きょう、週刊新潮の最新号(8月30日号)を読んでいたら、「民主『トロイカ』入り『輿石参院議員会長』はこんな人」という小さな記事が顔写真入りで載っていました。このブログを以前から読んでくれている方はよくご存じの通り、私はこの輿石氏を支援する山梨県教職員組合(山教組)による違法な政治活動や選挙運動、輿石氏への半強制的な選挙資金カンパの実態について、繰り返し触れ、問題点を指摘してきました。ですので、新潮の記事を興味津々で読んだところ、次のように書いてありました。

 《参議院で主導権を握った民主党の中で、ひときわ大きな権力を手にした男がいる。参院議員会長の輿石東氏、71歳。民主党ではこれまで小沢代表、菅代表代行、鳩山幹事長ら3人の重鎮で党内の最重要方針を決定してきたが、この「トロイカ体制」に輿石氏も加わることになったのだ。》

 輿石氏にとって、現在はまさに「この世の春」ということでしょうか。そして、匿名の「政治部記者」がこんな風に解説しています。

 《「04年の選挙の際、出身母体の山教組などで構成する政治団体が教員から集めた寄付金を政治資金収支報告書に記載せず、幹部2人に罰金30万円の略式命令が出されたことがあります」「今年1月に発覚した角田義一元参院副議長のヤミ献金疑惑では、問題のヤミ献金の中に輿石氏からの10万円の献金が含まれていた。にもかかわらず輿石氏は議員会長として疑惑の調査にあたりましたが、結局真相はうやむやのまま。自身の支持団体が虚偽記載に問われた輿石氏に疑惑の解明は無理だと言われたものです」》

 …うーむ、この政治部記者はけっこう詳しいですね。山教組問題の流れをきちんと押さえています。コメントを読んでいて、正直なところ、私自身が新潮に語ったんだっけと一瞬、記憶を疑ったほどでした。どこの社か分かりませんが、ちゃんと把握しているのなら、もっと紙面に反映してくれればいいのに。そこで、今までのエントリと重複する部分もありますが、あえて私から説明を追加したいと思います。

 さて、この記事にある山教組などで構成する政治団体とは、山梨県民主教育政治連盟(県政連)のことです。で、この県政連が輿石氏が出馬・当選した参院選が行われる前年の平成15年12月、「校長3万円、教頭2万円、一般教員1万円」というノルマを課して集めた選挙資金について、政治資金収支報告書に記載していなかったことが、16年11月の産経新聞の報道で明らかになったというわけです。そして、略式起訴を受けたのは、県政連会長と山教組財政部長でした。

 この間の事情については、週刊新潮(04年12月16日号)の特集記事「山梨県の時代遅れ『日教組支配』」で、「ある小学校教諭」がこう証言しています。

 《輿石さんが国会議員になってから(平成2年に衆議院選挙で初当選)、年に2回のボーナスの度、校長は1万円、教頭は7000円、ヒラは5000円を徴収されるようになったんです。今回のように、3万、2万、1万の臨時カンパがあったのは初めてのことでしたから、何でそんなにお金がかかるんだろうと不思議に思いました。そうしたら立派なポスターや看板が大量につくられていた。》

 また、04年11月12日の地元紙、山梨日々新聞の投書欄には、こんな甲府市の大学講師の投書が載っています。

 《小学校教員の知人に早速確かめたが、学校単位で選挙資金集めが行われたのは事実であった。驚いたことに、選挙資金集めは知事選や県議選のような地方選挙でも恒例行事で、選挙がない時期には、「カンパ」と称する使途不明の資金集めもあるらしい。40代のその知人は、今までに数十万円もの選挙資金を拠出させられたと話している。》

 同じく11月13日の投書欄には、大月市の読者のこんな意見もありました。

 《選挙があると自己の政治信条とは無関係に民主党(旧社会党)候補を応援することを強制される。具体的には1万円のカンパ、50人の個票集めなどである。もし、これを拒否すれば年度末の人事異動などで不利な目に遭うので組み合いには逆らえない。山教組出身者が県教委におり、山教組は彼らとともに人事権を握っている。》

 この投書にある「個票」とは、輿石氏の個人後援会の入会カードのことです。平成16年の参院選では、カード集めのノルマは一般教員は80枚以上、校長・教頭は各20枚以上と決められていました。このほか、ポスター貼りや電話作戦なども、教員にノルマが割り振られていました。輿石氏のための選挙運動は、教員たちにとって相当の負担になっていたようです。

 さらに、12月8日の投書欄にあった甲府市の転勤者の訴えも深刻です。これは、児童の父兄の視点で問題を見つめたものです。

 《教師たちの授業軽視の姿勢には驚かされる。平日の昼間からゲームセンターや漫画喫茶に小中学生があふれるのは、一日あるいは半日休校となる教師の組合活動の日だ。この県の教職員組合は教育より選挙に熱心で、選挙運動に疲れた教師が次々に年休を取り、選挙中にはわが子は自習ばかりである。》

