古森義久記者のブログ「ステージ風発」の27日付のエントリ「国会議員203人がアメリカの政府と議会に緊急要請--北朝鮮問題で」に先をこされた形ですが、昨日開催された拉致議連緊急役員会について報告します。米国による北朝鮮のテロ支援国家指定解除の動きがいよいよ本格化してきたことを受けて招集されたもので、米国に対し、「核と拉致の両面で無原則な対北譲歩をしてはならない」という緊急決議を承認しました。その全文については、古森記者のブログに掲載されていますので、ここでは省略します。

 昨日の役員会の出席者は、平沼赳夫、古屋圭司、安倍晋三、中川昭一、高木毅、稲田朋美、西村真悟、松原仁、原口一博、鷲尾英一郎、中川義雄ら(いずれも敬称略)です。次に、役員会終了後の記者ブリーフの様子を紹介します。

 

 《古屋事務局長 今日は緊急役員会を開会した。アメリカの動きが風雲急を告げており、テロ支援国家指定解除のハードルがかなり下がってきているんではないか。われわれ拉致議連として11月にも訪米し、しっかり釘を刺しましたし、また五月には松原議員も代表で行っていただいた。やはり議連の意思として、はっきり議会関係者にわれわれの考えを再度伝える必要があるだろうということで、みなさんにお配りした日本語の趣旨(決議文)で決議をして、総会にかける時間がないので、役員会で今承認をいただいた。
 若干修文があるが、これを英訳して議会関係者、上下両院議員関係者にすぐ届ける。それから、シーファー大使にも平沼会長から直々に申し入れをさせてもらうということで、了解をいただいた。早速そういう手配をする。その後いろいろみなさんから意見があり、拉致議連だけでなく、もう一つの議連ができているということでそれに対する懸念の話があった。そのほか、総会を近々に開き、家族会、救う会連携を強化して、一応了解をいただいた。

 

 平沼会長 今、古屋事務局長からお話しがあったとおり。昨年11月にわれわれワシントンにまいりまして、原則的にアメリカ上下両院政府関係者、あるいはシンクタンク、そういうところに申し入れした。一つは核の無力化といっているけれども、核弾頭だとか、ウラン、プルトニウム、あるいは運搬手段、ミサイル、こういうことが明確になってないじゃないか。寧辺にある核施設を解体して、北朝鮮に積んでおくだけだ、そんなのおかしいよっていうのが第一点。第二点は、テロ指定国会にずいぶん世界の各国をしているじゃないか。北朝鮮の核技術っていうのはシリアに行っているはずだ。で、シリアのは解除しないで、あるいはイランも解除しないで北朝鮮だけ解除するっていうのはおかしいじゃないか。日本とおなじように議会制民主主義の国で、アメリカでは28人の賛同者で、「安易にテロ指定国家、解除すべきではない」という法案まで出している。その法案を見れば、日本の拉致が解決できない限り、テロ指定国家を解除すべきじゃない、っていうことも入っている。アメリカっていうのは、議会の行為を無視するのか、と。
 そして、日米には日米安保条約というのがある。こういうことをあなたたちは軽々にやったら、日米同盟にもヒビが入ることじゃないかと。こういうことを主張しまして、結果的には昨年内にテロ指定国家解除っていうようなことが延びて、現在に至っているが、今またいろいろ動きを見ているとテロ指定国家解除になりそうな気配になってきている。ここは日本としても毅然とした態度を示さなきゃいけない。そのためには早急に役員会を開いて、決議案を彼らにぶつけようということで、皆様方の賛同をいただいた。

 もう一つは、対話を重んずる、そういう議員連盟が動きが始まっている。これに関しては、われわれは原理原則を持って、拉致問題の全面解決をうたって、行動してきた。これに対してはやっぱり毅然とした態度でこれからも進んでいこうということで皆様の合意があった。

 

 古屋氏 政府がそういうスタンスでやっているときに、われわれはそれをしっかりバックアップしているにもかかわらず、違う動きが出るっていうことは北朝鮮から足元を見られかねないということで、懸念の意見がありました。

 

 記者 アメリカの議員にはどういう形で伝えるのか

 

