本日は、後輩の酒井充記者の取材メモにおんぶに抱っこで安易なエントリを立ち上げたいと思います。昨夜(26日)、小泉前首相が地元、横須賀市で行った講演をそのまま紹介するだけです(ちょっと略しましたが)。一部は新聞などでも取り上げられていますが、なかなか面白かったので、そのまま載せます。小泉氏本人も興が乗っていたらしく、15分間の予定を30分以上オーバーして元気に話していたとのことです。酒井記者は、講演内容に中見出しまでつけていましたので、それもそのまま使わせてもらいます。

 《
【総理は批判されるもの】
 いま、安倍さんも苦しいときですね。ちょうど総理に就任してから10カ月たっていない。私もそのころは結構苦しかった。みんな忘れているが。総理になると批判されるのは当たり前だ。何やっても批判される。民主主義の時代だから、賛否両論、必ずある。100%、1つの問題で賛成、100%反対はない。50%賛成あればいいほうだ。
 総理や政権政党は何かを進めるとき、(マスコミは)反対論を大きく取り上げて批判するから。民主主義の世の中はどこでもそう。だから、当たり前のこと言っても批判される。「人生いろいろ」なんて当たり前でしょ。当たり前のこと言って批判される。》

 …「苦しかった。みんな忘れているが」というのは、田中真紀子元外相を更迭して、支持率が半減したころのことでしょうね。あのころも「政治とカネ」の問題が国会を揺るがし、秘書給与搾取の問題や、政治資金流用問題で、自民党の加藤紘一元幹事長や井上裕参院議長が議員辞職しました。社民党の辻元清美氏もそうでしたね。今は国政に復帰してなにやら偉そうなことを言っていますが。確かに、私も記憶はおぽろげになってしまいましたが、国会は大荒れでした。当時、小泉氏の盟友と言われた山崎拓元幹事長の愛人問題が週刊誌で報じられたのもこのころだったでしょうか。

 

 《【自分の成果強調】

 つい2、3カ月前は、格差があるということで、小泉内閣が格差を作ったと批判された。今は落ち着いたが、冷静に考えると日本は世界でもっとも格差が少ない。格差はどの時代にもどの国にも、どの社会にもある。格差がない社会を作ろうと野党はいうが、よく考えて。その前、野党も与党も含めて立候補する人はだれもがいったのは、努力した人が報われる社会をつくろうといっていた。格差のない社会は、はっきり言って努力した人も努力しない人も結果は同じ。こんなことあり得ない。問題は、どうしても自分の力では立ち上がれないような人に、自治体や国、力のある人がどうやって手をさしのべて立ち上がれるようにしていくか。いくら能力のある人の足を引っ張っても、自分の能力がつくわけではない。金持ちを批判しても自分が金持ちになるわけではない。

 能力のある人をいかに応援し、稼いでもらって税金を納めてもらって、そういう余力をもって、能力に若干足りないところがある人、自分の力で立ち上がれない人を国などが立ち上がれるようにすることが社会保障。その前提で、国が安全でないといけない。アフリカも中東も治安問題、難民問題で、政策の推進どころではない。毎日の生活、命があるかどうか分からないようなことで苦しんでいる国民が沢山いる。そういうことを考えると、国の一番の基本は国民の安全を保障することだ。防衛問題、そして社会保障。》

 

 《【年金問題、マイナスをプラスに、社保庁批判】

 いま年金問題でさんざん自民党、政府、安倍総理大臣、我々もたたかれているのは当然ですよ。あのような体たらくを社会保険庁にしても公務員もやっていたから。マイナスをプラスにすることが大事だ。これを反面教師として、このような働き方じゃあ、国民が怒るのも無理ない、率直に受け止めて、二度とこのような怠慢をしない。しっかりと保険料を払った方にはしっかりと年金給付を行うという対処をつくるのが我々政権政党の役目だと思う。

 公務員の労働組合と社保庁の幹部との間の覚書を見ると、こりゃひどいですよ。100件以上覚書があった。1人1日3時間以上パソコン操作をしないとかね。ああいう約束をどうしてするのか。国民の眼を向いていなかった。自分たちで仕事を楽にしたいということに重点が置かれていたのではないか。やはり公務員というのは、国民のためになるためにどうやって仕事をするか。いまいろいろな便利な機械が入っている。そうすると合理化反対。より国民に親切で便利になる機械を導入すると、そういう反対が起こる。そうでなくて国民に窓口でもあまり時間のかからないように、なにか問い合わせがあったら早くしっかりと答えを出せる体制をとっていかなければならない。だからなるべく働かないというような覚書をしていたことを大きく国民にさらして、こういうことは二度としません、年金とか医療とか介護とかは、与野党の対決案件ではない。与野党の対立を超えて社会保障制度がしっかりしたものに持続できるようにやっていかなければならない。》

