昨夜、安倍改造内閣が発足しました。私も記者会見に出たり、記事を書いたり、上司に叱られながら入閣者と留任者の確認をして会社に連絡したり、官邸記者クラブ員の夜の弁当の手配をしたり、電話をとったり、ときどきブログのコメント欄をチェックしたり…でとにかくばたばたした1日でした。記者クラブの中も、ふだんは姿のない社会部員やカメラマンらがたくさんいて、にぎやかというか、いつもより狭く感じましたが、同時に活気もありました。ちょっとしたお祭り騒ぎでした。

 さて、今回の改造についてどう考えるかは、今朝の産経朝刊に署名記事を書いたのですが、それだけでは何なので、このブログで、紙面では書き切れなかったことや、推測混じりなので触れられなかったことを補足したいと思います。

 まず、安倍首相が官房長官に無派閥の与謝野馨氏を持ってきたのは、これは大きな「決断」であり、「賭け」だったのだろうなと感じました。そう考えるのには、いくつか理由があります。まず、これは安倍首相が森元首相との間に、いかに距離を置いているかを示すことだと思うからです。

 安倍首相は塩崎前官房長官、与謝野官房長官と、2代続けて出身派閥の町村派以外から官房長官を採りました。でも、例外はあるにしろ、普通は官房長官は首相の出身派閥の所属議員が就任するものです。その理由は、気心が知れていて信用できるとかいろいろありますが、その一つの要因は、官房長官が、いわゆる官房機密費を握る立場であることです。

 自民党の政治家で、お金を割と自由にできる立場(ポスト)は何かというと、一つは官房長官であり、もう一つは幹事長です。幹事長は党の財布をにぎり、裁量でかなりの額のお金を自由にできると言います。そして今回、安倍首相はこの幹事長も麻生太郎氏に渡し、町村派(旧森派)を外しましたから、これが森氏にとって、面白かろうはずがありませんね。森氏としては、外相に就任した町村氏が官房長官になるのを期待していたのかもしれません。

 また、安倍首相は、森氏が入閣させろと実名を挙げて迫っていた福田康夫、谷垣禎一両氏も入閣させたり、党の要職につけたりはしませんでした。町村派で閣僚になったのも町村会長ただ一人で、主流派の最大派閥としては異例のことでしょう。昨日、神戸氏で講演した森氏が不機嫌に「お友達内閣の年長さんから年中さんが残っている」と嫌味な発言をしたのもよく分かります。いくら何でも幼稚園児扱いはないでしょうに。よほど腹に据えかねたのか。それにしても、こんなにわかりやすい言動でいいのか。

 そもそも、昨年9月の組閣のときも、安倍首相が一応、森氏に人事について相談したのは事実でしょうが、かといって一部マスコミが書くように言いなりになったというのは、私は違うと思っています。あのとき、すでに安倍氏と森氏には距離がありましたし、森氏が要請した福田氏の外相就任も、安倍氏はきっぱり断っていました。確かに、幹事長が、安倍氏が望んだ麻生氏ではなく、中川秀直氏になった経緯では、森氏の意向も働いたのでしょう。でも、私はむしろ、安倍氏がそれまで自分をもり立て、支援してくれた中川氏が、「自分は女性スキャンダルを追及された過去があるから閣僚にはなれない」と訴えたのにほだされて、次の改造時の交代含みで幹事長に起用したのではないかと思っています。

 今回の改造でも、森氏が新聞各紙やテレビで、入閣候補は「だれだれがいい」などとしゃべると、まるでそれが実現するかのような報道が出ていましたが、実際はどうだったでしょう。新聞の安倍首相動静を見ても、安倍氏と森氏が会って相談するような場面は、まずないと思います。私は、森氏サイドが、いかにも自分は政権に影響力があるかのように印象付けようとし、それを半ば分かりつつ、便利だからとマスコミが利用していたような気がします。実際、森氏は面白いことを話す人で、インタビュー記事は他の政治家とはひと味違いますし。

 もちろん、安倍首相としても、森氏はかつてお世話になった派閥の兄貴分であり、今も別に敵対してはいないのですから、ときに話もするでしょうが、何でも森氏が決めて安倍氏が従っているような報道は、「自分では何も決められない弱い首相」というイメージを植え付けようとするネガティブキャンペーンの一環であるかのような気すらします。

 話が与謝野氏からずれてしまいました。元に戻すと、安倍首相は、与謝野氏の政官界に幅広い人脈を、思い切って政権運営に生かしたいと考えたのだろうと思います。与謝野氏は現在69歳と、官房長官の激務をこなすには決して若くなく、しかも昨年秋には咽頭ガンで、いったん就任していた自民党税制調査会長を退いたこともあります。官房長官就任後の記者会見でも、当初は声が通らず、かすれていました。咽頭ガン自体は克服したのでしょうが、体力は万全といえるほどではないでしょうし。