 古屋氏 これはすでに、メール等々で連絡をとっている。それでわれわれがこういう趣旨の決議をするということは、先方は一応は承知をしている。(決議したので)すみやかに向こうに送付する。同時に、シーファー大使にも申し入れをさせていただこうということで、ダブルトラックでやる。

 

 記者 アメリカ国内ではここ最近になって北朝鮮政策を緩和しようという動きが少しずつ力を盛り上げているという認識か

 

 平沼氏 そういう動きが顕著になってきたと。それに対しては、最大の同盟国である日本からしっかりと釘をさしておこうということだ。それは議員ですから、(アメリカにも)いろいろな考えがある人たちがいることは事実です。しかし、そういう安易に制裁を解除すべきではないということで、議員も法案まで出して行動してますから、そういったところには積極的に働きかけるということは日本として必要なことだ。

 

 古屋氏 われわれワシントンに行ったときに、議員外交の重要性を非常に感じた。やっぱり認識している人が非常に少なかった。われわれが行ったことによって、日本がこれだけこういう認識を持っているのかということが分かっていただいた。その結果、今年の五月に下院で法案が通ったんですね。ですからやっぱりそういう一定の効果があると思います。引き続きしっかり議員外交を通じてアメリカの政府に対してもあまり甘くならないように、しっかりあなた達が監視しろよと、これはまさしく同盟関係が一番大切じゃないか、それにヒビが入りかねないんだよということで、議会筋からも政府に警鐘を鳴らしていただく、これが趣旨だ。

 

 記者 一部(※毎日新聞27日夕刊1面トップ)の報道で、数人の生存者を帰国させる用意があると、北朝鮮側が米側に伝えたという報道が出ているが。

 

 平沼氏 それは今初めて聞きますね。

 

 記者 (毎日夕刊のコピーを見せる)

 

 平沼氏 彼らはいろいろ出してくるんだろうなあ

 

 記者 特に政府関係者から平沼先生に連絡は

 

 平沼氏 まったくない。

 

 西村氏 過去、曲がり角、曲がり角でそういう報道ありましたよ。同じパターンです。例えば(拉致実行犯で元死刑囚の)辛光洙。辛光洙の身柄を日本の警察に取り調べさせて、日本に送るという、それでめでたしめでたしという話は一年少々前にもありました。

 

 古屋氏 あったね。

 

 平沼氏 だから政府もそういったところの真贋は見極めて、それで私に報告がないんでしょうね。報告するに値しないと思っているんじゃないかな。今のところないからね。

 

 西村氏 (拉致被害者が)数名帰ってきたら、皆さんも集中報道になりますからね。非常に向こうは、もう一度、戦略的にやっているわけですから、5人の帰国。効果的な手段だと思っているんでしょう。

 

 平沼氏 全員死亡したっていって死亡診断書出してきた国だよな。

 

 記者 最近、こういった報道が相次いでいることについての受け止めは

 

 平沼氏 読売新聞の例もありましたし、それはいろいろそういう画策をしているのかなと、そう思っていますね。彼ら一流の。

 

 記者 北朝鮮サイドが

 

 平沼氏 そうでしょうね。あの、読売の一面の記事だって、中山補佐官が言うには事実無根ですからね。まったく本人にも何も確認なくああいう記事が出ているわけで、それをいろいろ画策しているんでしょうね。そういうことにいちいち我々はきりきり舞いして踊る必要はありませんね。そういういうところは毅然としてないと。議員の中にはそういうことで、一喜一憂しちゃうのがいるけれど、われわれはそういう姿勢はとりたくないと思っています。》

 …ここで話題になっている毎日の報道とは、「北朝鮮が日本人拉致事件に絡み、被害者とみられる日本人について『まだ数人が国内におり、帰国させる用意がある』と米国に伝えていたことが27日、政府関係者の話で分かった」というものですね。これについては昨日夕の記者会見で、町村信孝官房長官が「まったくかかる事実はないし、米国政府からも記事のような内容の連絡を受けたことはない。ちなみに拉致対策本部の者も、あるいは、外務省にも一切取材なしの記事であると。いったいどういう意図をもって毎回、連日事実無根のことを書くのか、極めて遺憾だ」と全面否定しています。かなり激しい口調です。

