私は11月8日のエントリ「『マスコミの誤報を正す会』の記者会見に行ってきました」の中で、正す会が沖縄の集団自決問題をめぐる県民集会に関し、報道各社に送った公開質問状について取り上げています。正す会に問い合わせ、その質問状に対する各社の回答を入手したので、きょうはそれを紹介したいと思います。何かの参考になるでしょうか。まずは、質問状の内容を再掲します。

  《一、9月29日の沖縄県民集会について貴紙の第一報では、「主催者発表によれば11万人」「11万人(主催者発表)」などと報道されたと認識しておりますが、間違いございませんか。
 二、しかし、この数字は、東京の警備会社テイケイの調査によって、実際は2万人以下であることが疑問の余地なく立証されたと考えますが、貴紙のご見解をお聞かせください。
 三、2万人の集会を11万人と報道することは明らかな誤報であり、しかもその誤報による数字が現実に教科書検定への政治介入を招いた事実に鑑みて、何らかの訂正が行われるべきであると考えます。すなわち、①訂正記事を出すか、②独自の検証記事を出すか、③上記警備会社の調査を報道・言及・引用するなどして、読者の誤解を解くことが報道機関の責任です。貴紙は、上記①、②、③のどれかのフォロウをなさいましたか。
 四、上記のフォロウがなされていないとしたら、報道機関としての読者に対する責任を放棄したものと考えますが、貴紙の見解をお聞かせください。また、私どもとしては、そのフォロウを早急に要請いたします。この点に関する貴紙の方針をお聞かせください。(以上)》

 これに対する各社(私が把握している範囲)の回答は以下の通りです。まあ、予想通りではありますが、木で鼻をくくったような、他人事のような回答が多いです。それでも、きちんと答えただけいいとも言えますが。まずは、11万人説には強い疑問が示されていることについて言及していた産経と読売から。

 ・産経新聞社(編集局長名)
  〔質問1〕   間違いありません
  〔質問2〕   テイケイの調査については、10月24日産経抄などで紹介しています。
  〔質問3〕   10月7日付朝刊1面で「『11万人』独り歩き・参加者は『4万人強』」との独自の検証記事を掲載しています。
  なお、貴会の活動については、11月9日付朝刊政治面で報道しております。

 ・読売新聞社(広報部長名)
  【質問1への回答】   読売新聞の第一報(9月30日付)では、「約11万6000人(主催者発表)が参加し」と報道しています。
  【質問2への回答】   読売新聞は11月3日の社説「沖縄集団自決 禍根を残しかねない政治的訂正」で、主催者発表の参加者数について取り上げています。その中で、「県民大会の俯瞰写真に写っている参加者を1人ずつ丹念に数えた東京の大手警備会社は、1万8000~2万人と指摘している。主催者発表の5分の1以下だった」と記し、政府がこの県民大会を契機に教科書会社の訂正申請に対し方針転換したことに疑問を提起しています。
  【質問3への回答】  読売新聞では上記の社説に加え、10月26日夕刊のコラム「とれんど」でも、丸山伸一論説委員が警備会社の調査に言及して、「11万人」という数字の問題性を指摘しています。

 …上の2紙は個別の質問に回答していますが、その他の社はひとまとめにして同じような答えを出してきています。私はつくづく思うのですが、メディアは誤報や捏造を犯さなくても、「報じない」という不作為によって、事実を歪めていくものなのでしょうね。編集権や報道の自由を盾に、閉鎖された言論空間をつくって。

 ・東京新聞社(中日新聞東京本社、編集局長名)
  9月29日に沖縄県宜野湾市で開催された沖縄県民集会について、本紙は「約11万人(主催者発表)が参加し、」と報じました。これは本紙が加盟する共同通信からの配信記事を掲載したものです。記事中にあるように、これは「主催者の発表」を受けてのものと理解しています。

 ・共同通信社(編集局長名)
  本年9月29日に行われました「沖縄県民大会」の報道に際し、弊社は主催者発表に基づき「11万人」としました。当日は警察発表がなく、主催者が発表した数字を「主催者発表」と明記して記事化しました。

 ・毎日新聞社(社長室広報担当名)
  9月29日の沖縄県民大会については主催者発表として約11万人という数字を記載しています。警察発表はありません。主催者発表の数字を記事化することは、このケースに限らず、一般的に行われています。

