チベットのラサで起きた僧侶らによる大規模騒乱事件に関して、きょう午前、安倍前首相がチベット出身の政治学者で、この事件を中国による「文化的虐殺だ」と非難しているダライ・ラマ14世の信頼が厚いペマ・ギャルポ氏(桐蔭横浜大国際交流センター長)と会談しました。親中派の福田政権下で、政府・与党のだれもまともにこの問題を論じないのを見て、日本の政治家として意思表示をし、日本の姿勢を発信してみせようとしたのでしょうか。日本の前首相の行動だけに、中国側はさぞや嫌なことでしょうね。

 私は今回、直接取材に行けなかったので、例によって同僚記者の取材メモをもとに会談内容を紹介します(会談に対する記事はすでにイザニュースにもアップされています)。会談は、衆院第一議員会館で行われ、
下村博文、萩生田光一、稲田朋美の各衆院議員が同席したそうです。会談全体はクローズとされましたが、冒頭部分は報道陣に公開されました。まずはその部分です。

 

 《ペマ氏たぶん中国からの本当の弾圧はこれからです。活動に参加した人とか、別件逮捕でこの際、全部一緒にぶち込むのというのが中国の魂胆だと思うし、おそらく北京オリンピック前にわざわざ今回挑発して、それでおそらく戒厳令か何かを敷いて、なるべく外の人を入れないというのが本当の魂胆じゃないかと思うんです。ただ世論が、特に外国からの声がありますので、まあ、そういうことができるかどうか

 

 安倍氏:今ペマさんは、なかなかチベットには行けないのですか

 

 ペマ氏:行けないですね。昨年、申請したんですけども、3日前になって、「ダライ・ラマに近いから」という理由で(当局は)断ってきたんです。今まで49年間、毎年私も毎年3月10日なると、国内外でデモとかあったんですが。今年は特に、一つはオリンピックを通して、やはり中国はチベットを最終的に中国の問題にしようして、聖火ランナーにチベットを通過させ、それからオリンピックのマスコットの4匹のうち2匹にチベットの動物を使っている。
 それから、あとは経済改革の名の下で、例えば鉄道が延びましたけども、この鉄道はチベット人にとってはむしろ非常にマイナス要素が多くて、軍事的には中国がいつでも入ってくるし、それから中国人の定住者が増えて、経済的にほとんど中国が搾取するような状況になってきていて、それでああいうふうに中国の店なんかに危害を加えたと思うんです。
 ただ、北京政府はダライ・ラマ法王が外から何かやっているようなことを言ってますが、計画的であれば、民衆は最初から石とか武器を持っていたはず何ですけども、そうじゃなくて本当は中国の方から最初に、発泡して、それから中国の軍用トラックがつっこんできて、それに対して民衆が衝動的に参加してしまったのが、本当のところだと思います。

 

 安倍氏世界の目が、届くようにしていくことが大切です。ですから、世界のプレスを、報道をチベットに受け入れるように、中国側に働きかけていかないといけない

 

 ペマ氏:今回、先生方がマスコミの前で会ってくださることだけでも、チベット人にとって、そしてダライ・ラマ法王が平和的に解決しようとしていることに対して、大きな力になります。残念だけど、日本は特に中国といろいろ関係があって、他の先進国に比べたら、多少中国問題に対して表現できない部分があったと思うんですけども、先生方がこうやって関心をしめしてくださることだけでも、大きな力だと思います。法王も大変喜ばれると思います。(マスコミここまで)》

 …安倍氏が言っているのは、ダライ・ラマ14世が国際調査団の派遣を求めているのに対し、中国外務省の報道官が「中国はこの問題を解決する能力と自信がある」と強調し、国際調査団の受け入れを事実上、拒否したことへの反論でしょうね。この件については、高村外相も今朝の記者会見で、北京五輪をボイコットする考えは「ない」とした上で、「なるべくオープンにして、『確かに中国側の言う通り、中国は乱暴なことはしていないな』と、国際社会が分かるようにした方がいいのではないか」と述べています。まあ、中国が「乱暴なこと」をしていないわけがないと思いますが。

 安倍氏とペマ氏の会談は約30分間行われ、その後、ペマ氏は記者団に次のように語りました。
 

 《記者:安倍前総理とはどのような話をしたのか

 ペマ氏:私の方からは、もちろんこれはチベット問題といっても、アジアの問題であり、世界の問題であって、世界各国の首脳あるいは外務大臣級の方々、それから国連も関心を示していますし、そういうことの今の現状をご報告申し上げて、安倍前首相から関心を示していただくようにお願いした次第であります。

 

 記者:情報が限られており、何が起きているのか分からない部分もあるが、ペマさんとしては今どこが問題だと思いますか

 ペマ氏:基本的には、過去半世紀以上、中国が一方的に抑圧的な政策をやっても、これがチベットの人たちの心をつかんでないというところだ思います。ですから、最終的には、中国自体が過去50年以上の政策を変えて、ダライ・ラマ法王と何らかの形で話し合いをしない限り、この問題は次の50年、100年も同じだろうと思っています。

 

 記者:日本政府に何を期待しますか

 ペマ氏:日本政府は中国との関係においては他の国よりも、いろいろ事情があると思うんですけども、しかし、このチベット問題、人権問題、民族自決権などについては世界全体の普遍的な価値観であるはずなので、それに対してダブルスタンダードになってはならないと思う北朝鮮に言えることが何で中国に対して言えないのかということを私は日本政府に申し上げたいですね。

