本日は久しぶりに民主党の小沢一郎代表について書いてみます。小沢氏が17日に北海道釧路市で行った講演について、18日付朝刊での新聞数紙が取り上げていました。産経が一番扱いが大きく2段見出しで「チベット問題 小沢氏『中国は変化を』」、読売はミニニュースで「中国は自ら変化を」、日経も同じく「小沢氏『中国は変化を』」、朝日はベタ記事で「中国の対応を小沢氏が批判」…という風で、みんな小沢氏が共産主義独裁と政治の自由の矛盾を指摘した部分を取り上げていました。

 それはそれでいいのですが、私は小沢氏の講演メモを読んでいて、天の邪鬼であるせいか、別の部分が気になりました。それは、小沢氏が「拉致問題は解決しっこない」と語った部分です。これは、「北朝鮮に言ったって」という条件をつけた上での発言ではありますが、正直なところ「よくもそんなことが言えたものだ」と少し反感を覚えたのでした。以下、小沢氏の講演の関連部分を掲載します。
 

《となりの中国。チベットの問題が発生した。このチベットは古来から何千年前からの民族闘争の歴史の中にあるが、民族問題だけではない。やはり中国の政権がかかえている矛盾がその民族問題を契機として持ち上がってきたということだ。だからチベット問題も台湾問題も、新彊のウイグル自治区という西の地域がある、あるいはモンゴルでもそうだ、満州でも言えばそういうことになるが、そういう民族問題と同時に、いわゆる社会主義的市場経済と中国は言っているが、市場経済というのは自由な取引を原則とする。そうですよね。自由に売ったり買ったりできるということだ。そして、この経済の自由化というのは結果として政治の自由化を求めることになる。共産主義独裁の政権と政治の自由というのは原理から言ってなりたたない。私はこのことを中国の指導者のみなさんにも言っている。「本当に中国共産党政権が時代の変化に応じて生き延びようとするならば、その変化に応じた、自分自身が変化しなければならないんだ」ということを言っているが、それはそれとして、この極東、日本の位置する北東アジアはようやくチベット問題で、みなさんが「おや」と認識されたと思うが、非常に不安定な状況下におかれている。

北朝鮮の拉致問題、北朝鮮の問題もしょせんは中国問題。いくら北朝鮮に言ったって、日本なんか相手にしないとは向こうも言っているが、拉致問題なんて解決しっこない。北朝鮮問題というのは中国問題だ。中国は朝鮮半島の現状維持をその国策にしている。金正日の今の政権を良いとは思っていなくても、それを変えようという気はない。

しかしながら、この中国が経済的にも、米国経済の後退と同時にちょっとおかしくなるのではないかと言われているが、結果として中国の政治経済的混乱は政治的動乱につながる。中国の政治的動乱の前に、北朝鮮、朝鮮半島の動乱につながるというのが私のずっと前からの考え方だ。そういう状況になりかねない、このわれわれ日本の位置する極東だ。ですから、日本の政治をまず本当にきちんとしたものにしなければいけない。》

 現在も中国が北朝鮮に対し、そんなに強い影響力を本当に持っているかどうかは少し疑問ですが、それはともかく、ここで思い出したのが、安倍前首相が靖国に参拝するともしないとも言わない「あいまい戦術」をとった理由でした。安倍氏は、これを明言しないことで、中国に対して「いつでも靖国には行く用意がある」という姿勢を示してフリーハンドを確保しつつ、拉致問題で中国に最大限の協力をするようプレッシャーを与えていました。実際、安倍政権下では、中国はそれまで伝えてこなかったような北朝鮮と拉致に関する情報を日本側に報告していたそうです。最初から靖国不参拝を明言した福田政権になってそれがどうなったかは分かりませんが。

 また、安倍氏は世界各国の首脳とのすべての会談で拉致問題を取り上げ、理解と協力を求めました。昭恵夫人が約100カ国の在京大使夫人を公邸に招き、拉致事件のドキュメント映画を上映したことは以前のエントリにも書きました。北朝鮮を動かすには、北朝鮮との二国間交渉だけでは難しいのは小沢氏の言う通りだと思いますが、少なくとも安倍政権はそんなことは当然だとして行動していました。それを前提にしても、やはり小沢氏の「解決しっこない」という突き放した言い方は気になります。