 …あの社保庁労使の覚書は、最近はだいぶ世間に知れ渡ってきましたね。小泉氏の言うように、社保庁の労働慣行がどういう状況だったかを国民に知らせて、その上で、これからはそんなことはさせないと示したほうが説得力があるように思います。総務省に設置された有識者からなる社保庁問題の検証委員会に期待したいと思います。

 

 《【憲法改正を主張】

 当面の課題は、社保庁と公務員労組のあまりの怠慢ぶりに目が向いているが、この60年間、日本が歩んだ道のりを考えながら、これからも平和で安定した国家として発展していくためには何が重要かを考えなければならない。日本人はかなり柔軟に現実に対処してきた。憲法解釈をみればわかる。いま憲法改正問題、安倍総理はなんとか在任中に憲法改正の足がかりをつかみたいと思っていると思うが、確かにふつうの考えでは納得できない点、例をあげると9条。これは日本人の知恵だ。自民党はもっとわかりやすい条文にしようとしている。それは野党、憲法改正反対のみなさんは、日本を戦争できるようにするために憲法を改正するというが、とんでもない誤解だ。9条をよく読むと、武力の威嚇、行使は国際紛争を解決する手段として永久に放棄する、ここは自民党も変えない。その後、陸海空軍その他の戦力は保持しないと。

これみたら、常識で考えれば、自衛隊は戦力はないのかと考えれば、ほとんどの人は自衛隊は戦力を持っていると思っている。ここから憲法学者の間で自衛隊は憲法違反だ、いや、どの国でも自衛権は認められているのだから、自衛隊の戦力は憲法で否定した戦力ではないというこじつけで自衛隊は合憲だと。正式な憲法裁判所の判断。それが、いまだに憲法違反だとの争いが絶えない。

これをもっとわかりやすく、武力による威嚇とか行使を国際紛争を解決する手段としては永久に放棄するのは変えない。ただ自衛隊が戦力、軍隊でないというのは外国は誰もそう思っていない。日本人のなかでもおかしいのではないかというから、自衛軍は保持すると明記しようというのが自民党の草案だ。外国で災害でさまざまに活躍する自衛隊の諸君が誇り持って活動できるような環境を整えていかないとおかしんじゃない、ということで今いろいろ議論している。

 第一、もし自衛隊に戦力がなかったら、国民はほかの勢力から危害を受けたら、排除できるのか。できない。非武装中立という人もいるが、もし外部の勢力が侵略した場合、日ごろ自衛隊のように訓練していない組織、そういう一般市民に戦えというか。一般市民に武器をもてというのか。何も訓練していない市民に対し、武装訓練した人たちに対して、日ごろから訓練という組織でないと対処できない。それを非武装が良いというのは、そういう訓練もない人に戦えというか、すぐ降参しろというかしかない。これはなかなかおかしい。政府として政権を担当したら、このような無責任なことはできない。実験したらおしまいだ。実験して武装勢力、日本を蹂躙しようとする勢力に政権を担当されたら、あとひっくり返すのに、その間どれだけの国民が苦しむか。世界の実状を見ればわかることだ。

 だから、日本が他国を侵略しなければ、日本が他国に悪いことをしなければ、日本は平和なんだという時代でないことは、北朝鮮の拉致問題、覚醒剤、偽札とか、いまだに、つい先ほどまで日本にはそういう武装した不審船が日本に来ていたことが明らかになった。実際海保の船と戦って沈没して、何人か自決したこともある。船をみたら大変な武装していた船が日本近海に来ていた。

 だから、私は日本は確かに憲法は大事だが、軍事力がなければ平和になるというのは大きな誤解だ。日本は敗戦後、軍事力がなかった時代は一日もない。敗戦した後も米軍が日本を占領していた。確かに陸海空軍は解散された。しかしながら米軍という軍事力は日本に存在した。外国の軍隊、外国の勢力は手を出せない。だから戦後日本に軍事力がないという人は、おそらくそんなにいないと思うが、軍事力がない日本というのは誤解だ。