 

 記者:もう少し毅然とした対応をしてほしいと

 ペマ氏:もちろんそうですね。別に中国に対して私も含めて、敢えて挑発する必要はないと思いますけれども、しかし、今行っている悪事に対して無関心であることは、マハトマ・ガンジーの言葉を借りると、それは荷担することになる。ですから、やはり日本政府も、今、特に今日あたりからチベットの一般大衆に対して中国側から、デモ参加者などの理由で、さまざまな圧力がかかって、牢屋にぶち込まれる人が多くなると思うんです。そういうものに対して、本当に人権が人類共通に値する価値観だということであれば、やはり日本政府も強い談話をぜひとも発表していただきたい思っています。

 

 記者:北京オリンピックの対応についてはどうするべきだとお考えか


 ペマ氏:オリンピックは本来は平和と聖なる祭りだと思うんですね。それが中国のやり方次第では血の祭り」になる可能性もあると思います。中国政府は残念ながら、北京オリンピックを政治の道具として使っている。例えば、わざわざチベットまで聖火ランナーが行ったり、チベットの動物をオリンピックのマスコットに使っているということは、中国のチベット支配を正当化するために、既成事実をつくるためにやっている。やはりそういう意味で中国は一日も早く、オリンピックはあくまでも正々堂々と人々が競う場であって、平和の祭りである。それを政治のために使うことはやめてもらいたいと思う。

 

 記者:日本をはじめとする先進国は、人権の意識があるなら、北京オリンピックをボイコットすべきとお考えか。

 ペマ氏:ボイコットするか、しないかということは、それぞれの人の良識の問題だと思います。特に一生懸命がんばって練習している人たちにとっては非常に気の毒なことだけど、しかし、一人の名誉、名声とそして人類の多くの人たちの生きる権利、どっちが重いかということを考えて判断してもらえればいいことだと思います。》

 

 ペマ氏の、抑制的ではあるけれど、しかし同時に中国政府に対する強い怒りがにじみ出ているようなコメントでした。中国政府によるチベット支配、漢民族の土地化をまるで礼賛するかのような特集番組を制作してきた某公共放送には本当に反省してもらいたいと、さきほど国会でこの公共放送の予算案の審議がなされているのを横目で見ながら考えました。さて、次は、安倍氏自身による記者ブリーフです。

 

 《安倍氏:今、報道が規制されている中で、大変な人権の抑圧がなされている。死者の数は実態はもっと多いのではないか、と心配しているという話でした。やはり世界各国調査が入ること、あるいは世界のプレスが入ることが、そうした当局による行きすぎをチェック、阻止することにつながるので日本も協力してもらいたいという話でしたので、私もしかるべき話をしておきましょうと。政府にね、また個人的にも協力しましょうということを申し上げました

 ペマさんは、日本の人たちにもよく理解をしてもらえるように、議員として活動をしてもらいたいとのことだったので、稲田朋美がやっている「伝統と創造の会」(保守系若手議員有志の会)でも緊急の会合を開いてペマさんの話をうかがうということだった。

 私の方からは、中国はオリンピックを開催することが決まっているので、オリンピック開催国に相応しい対応をしてもらいたいと思っていると申し上げた。価値観外交を私も総理として展開してきたので、自由と民主主義と基本的人権と法の支配をしっかり構築する。この世界の普遍的な価値をアジアの中で広げていくべく日本もリーダーシップを発揮する外交を展開しているので、この問題もその一環の中で、チベットに住む人たちの人権が確保されるように努力していきたい、という話をしました。

 

 記者:ペマさんからオリンピックをボイコットすべきだという話はなかったか


 安倍氏:その話はなかったですね。まあ、時間もあまりなかったんで、今の現状についての説明でした。》


 …安倍氏が掲げた「価値観外交」、また麻生元外相が提唱した「自由と繁栄の弧」は福田政権になってすでに 投げ捨てられ、福田首相は代わりに「共鳴(シナジー)外交」とやらを打ち出しています。他民族を侵略して無理矢理版図に組み入れ、自治区とは名ばかりの中央支配と伝統・文化の破壊を繰り返してきた国との共鳴を目指してどうするのか、本当にわけがわかりません。もしかしたら福田氏は、自由と民主主義を否定して新たな秩序を打ち立てたいという大きな野望でも持っている…わけないですね。

 そういえば昨日、自民党の伊吹幹事長は記者会見で、各種世論調査で福田内閣の支持率が下げ止まらないことについて、「不支持の大きな原因はたぶん、指導力がないということではないか」と、はっきり認めてしまいました。伊吹氏は続けて「参院で(与党議席が)過半数に達していないので、円滑な政権運営ができない。今のような参院の状況では、誰がやってもそのように映る」と付け加えましたが、正直な気分が言葉に出てしまったのかもしれません。

 でも、最近の世論調査を見ても、下落傾向は続いているとは言っても時事通信(7~10日調査)で30.9%、共同通信(15、16日調査)で33.4%と、まだ何とか3割ぐらいは福田内閣を支持している人がいるようです。私にとって、この「とてつもなく高い支持率」は本当に謎に思えます。日本社会は実は得点主義ではなく減点主義の社会で、「何もしない、何もできない」ということは、意外と評価を低くすることにはつながらないのかと、ふと、そんなことを考えました。