 ・朝日新聞社(広報部名)
  沖縄県民集会への参加人数につきましては、警察など第三者によって公表された数字がありませんでしたので、紙面では主催者発表の数字として「11万人」と報道しました。

 ・NHK(広報局名)
  9月29日に沖縄県で開かれた教科書問題の大会の参加者数については、取材にもとづき「主催者側の発表で」と出所を示して報道しました。ほかの質問・ご指摘については今後の取材・放送の参考にさせていただきます。

 …東京、共同、毎日、朝日、NHkの各社は、正す会の二、三、四の質問は無視か誤魔化すかして回答していません。確かに、最初の段階で主催者発表に頼らざるをえなかったのはある程度仕方がないと思いますが、その11万人という数字が政治問題化し、教科書検定への政治介入を招いている現実をどう考えているのか。主催者がテイケイの調査のように、当初から「参加者は約2万人」と発表していたら、こんな騒ぎには絶対になっていないのですから、この県民集会報道では数字こそが焦点であるのに、その後のより確からしい情報は報じる気はない、と公言しているかのようです。

 結局、この5社は、政治信条・思想的に教科書に沖縄集団自決における日本軍の強制が盛り込まれた方が都合がいいので、テイケイの調査(報道各社にも直接送付されているはずです)はなかったことにしようというわけですね。特に1面大見出しで「11万人」と報じた社は、せめて異説があることぐらい紙面で押さえておくべきだと思いますが、そういう誠実さは最初から持ち合わせていないようです。もちろん産経だって、事象によって扱いの強弱・大小や傾向性があることは私も認めますし、それが報道機関としての個性だとも思います。ただ、今回の事例は報道機関の「恣意性」が非常に分かりやすく、しかも有害な形で表れたなと思います。各報道機関がタテマエ上、県民集会に対しても公正・中立な立場を装っているだけにです。

 ちなみに、話は飛びますが「誤報」つながりで、日頃思っていることを記します。新聞記事には、「飛ばし記事」と呼ばれる確定していないことをまるでそう決まったかのように書くスタイルがあります。「政府は●日、なになにする方針を固めた」などと書いてある場合、事実そうである場合と、本当は「政府内にはそういう意見もある」や「これまでの流れと状況証拠からそうなるんじゃないかな」という程度の裏付けしかないもの、あるいは「今はどうだか分からないけど、一時期そう決まっていたからいいや」的ないいかげんな記事もあります。これは同業者、特に担当部署が同じ記者なら、読めばある程度分かりますから、他紙はまず追いかけ記事は書きません。「また◎紙はいい加減な記事で飛ばしてやがる。あそこは事実かどうかより先に書くかどうかだけが社内で評価されるんだろうな」などと話し合うこともあります。

 一方、本来ならば周囲によって幾重にもブロックされているはずの中枢から直接出た情報をもとにしているケースなど、記事がディープすぎる場合もいろいろと難しいところがあります。よくインターネット上の議論などで「あれは一紙だけしか書いていないし、よそが追いかけないから与太話なのだろう」という意見を見ますが、追いたくても追えない、そもそもどこのだれに記事の真贋を確かめたらいいのか分からないという類の記事もたまにあるのです。また、この手の記事は当局に否定されがちです。でも、記事に関係する政治家や省庁が「記事は間違い」とそろって言っても、本当は記事の方が正しく、関係者が口裏を合わせて否定しているという場合もあるのです。一般的に当事者が否定した場合、記事が間違っていたと感じる人が多いようですが、当事者には否定しなければならない「言えない事情」があることも少なくないでしょう。平気で嘘をつくタイプの人もいますし。

 何が言いたいかというと、新聞(まあテレビもそうでしょうが)の情報は、玉石混淆であるということです。どれが玉でどれが石か見分ける専門知識のない人や、そんなことをやっている暇はないという人に自分で判断しろというのは無理な話ですし、そもそも新聞が市場に流通する商品としては甚だ不完全なものであるということを公言するようでナンなのですが(※弊紙は比較的マシだと自負しています)。また、石が混じっていようと、新聞がなくなってしまえば表に出ないような情報も掲載されているのも事実なので、なんとか新聞をお見捨てくださらないようにお願いします。変なオチになりましたが、最近は同僚と一杯やると「会社はあと何年もつのか」という話題になることが多く、だれも明るい見通しを示せないもので。