 投書にも出てくる「カンパ」は、もともとは「選挙闘争資金」と呼ばれていたそうです。当時、産経新聞の取材に実名で応じてくれた教員は、「山教組の定期大会で、私たちが「選挙闘争資金ならば会計報告が必要だ」と追及したら、執行部がカンパに名前を変えてきた」と証言しました。この教員は、「こうしたことは、当然、輿石氏も十分承知している」とも言っていました。

 で、この間、輿石氏はどうしていたかというと、平成17年の山教組新年互礼会のあいさつで「私が出馬した参院選に無関係ではない」とする一方で、「一部マスコミの報道で心配されていると思うが、これにひるまず、新年をもって活動を続けてほしい」と述べるなど、全く反省の色は見えませんでした。また、県政連に対しても、県政連による輿石氏のための選挙資金集めに対しても「直接関係ない」などとはぐらかすばかりでした。

 でもねぇ、これも産経新聞が山梨県選挙管理委員会に情報公開請求して入手した、県政連役員名簿には、輿石氏は役員である「顧問」と明記されていました。また、他の役員の中には、輿石氏の後援会幹部も複数含まれていました。

 そして、輿石氏自身も17年3月3日の参院予算委員会で、県政連について「私自身の政治団体について、一部の政党から批判されていることは承知している」と述べ、「私自身の政治団体」であることを認めているのです。何が「直接関係ない」だと思いませんか。私は、こんなに白々しいことをよくも言えるなと感じています。さらに言えば、県政連の会長は輿石氏の後援会の副会長で、後援会と県政連の会計責任者は同じ人物ではないかと、国会で追及されたこともありましたが…。

 話は前後しますが、17年2月3日の山梨日々新聞は、「県政連の政治資金収支報告書に寄付金収入が記載されたのは、1996年と98年の2回だけだった」「資金集め(カンパ)の総額について複数の現職教員が『毎年3000万-4000万円以上になる』と指摘。しかし収支報告書の収入額は、寄付金計上された年も含め、96年以降、1000万-1900万円前後だった」と報じています。つまり、教員たちから集めたお金は政治資金として報告されず、裏金に回っていた可能性があるというわけです。

 結局、平成16年の輿石氏の選挙のために集められた教員らからの資金カンパの総額は、約6100万円に上ることが分かりました。しかし、これは産経をはじめとする各種報道があったから明らかになったことで、報道がなければ、政治資金収支報告書には寄付金ゼロか、あるいは数百万円と記載されていた可能性も否定できません。この6100万円という数字ですら、県内のほとんどの教員や大半の退職教員がカンパに応じたのだから、本当は1億円ぐらいになるはずだという指摘もありました。このお金の問題は、今も明らかになっていません。

 でも、何か変だと感じます。内心の自由は保障されるにしろ、本来は政治的言動を慎むべき教員が堂々と選挙活動に明け暮れ、その教員から集めた大金が輿石氏の選挙その他に使われ、その資金の行方はあいまいになったままなのです。今年の通常国会では、政治とカネの問題があれほど大々的に取り上げられ、関心を集めたというのに、輿石氏の「政治とカネと教育」の問題は、メディアは触れようともしませんでした。そして、輿石氏は順調に出世し、権力を握ったというわけです。

 この県政連の平成16年の政治資金収支報告書はほかにも不自然な点が多く、例年4500人前後と記載されていた会員数がいきなり614人になったり、それまで約1900万円だった会費収入がいきなり520万円になったりしていました。赤城前農水相の関係政治団体の収支報告書で郵便局名が間違っていたとして、トップ級ニュースだと大騒ぎしたマスコミもありましたが、輿石氏に対してはスルーでした。当時も輿石氏は民主党の参院幹事長という要職にあったにもかかわらず、です。

 で、上に述べたように県政連会長と山教組財政部長が書類送検されたわけですが、それでも輿石氏は平成18年1月6日の山教組新年互礼会で「私どもは間違っていない。これからも山教組とともに歩んでいくことを誓います」とあいさつしていました。何がどうあっても、自分は間違っていないという宣言です。いっそ天晴れだとも思います。

 その後、18年3月には、山教組幹部や小中学校校長ら計24人について、県教委などは教育公務員特例法に抵触する行為があったとして、停職3カ月や戒告などの処分を下しました。こんなことがあってもなお、輿石氏はこの年の6月3日、産経の取材に対し、「(カンパを自分が)集めてくれと言ったわけではない」と言い切りました。不思議な人格だと思います。自分のために、罪を犯すことになったり、処分を受けたりした人たちのことを何だと考えているのでしょうか。

 そして、小沢民主党は輿石氏を重用し、参院選では各種労組との窓口として働かせ、今日の地位を与えたのです。輿石氏は今回の選挙でも、山教組を動員して民主党候補を当選させました。今の民主党は、衆院のトップが、関係政治団体に不動産を含む計35億円もの資金をプールしている小沢氏で、参院のトップが教職員を使い倒して一切の責任をとらない輿石氏という構図です。悪い夢を見ているような気分です。自民党は負けるべくして負けたというのは理屈ではよく分かるのですが、本当にこれでいいのかと、感情がなかなか納得してくれません。