きょうは、北京五輪開会式の不参加を呼びかけている「国境なき記者団」のロベール・メナール事務局長が、いよいよあすに迫った長野での聖火リレーに合わせて来日します。長野では、中国による五輪開催に反対する横断幕を掲げるなどして抗議活動を行うとみられますが、長野に多数(2000人?)が集結するとみられる中国人留学生らの反応も懸念されます。聖火リレーに関しては、弊紙も多数の記者を現地に派遣して手厚い取材をする予定ですが、さて、どんなリレーになるのでしょうか。

 このメナール氏の来日をめぐっては、今朝の閣議後の記者会見で、鳩山法相は「上陸拒否に当たる方だとは思っていない」と述べ、受け入れる考えを示しました。また、福田首相も閣議後、鳩山氏に対し、「日本は開かれた国なので入管の原則に従って粛々と(進めてほしい)」と語り、通常の入国審査で臨むよう指示しました。ええ、至極真っ当で当たり前の話です。これだけを見ると、政府も中国の圧力に負けず、きちんとした姿勢を保っているように感じられます。

 でも、実はここに至るまでの過程では、政府はなんとかメナール氏の入国拒否ができないものかと方途を探り、法務省にも検討させていました。法制度上、どうしても拒否できなかったので、最後に格好を付けたというのが実際のようです。ですから、そんなにほめられた話ではないのです。今月21日には、福田氏に近い政府筋が記者団にこう本音を漏らしていました。

 「できるなら日本に入れたくない。(入れないと批判があるだろうが)メナール氏が何か起こしてしまった場合を考えると、どっちがいいかだ」

 これが、福田氏本人の意向を直接受けての言葉かどうかは分かりません。そうであっても不思議はありませんが、トップを取り巻く部下たちが、トップの考えを先取りして実行し、歓心を買おうとすることはよくあることですから。ただ、いずれにしろ、この政府筋の入国拒否を探る考えは非公式に法務省側に伝えられ、法務省も過去の事例などを調べていろいろ検討したようです。それは、24日の自民党津島派総会での、鳩山氏の次のような言葉にも表れています。

 「国境なき記者団の入国規制の議論があるが、入管法には、私、法相が特に事情があるときに認めないことができるとある。ただ、戦後をみると、昭和30年代に1度あるが、それも閣議了承がさなれている。そういうことを勘案すると今回は相当厳しい

 この入国拒否は「相当厳しい」という言い方には、本心では拒否したいのだが、というニュアンスが表れていますね。喜んで受け入れるのであれば、こういう表現にはにりません。また、津島派の会合でわざわざこの話を持ち出し、こういう言い回しで説明するということは、「津島派のみんなも同じ、なんとか拒否できないかという気持ちだろうが」という含意が透けて見えるように思います。急遽とりやめになりましたが、当初はこの派閥の小坂憲次元文部科学相が聖火リレーで走る予定だったこともあるかもしれませんが。

 そしてこの件は、こうした外交がからむ問題に関しては、これまた当然のことながら、政府内が一枚岩ではありえないということも示しているように思います。上に記した政府筋のように、迷うことなく「入れたくない」という人もいますし、この問題に関する閣僚らの発言を読むと、最初から原則に従って入れるべきだと考えているらしき人もいます。新聞もテレビも私も、簡単に「政府は」と主語に使っていますが、その中でも意見の対立・相違や葛藤、駆け引きは常にあり、最終的になんとか一つの方向性を出しているに過ぎません。

 そのバラバラな考えや思惑を一つにまとめる代表的な方法が、閣議決定ですし、また何より首相のリーダーシップでもあるのですが、福田首相に関しては「首相を支持すると言っている人が首相を信用していないから困ったものだ」(自民党幹部)という状況です。民主党について、頭がたくさんある「ヤマタノオロチ」だと言った政治家がいましたが、自民党にはもしかすると頭自体がろくに存在しないのかもしれません。

 さて、このメナール氏をはじめ、長野で予想される抗議活動や北京五輪反対の横断幕、プラカードの類について、外務省は中国側に「日本は民主主義国家なのだから、そういうものがあっても仕方がないだろう」と説明しているそうです。中国側のメディアは、おそらく横断幕などは映らないように映像をとるか、映ってしまったらカットして本国では流すのでしょう。まあしかし、本当に必要かどうかその意義も目的もよく分からない聖火リレーなんかのために、世界中が大騒ぎしている現状もなんだか空しいですね。国際社会が成熟にほど遠い、むしろ野蛮で力がものをいう前近代的社会であり続けていることが、改めて浮き彫りになった感があります。

 何にしろ現実を直視することは大事ですから、このカラ騒ぎも、国際社会と中国という国の現実に目を向けさせたという点ではよかったのかもしれませんが…。夕刊当番をしながら急いで書いたため、このエントリが説明不足になっていたらごめんなさい。本当は、福田首相に五輪開会式不参加を求め、日本政府の人権問題への及び腰の対応に苦言を呈したメナール氏の発言なども紹介したかったのですが。