実はちょうど1カ月ほど前、評論家で元台湾総統府国策顧問の金美齢さんから電話があり、「私が送った本は届いたかしら?あなたのブログで書いてよ」ということでした。ちょうどその日、会社でその本を受け取ったばかりだった私は「はい、承知しました。ただ、予定している他のエントリがあるので、すぐにはとはいかないかもしれません」と簡単に引き受けたのですが…。

 私が四の五の言ってぐずくずしているうちに、10月27日に産経抄がこの本を取り上げました。で、似たようなことを書くのも何だから、少し時間を置くかと思っていたら、今度は11月4日には、このイザの記者ブログで古森記者が「金美齢さんの亡夫・周英明さんへの想い-新刊書『夫婦純愛』から」というエントリを立ち上げました。これでまたしばらく書きにくくなったというわけですが、要するに私はもたもたしているうちに出遅れ、いま追いかけ記事を書いているというわけです。古森記者が表紙の写真をアップしていたので、私は裏表紙を紹介します。帯に書かれた金さんの文章が、そのまま内容を示してくれています。

 

  外務省記者クラブの私の机上はとても散らかっていて、うまく写真を撮るスペースがとれないので開き直ってパソコンの上で撮影しました。表紙の写真はウエディングドレスでしたが、裏表紙は和装ですね。私は昨年11月に亡くなった金さんの夫で、東京理科大教授だった周さんとは、数年前に金さんのホームパーティーに招かれたときに挨拶した程度で付き合いはごく浅いのですが、その際もとても温厚そうな方だなと感じたのを覚えています。

 さて、肝心の本の内容はというと、同じ台湾からの留学生として金さんと周さんが出会うところから結婚、同志としての会話、家族との生活、そして闘病と悲しい死別に至るまでのさまざまなエピソード、夫婦の歴史が記されています。これは、全編、金さんから周さんに宛てたラブレターだと感じました。 詳しくは直接お読みいただいた方がいいと想いますが、亡夫がいかに素晴らしい人物であったか、得難いパートナーであったか、その大切な人を失った現在の想いが、「私たち夫婦は結ばれたその日からずっと二人でひとりだった」「私は、周英明ほど率直で純粋な人を知らない」などと金さんらしい率直な筆致でつづられています。

 プロローグの部分から、「どうして普通の夫婦の間にも真の愛情が成り立つということを、誰も書かないのかと思っていた」と直球が飛んできて、思わず引き込まれました。また、「悲劇の主人公というのは、優れた人間でなければその資格がない」などと、警句のような真実をうがつ言葉が散りばめられていて、金さんと直接会って話を聞いているような気分になりました。

 また、「台湾独立を叫ぶ台湾人は国の内外を問わず命がけだった。留学生として国外で同様の運動をすれば、パスポートを剥奪され、二度と祖国の土を踏むことはできなかった」「周と私、全く性格が違う二人がなぜ夫婦となって、生涯をともにすることができたかといえば、同じ祖国を持ち、政治理念がまったく一緒だったということに尽きる」「日本人はそんなこと(政治的アイデンティティなど)を考えなくてすむからだ。日本人であることになんの疑いも感じないからだ。考えないですむからこそ、その重みも、大切さも考えないですむし、一般には考えようとさえしないだろう」…といった文章からも、夫婦が真摯に互いに向き合い、互いを必要とした姿がうかがえます。

 私がこの壮大なラブレターの中で特に気に入った部分は、こんなところです。とても素敵な表現だと感じました。

 「率直な彼は、私たちが出会った最初から、なんでもぬけぬけといった。女たらしのプレイボーイがいうような甘い言葉、殺し文句を私はどれほど聞かされたか分からない。
 でも、それは決して彼が計算でいうのではなく、駆け引きなしに純粋に思ったことをいっているのだと、私にはわかった。そして、私の中の生意気さが、そんな彼に敬意を持ってしまった。だから、私は結婚したのだ」

 ご一読をお勧めします。本のタイトルがすべてを表しています。…というところで、全然関係ない写真を一枚。晩秋から冬にかけての風物詩だなあと思ったもので。あんまりきれいな川ではないので恐縮です。