 常に戦後ずっと軍事力がなかった日は一日もない。そしてアメリカと同盟関係を結びながら、60年間、一度も戦争せず、戦争に巻き込まれないで、いま着実に平和国家として世界で一番長生きできる国になった。また、格差の少ない社会として、よその国に支援の手をさしのべる国になった。この国を今後、いかに平和のうちに発展させていくか。憲法前文にあるように、国際社会の中で名誉ある地位を占めるために日本は何をしたらいいかを考えなければならない大事なときにきている。》

 …小泉氏が首相時代、国会答弁から日々のぶらさがりインタビュー、予算成立時や郵政解散時の記者会見、外遊先での記者懇談とさまざまな場面に立ち会ってきましたが、こんなに憲法と軍事力について能弁に語っているのは初めて見ました。首相時代は、「自分の任期中は政治課題にはしない」と明言していたので、あえて避けていたのでしょうか。特に、「日本は敗戦後、軍事力がなかった時代は一日もない」という言葉は、「憲法9条があったから日本は平和だった」と主張する人たちへの反論のようにも感じました。ただの私の感想ですが。

 

 《【総理やめてよかった、地元の話】

 最近、かなり余裕がでてきたから、横須賀の街を結構散歩している。総理の時には、あまり熟睡できなかった。夜中もちょっと1、2時間で目が覚めて。あー、また批判されているなと。思わず答弁資料を起き出して見たりして、また眠れなくなって。朝、目覚ましがなって、ああ寝たいなあと思いながら、国会に出て、居眠りしたこともあるが。

 いまおかげさまで、総理を辞めると熟睡できますねえ。あー。批判もされないですむからね。朝も目覚ましなく、二度寝なんかできる状況になって、余裕がでてきた。しばらくよかったが、最近体がなまっちゃう。少し歩こうと思って。この6年間一度もゴルフいってませんから、少し運動しようと横須賀の街を歩く。

とくに横須賀駅から観音崎まで1万メートル遊歩道ができた。あれはきれいだ。1日、2日かけて、1日2、3時間かけて。いい海岸だ。猿島も横須賀に返還された。海と緑のある横須賀は良いなあ、ますます発展していかないと。歴史と自然を大事にするようにしていきたい。

 遊歩道を歩いて感じたが、ちょうど市長がいる。総理大臣経験者が市長に陳情してはいけないが、歩いて気づいたのは、夫人の方にいわれた。トイレがあるといいと。なるほどね。1万メートル歩くと、男はいいが、ちょっと海辺にいって用を足すことができるが(!)、女性はそうはいかない。ところどころにトイレをつくると、もっと観光客が歩きながら楽しめるのではないか。役人がやるとあまりよくないから、民間の力をかりながら活性化できるような、散歩を楽しめるようなのを。久しぶりにいって、いわしがとれてるのをみて、トンビがさらっていくのをみて気持ちが良い。ああ、総理やめてよかったあと思うときです(笑)。》

 …小泉氏が夜中に起き出して答弁資料を読んでいる姿は、この講演メモを読んで初めて想像しました。割と、よくいえば自由、悪くいえばいい加減な答弁をする人でしたから。ただ、メディアの批判は本当にきつかったようで、小泉氏はぶらさがりインタビュー時にもよく、「総理は何を言っても批判される」と言っていたのを思い出しました。

 

 《【参院選厳しい、衆院選の反動も】

 きょうは私の後援会ではなく○○さんの応援にきた。つい皆さん大勢いるから予定の時間を超えて話しているが、私はこの選挙は本当に厳しいと思う。年金の問題での怒りは大変なものだ。我々が怒っているんだから、それは無理もない。とくに政権政党だから、厳しい。しかも4月に地方選があった。自民党のために一生懸命骨をおってくれた方も疲れている。衆院選でちょっと勝ちすぎたから、2年前ので、これ反動が来る。これ、なかなか厳しいですよ。

しかし、こういう厳しいときにも、いまようやく景気も回復軌道に乗って、民間にできることは民間に、地方にできることは地方にという構造改革を進めていかないとならない。道路公団だって当初民営化できっこないといわれたが、2年前に民営化した。民営化してよかったとなった。民主党はとんでもない、全部税金でといった。公団の時は毎年3000億円税金投入したが、民営化で今後一切税金を投入しない。去年から法人税を納めるようになってきた。当時公団のときは非常電話一台250万円かかった。なぜか。もっと安くできないか、半分でできないかといったら40万円でできるようになった。それが何万本もある。こういう無駄遣いをしないためにも、民間にできることは民間にのひとつの良い例だ。