 当然、政界で十分なキャリアを持ちつつも、現在は無派閥でしかも病み上がりの自分を、官房長官という内閣の大番頭に登用したいという安倍首相に、きっと意気に感じたのではないでしょうか。昨日の会見でも、「政権を支える」という意気込みのようなものが伝わってきました。所を得て、もうひと花もふた花も咲かせてやろうという気持ちではないかと。

 もともと、安倍首相との関係はよく、現在、集団的自衛権問題などを審議している政府の安保法制懇のメンバーとなっている葛西敬之・JR東海会長も、与謝野氏が安倍氏に紹介したとされます。葛西氏ら財界関係者が、「気鋭の若手政治家と話がしたい」と与謝野氏に頼み、与謝野氏が連れてきたのが安倍氏でした。

 そして、与謝野氏は何といっても財務省をはじめとする官僚に顔が広く、人望があるのです。これに、どういう意味があるか。安倍政権は官僚の天下り規制を強化し、能力・実績主義を導入する公務員制度改革を進めていますが、これは現在、省庁側の大きな抵抗にあっています。で、今までは官僚サイドと衝突することが多く、政治家側が「自爆テロ」と呼ぶ官僚サイドからのリークの類も相次ぎました。

 この点、与謝野氏であれば官僚を慰撫、説得しつつ、にらみをきかせることができるのではないかと私は期待しているのです。安倍首相は、公務員制度改革担当の渡辺喜美行革担当相を留任させたので、与謝野・渡辺コンビによる硬軟取り混ぜた公務員制度改革が進展させられはしないかと。もちろん、そうはうまく行かず、逆に政権内に対立が生まれたり、改革の方向性が変わってしまったりする可能性もありますが、それは今後の推移を見守るしかありません。

 また、与謝野氏は中曽根元首相の秘書を務めていたこともあり、中曽根氏と深い関係にある某大部数新聞のトップとも親しいという事情もあります。この某トップは昨年の組閣の際には、安倍氏に対し、与謝野氏を入閣させるように迫ったという噂もあります。さらに、「靖国参拝をやめると言わないと、某新聞1000万部でつぶすぞ」と安倍氏に詰め寄り、激論になったとも伝えられる「大物」です。これは私が勝手にもしかするとそういうこともありえるかな、と思っているだけなのですが、与謝野氏が官房長官である間は、某新聞は安倍政権の倒閣に走ることは考えにくいような気もするのです。これといって明確な根拠はありませんが。

 まあ、上の段落の話は雑談の類ですが、与謝野氏は財政再建論者で、もともと消費税上げやむなし派でしたから、秋の抜本的税制改革論議の際に、調整役としてどのような役割を果たすかも注目ですね。安倍首相は経済成長路線は堅持するとしており、参院選の敗北で弱気になっている与党側と、どういう話が進むのか。あるいは進まないのか。今のところ、与謝野氏は安倍首相をとことん支えるつもりに見えますが…。

 今回の改造内閣名簿を眺めると、17人の閣僚のうち、安倍首相より若いのは初入閣の岸田文雄沖縄・北方担当相の50歳だけですね。当選回数も年齢も上の部下に囲まれて、安倍氏としても、やりにくい部分は当然あると思います。今回の改造人事では、安倍氏は本当に考え抜き、迷い抜き、人相が変わるほどだったとも聞いています。私は、昨年9月に小泉前首相に同行してフィンランドに行った際に、小泉氏が記者に語った言葉を思い出しました。

 《記者 (後継首相となる)安倍氏に、人事で何かアドバイスする気はないか

 小泉氏 アドバイスする気はありません。人事の苦しさ、分かりますよ、これから。みんな人事権者というのは、楽しいんじゃないかという人がいるけど、とんでもない。つらいことですよ。苦しいことですよ。多くの人が希望を持つが、望みをかなえられるのはごく一部の人しかいない。これは苦しいことですよ。それは指導者の避けられない仕事ですから。人事と政策、この難しさに耐えて。》

 今回の人事でも、入閣がゼロだった谷垣派の適齢期議員をはじめ、自分の思惑と異なる結果になった議員たちから、いろいろと不満が噴き出しているようです。みんなが納得する人事なんて、未来永劫ありえないでしょうにね。増して、政治家というのは、みんな一国一城の主と言えば聞こえがいいですが、「俺が俺が」体質の人が多いのでどうしようもありません。

  でも、この改造内閣が「失敗」だとなれば、安倍政権は今度こそおしまいです。そしてそれは、単に安倍政権の終わりにとどまらず、自民党崩壊の序曲となりかねません。自民党自体がどうなろうと私が気にしなくてはいけないことではありませんし、それがすっきりとした政界再編につながるのなら、それはそれでいいとも思います。ただ、結果として日本の政治全体が停滞し、政策も何も進まないような状態になっては困ると考えています。わが国に、これ以上、時を失う余裕があるとは思えません。

 早速、明日あたりから新聞、テレビ各社の世論調査結果がぽつぽつ出てくるようです。その数字と、分析に、半ば眉につばをつけながらも注目してみたいと思っています。