 小沢氏のこれらの言葉の中には、当たっていると思う点も微妙に違う話だろうという部分もありますが、私がこれに注目したもう一つの理由は、かねがね小沢氏はずっと政治の表舞台でメインプレーヤーを務めてきた人物にしては、拉致問題に対してどういう発言をしてきたかあまり記憶になかったこともあります。小泉元首相の対北朝鮮外交を批判していたのはなんとなく、覚えていましたが。そこで、産経の記事検索システムで、「小沢」「拉致」の二つをキーワードに検索してみたのですが…。

 結論から言うと、やはり、少なくとも産経の記事になったものを見る限り、小沢氏の拉致問題に対する発言は非常に少ないものでした。1992年から現在までで計131件がヒットしたのですが、そのほとんどは記事の文中に「小沢」「拉致」の二つがたまたま出てくるだけで、小沢氏が拉致問題について何かを語ったという内容ではありませんでした。それでもいくつかは小沢氏の見解が示された言葉がありましたので、それを紹介しようと思います。自民党幹事長を務め、社会党の土井たか子らと訪朝したこともあるご自分のことは棚に上げていらっしゃるようです。

 「北朝鮮は政治、社会体制が特殊な仕組みになっており、拉致事件や軍事的な脅威の問題も指摘することは必要だ」(1997年4月19日の新進党党首としての記者会見)

 「国民の生命、財産を守るという観点から、この問題を取り上げていくことが大事だ」(98年4月1日の自由党党首としての記者会見)

 「(日朝平壌宣言は)拉致、核査察、工作船、テポドンなどの問題が一般論でごまかされている。北朝鮮の言いなりの共同宣言であり、署名すべきではなかった。『はじめに国交正常化ありき』で進めるべきではない」(02年9月18日、小泉首相と野党四党党首会談で)

 「(拉致被害者)5人の家族が帰るかどうかについてはいい結果を望んでいるが、そのことが問題ではない。首相、政府が、国民の生命を守り得なかったことへの反省も何もなく、さらわれた人をただ『お願いだから返してください』というバカな国家は日本だけだ。(小泉首相は前年9月の日朝首脳会談で)北朝鮮から『(核開発は)日本など関係ない』とはねつけられて黙った。すべて表面上のパフォーマンス、人気取りに政治の主眼が置かれ、中身は何もない」(03年1月13日の自由党党首として講演で)

 「(経済制裁は)北朝鮮はそれを宣戦布告とみなすと言っている。アルカーイダどころではない国家テロ組織だ。(制裁を加えれば)日本国内でテロを仕掛けてくる。(制裁には)北朝鮮によるテロと断固と戦う覚悟や決意が必要だ」(04年2月17日、民主党の代表代行としてラジオ番組で)

 「(北朝鮮の核実験を受けた日本国内の核保有検討論について)残念に思う。ひと昔前ならハチの巣をつついたような騒ぎになっていただろうが、拉致問題の流れの中で、何となく国民がそれを受け入れてしまう風潮にあり、一抹の危惧を覚える」(06年10月27日、民主党代表として訪中、呉邦国・全人代常務委員長との会談で)

 …これらも肯ける内容もあれは、それは違うと思うこともあります。特に対北経済制裁に関しては、小沢氏はいろいろなところで「そうなったら戦争になる」と警告していましたが、今のところそうはなっていませんね。核保有検討論に対する発言も、自分の過去の言動をすっかり忘れているかのようです。まあ、そういう人なのでしょうが。ずいぶんと「上から目線」で他者を批判していますが、特にはっとさせられるような見識も感じられませんし、拉致問題解決に向けたアイデアが何かあるわけでもなさそうですね。もしそんな程度であるならば、私は小沢氏に「解決しっこない」なんて冷笑的な言い方をする資格はないように思いますが、どうでしょうか。