 私も、某外務省幹部にこの記事について確認をとったところ、「ヒル(米国務次官補)からもそういう話は聞いていないし、ちょっと考えにくい。このところ、読売、毎日と、おかしな報道が続いている。だれかがそういう情報を流して書かせているのではないか。産経は北朝鮮から敵だと思われているから、そういうことはないだろうが、次あたり朝日に変な記事が出る可能性がある。何らかの意図をもって、日本のメディアは質は低いと印象づけようとしていることだって考えられる」と話していました。拉致議連の役員達と同様に、非常に不自然なものを感じているようでした。今後はあるいは、週刊誌なども利用される恐れがありますね。

 ただ、北朝鮮がいずれのときにか、横田めぐみさんら日本政府が認定している拉致被害者ではなく、政府が知らない拉致被害者を数人返してきて、それで「これで最後だ」と幕引きを図るのではないかという観測は、以前からありました。私も、昨年10月27日のエントリ「福田首相と拉致被害者家族の初面会と家族の思い」の中で、次のような有本嘉代子さんの言葉と、私が拉致問題に詳しい元政府高官から聞いた話を紹介していました。その部分を再掲します。

 《嘉代子さん 
下手しよったらね、私らが懸念してるのは、(北が)何人か出してくる感じがするんですよね。そしてその何人かは、案外、特定失踪者から出してくるんじゃないかなと思うんです。今、死んだ人は死んだで押し切ってますでしょ。そこんところは私たちはちょっと心配してます。国民がそこのところまで、マスコミさんが明らかにしてくれてないから、金が北に流れるということを全然理解されてないですからね。国交正常化イコール、莫大なお金が北に流れるということですからね。そこを、マスコミさんがきちっと説明してくれたら…。

 《実は私もたまたま昨日、元政府高官と話をしていて、有本嘉代子さんのご懸念とよく似た話を聞いていました。その話というのは、「福田政権下で北朝鮮は拉致被害者を数人帰してくる可能性がある。ただ、それはわれわれがよく知らない被害者か、(北に家族を人質にとられている)寺越武志さんのような人物だろう。横田めぐみさんは生きているとしても、北には帰せない事情があるのだろうから」というものでした。その上で、あとの被害者は死亡したか、もともといないということにして拉致問題は解決、1兆円規模の対北支援開始ではたまったものではありませんね。》

 つまり、毎日の報道は、北朝鮮の対日工作、戦術としては十分、ありえることでもあると考えています。仮に、北がそういうカードを実際に切ってきたときに、日本国内はそれでも、「これだけではダメだ。拉致被害者全員を帰国させろ」と言い続けられるのか、それとも「北朝鮮もここまで折れてきたのだからそろそろ妥協しようよ」という空気になるのか。一連の報道は、日本政府や拉致問題での原則派の信頼性を揺るがす効果を持っていると同時に、今後の北朝鮮の出方に対し、日本国民がどういう反応を示すかを探るアドバルーン的な役割も持っているような気がします。

 先日発足した日朝国交正常化推進議連といい、相次ぐ奇妙な拉致問題報道といい、明確なことは分かりませんが、いずれも何らかの背景があってのことでしょう。北朝鮮の金桂寛外務次官と米国のヒル国務次官補は、昨日、きょうと北京で2国間協議を行っています。拉致議連などの活躍もあって、対北融和派のヒル氏の立場は、米議会や政府内でも微妙で、ヒル氏の思惑通りにことが運ぶことはないとの観測もありますが、油断はできませんね。そのヒル氏の後押しをし、味方になっている日本の国会議員たちがたくさんいるわけですから。

 拉致問題のように、一時は国民の怒りが沸騰し、本来なら国論が二つに割れること自体がおかしいような話まで、日本では一致した行動がとれません。外交は、世論のバックアップがあるときは強いのですが、世論が二分しているときには弱くならざるをえません。「敵」は国外にいるだけでなく、むしろ国内にあって強大だと思うのです。そうした現状を認め、現実的に対応しながら一歩一歩、物事を前進させるしかないわけですね。だから、私は何度も書いているように、保守派・良識派は小異を捨てて大同につくぐらいの構えでいてほしいと願うのですが…。