そういう路線は、ある程度政権が安定してくれないと、政権がグラグラしていると経済は停滞する。私も最初1年で辞めていたら、小泉何もやっていない、不良債権処理も処理できない、道路公団も民営化できない、郵政局も民営化できない、失業者を増やすだけ、倒産を増やすだけ、さんざん批判されていたと思う。みなさんの力で支えてもらって、5年半、批判にたえた。夢でも追及され、うなされるのを耐えて、所期の目的を達成して、ようやく経済が上向きになってきた。

確かに選挙は厳しい、かえってこの路線を継続して経済を豊かにして、そういうことで社会保障も十分手当ができるようにしていかなければならない。能力のある人を応援する、仕事ができたら社会に還元してもらう、お互いが助け合う社会をこれからもつくっていかなければならない。自民党も野党もそういう対応をしていかないとならない。

ともかく、いまの政権の状況を見ると、平成になってから自民党も野党になった。政界は何が起こるか分からない。自民党と社会党が連立組むなんて、みなさん夢にも思っていなかった。それがあった。

そういうことで、私も小選挙区にはならないと思ったら、小選挙区になって、反対していた私が一番恩恵を受けた。あの衆院選で。小選挙区制でなければ自民党は郵政民営化賛成しなかった。小選挙区だから全部の選挙区に1人しか当選できない。中選挙区だったら、3~5人の中で、がんがん最高点とっても130人。あとの400人ぐらいはそうではない。過半数なんかとれっこない。そしたら郵政民営化できなかった。小選挙区に反対していた小泉が小選挙区制度の恩恵を一番受けたといわれるのは、なるほどなと思う。人から言われると、そうかなあ。》

 …日本の首相はしょっちゅう変わるので顔も名前も覚えられないとは、外国でよく言われるようですが、確かに1、2年で首相が交代していたら、外交も内政もなかなか進展しないでしょうね。積み上げてきたものの多くが、また、一からやり直しとなりますし。小泉氏が郵政解散のおり、街頭演説などで繰り返し、「耐え難きに耐え、(抵抗勢力の)外堀をうずめ、内堀をうずめ、やっとここまできた」と訴えていたのを思い出します。小泉氏にしても、好ましい政治情勢をつくり上げ、本当にやりたかった郵政民営化関連法案を提出するまでには、首相に就任して4年の歳月が必要でした。

 

 《【田中派批判】

政界はわかりにくい、いまもわかりにくい。民主党の代表は小沢さん、幹事長は鳩山さん。もともと田中派の金丸、竹下、自民党全盛時代の主流派で力をふるった人だから、それが野党の党首と幹事長だ。そして自民党が追及されているんだから、何がなんだか分からない。

だからね、小選挙区制度になって、ともかく自民党で公認をうけないと●(※聞き取れず)。自民党の人たちも他の選挙区から出る。考え似ていても与党だからこう野党だからこう。同じ考えで賛成したくても賛成できない。反対したくても反対できない。そういうのはみんな知っている。

まだひと波乱、ふた波乱あると思う。自民党が勝っても、民主党が勝っても。しかし大事なことは、何が国民のために大事か。社会保障、安全保障の問題。どの政権がとったって、いま、大体政権政党、自民党が言っていることからそんなに外れたことができるわけない。こういうことを考えながら、これからの政治、しっかりやっていかないといけない。

政権政党が批判されるのは仕方ない。総理大臣も批判されるのは当たり前だから。批判されて批判されて、たたかれて、ぶたれて、そういうことによってだんだん人間というのは鍛えられる。

 最初のうちは落ち込むこともある。いま安倍さんも落ち込んでいるころだと思うが、この山をこえていくと、だんだんたくましくなってくる。だんだん、たたかれて、たたかれているうちに鈍感になっていく。そうなったら、しめたものだ。しっかりと選挙を気にせず、自らの信念に、国民の期待するものに向かってしっかりと政策をやっていくことだ。1年や2年で総理大臣がクルクル替わったら、改革できない。まさに改革を進めるために、自民党、安倍総理にがんばってもらうためにも、ぜひとも○○さんを応援していただきたい。長時間ありがとうございました。(了)》

 …小泉氏は再び「鈍感力」に言及しています。言っていることはその通りだろうと思うのですが、批判されて批判されて、たたかれて、ぶたれてって、想像しただけでゾーっとします。何をいまさらの話ですが、この講演メモを読んで、政治家、中でも首相とは、並外れた精神力を持たなければ務まらないのだろうなと改めて思いました。安倍首相は、こうした小泉氏のことを、ずっと近くで見ていたので、その覚悟はあると思うのですが。