知らんぷりはできなくなる。」とありました。記事では言及していませんが、これは当の朝日が92年1月12日付の1面トップで書いた「慰安所 軍関与示す資料 部隊に設置指示」のことですね。この記事自体が全体からつまみぐいして都合のいいところを繋ぎ合わせたものであることは広く知られていますが、記事を補足する用語解説がまた噴飯ものでした。

 《従軍慰安婦 1930年代、中国において日本軍兵士による強姦事件が多発したため、反日感情を抑えるのと性病を防ぐために慰安所を設けた。元軍人や軍医などの証言によると、開設当初から約8割は朝鮮人女性だったといわれる。太平洋戦争に入ると、主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した。その人数は8万とも20万ともいわれる。》

 …あの、この問題に最も詳しい現代史家の秦郁彦によると、慰安婦の総数は2万から2万数千人程度で、日本人が4割、朝鮮人は2割だとしているのですが。それに、挺身隊と慰安婦が全く関係のないことは、もはやだれも否定できない事実なのですが。本岡氏の世界観・現実認識とは一致しているのでしょうが。

 まあ、当時は現在ほどこの問題の実態が広く知られていなかったということは考慮に入れても、明らかに思い込みと誘導意図がぎっしり詰まった報道であることは間違いありません。本日の朝日夕刊の記事も、そのへんのことが後ろめたいから、「弊紙のスクープで政府も知らんぷりはできなくなる」と書かなかったのかもしれません。

 そして、この1面記事を読んでふらふらになりながら2面を開くと、1面と連動するように大きな横見出しで「従軍慰安婦『おわび』見直す声」「河野議長『知的に不誠実』」という文字が飛び込んできました。もう、ほとんどノックアウトされかかって記事を読むと、リードにはこう書いてありました。

 《河野洋平衆院議長が昨年11月、アジア女性基金(理事長・村山富市元首相)のインタビューに対し、従軍慰安婦の募集に政府が直接関与した資料が確認されていないことを踏まえたうえで「だから従軍慰安婦自体がなかったと言わんばかりの議論をするのは知的に誠実ではない」と語っていたことが明らかになった。》

 もうどなたか何とかしてください。「慰安婦自体がいなかった」なんて議論は私は生まれてこのかた聞いたことがありません。「従軍慰安婦という言葉はなかった」というのは正しい事実ですが。この人は一体何を語っているのか自分で分かっているのでしょうか。さらに、「知的に誠実ではない」って、国会で最も「知的」という言葉と縁遠そうなあなたがそれを言っては、ギャグなのか何なのかも分からない。

 このインタビュー自体はアジア女性基金が行ったものであり、それを転載した朝日の責任ではありませんが、聞き手には、もう少し河野氏が何が言いたいのか分かるように聞いてほしかったと思います。で、朝日の記事はこう続きます。

 《インタビューで河野氏は、談話で「官憲等が直接(慰安婦の募集に)加担したこともあった」と認定した点について「どなたが何とおっしゃろうと問題ない」と断言。談話の前提となった政府調査での元従軍慰安婦16人への聞き取り結果を理由に挙げ、「明らかに厳しい目にあった人でなければできないような状況説明が次から次へと出てくる」と振り返っている》

 だから、何が「問題ない」のでしょうか。そりゃ、慰安所などで厳しい目に遭った元慰安婦はいたでしょうが、それと官憲の加担がどう結びつくのですか。この説明ではさっぱり分かりませんし、「次から次へと出てくる」という部分は口がすべったのだろうと推測します。私が過去2回、河野談話作成に事務方トップとしてかかわった石原信雄元官房副長官にインタビューした際には、この当たりのニュアンスはそういう感じではありませんでした。政府がこの聞き取り調査について、情報公開をプライバシーを理由に拒んでいるので明確な点は分かりませんが…。

 また、記事の中で河野氏は、「慰安婦の徴集命令!」に関する旧日本軍の資料について「処分されていたと推定もできる」と指摘したそうです。ふーん、無責任なことを述べていらっしゃいますが、そもそも何の必要があって、いつ処分したというのでしょうか。さらに、「(談話を出した)責任を逃げたり避けたりするつもりは全くない。談話を取り消すつもりも全くない」と強調しているそうです。

 このブログを訪問してくださる人の中にも、河野氏が日本と日本人に取り返しのつかない恥辱を負わせた罪を悔い改め、謝罪を表明することに期待を寄せておられた人もいました。ですが、河野氏はそんな気はさらさらなく、意味不明の弁明に努めているだけのようです。

 こんな人が衆院議長として居座っている現状をつくづく憂います。自民党の歴史教科書議連の中には、河野談話見直しを進めると、河野氏がすねて衆院の本会議開会のベルを押さず、すべての法案が成立しなくなることを心配している人もいるようですが…。とにかく、朝日新聞を1回読むと、寿命が1日縮む気がします。