きょうは、日中、日韓の外相会談と、日中韓3国外相会談があったので、外務省の記者クラブでこのブログを書いています。この3つの会談については、特別ここで紹介したい話はないのですが、強いて記せば、高村外相が中国の軍事費の突出した増加ぶりとその不透明さを指摘したのに対し、楊外相が「中国の国防政策は防御的なものであり、その透明性は国際社会で広く理解を得ている」と答えたことでしょうか。よくまあそんなことが言えたものだと思うのですが、それを堂々と主張するのもまた外交なのでしょうね。

 高村氏がチベット問題について「世界が中国の対応に注目している」と述べたことに対しても、楊氏は「中国の国内問題である」と公式コメントを繰り返していたようです。まあ高村氏も、そういう返答しかありえないのを分かっていて、釘を刺しているのかもしれませんが。まあ、それはともかく…。

 昨日、政府は日朝実務者協議を受けて、北朝鮮のミサイル発射や核実験、拉致問題などを理由にこれまでとってきた制裁措置の一部を解除すると表明しましたね。福田首相は、仕方なく踏襲していた安倍路線をとうとうかなぐり捨てて、福田カラーを出していく決心をしたようです。来るべき時が来た、という感じがします。特に根拠があってのことではありませんが、「パンドラの箱を開けたか…」とまず、そんなことが頭に思い浮かびました。これは、この混沌の中にある政界に最も分かりやすい対立軸を提供するような気がします。今回の政府内での議論の詳細や福田氏の思惑と計算などはまだ不明ですが、そのうち少しずつ明らかになっていくだろうと思います。

 そこで本日は、この問題を判断する際の材料の一つとして、自民党の加藤紘一元幹事長、山崎拓元副総裁、福田首相がそれぞれ、この新しい事態を受けて何と語ったかを紹介します。一部はテレビや新聞でも紹介されていますが、全体はそれを聞いた記者と、そのメモを読んだその関係者(私など)しか分からないでしょうから。あえて私の感想やコメントはつけないことにします。

 ■加藤紘一氏

 

加藤氏 いい展開だと思う。もちろんほんの一部の第一歩だという感じはするし、それはお互いに分かりあっていることだと思うが、それぞれが置かれている立場を認識しあって、やれるところからやろうという動きのように思う。

同時に米朝の間で話し合いが具体的に進み始めたのかなと。それがあってアメリカも北朝鮮も日本が取り残されて孤立する感じにならないように配慮しながら米朝進めている、そのために日朝も少しいろんなところを妥協しながら進めて始めたのかなと。日朝も無理ないように少しづつ妥協して進み始めたのかなと思う。

 

記者 一番進展したと思うのはどこか

 

加藤氏 よど号でしょうね。全体的にはミサイル発射の前の日朝関係に戻った感じだが、よど号は具体的に帰ってくるとすれば1つの展開になる。拉致問題について再調査するというのもいい展開だ。ただ、それを調査してどういうものを北が出してくるかは別問題で、あまり楽観できない。我々は拉致問題といって一番関心があるのは横田めぐみさんの話だが、これまでの言いっぷりからみて、横田めぐみさんの問題に展開があればいいけれど、なかなかそう簡単じゃない気がする。だが、今まで「拉致は解決済み」と言っていた北が、再調査をしますと言ったことはまったく大きな転換だ。ある意味、福田さんの外交の実績のスタートだと思う。期待している。

 

記者 経済制裁の解除は、まだ厳しい世論があるが。

 

加藤氏 向こう側が拉致の再調査に応じたり、よど号犯の返還に応じるなど、一定の動きをしたい上、こちらも何もなしに強硬で行けというのでは、事は進まない。互いに一歩一歩近づく、譲り合うという意味では、ちょうどいいバランスの取れた妥協になっているのでないか。

 

記者 北の態度変化は何が要因と思うか。

 

加藤氏 米朝が進んだからだと思う。ブッシュ政権も外交上は大変マイナスばかり続けたから、せめて北朝鮮だけは少し任期末期に一つの成果を収めたいという気持ちがありありとある。そうした場合、日朝のところで動いていないと、日本から強烈にブレーキがかかる。特にテロ国家支援リストから北朝鮮を外す動きになっているが、日本に1つも配慮せずにできないが、どうも事前配慮、米朝を進める際に日本に対する事前配慮が背後にあると思う。これは私の憶測だ。

山崎拓氏
 

記者 受け止めは

 

山崎氏 対話が再開されたことを率直に評価すべきだ。時間的に非常に限られた時間しか残されていないということも考えて、ギリギリの折衝だったと思う。交渉の窓口が改めて開かれたことは膠着状態の打開として評価すべきだ。
 それは時間的問題と言ったが、つまり6者協議の一環としていわゆる日朝国交正常化作業部会が開かれたので、単に日朝間の直接交渉という設定ではなくて、6者協議全体のなかでそれぞれ米朝も日朝も作業部会があり朝鮮半島非核化の作業部会もあるわけで5つの作業部会の1つとしてそこだけがクローズになっていたのが今回オープンにしたという意味で打開だと私は言っているわけですが、6者協議全体のなかでのそこのパイプがつまっていることが6者協議全体の足並みを乱して目的を阻害することになりかねなかった。そういう意味で今回
遅ればせながら6者協議の前進に日本もステップアウトしたと考えるべきだ。

 

記者 北が拉致事件に解決済みと言わなかった背景をどう分析するか

 

山崎氏 それは6者協議のゴールに向けて北朝鮮側としても踏み出さざるを得ないと。ギリギリのタイミングがきているという判断があると思う。

 

記者 今後の展望は

 

山崎氏 申し上げられない。今話すといらざる誤解や摩擦を生じるから言う必要ない。

 

 記者 状況が変わったことをうけ日朝国交正常化推進議連としてはどうするのか

 

山崎氏 議連の総会は来週火曜日に開くことに決まっているので、そのときにはどういう当面の行動目標を定めるかということについて協議する予定だが、今回に思いがけない展開があったので、どういう方向で総会をまとめるかということは一両日しっかり考えたい。

 

記者 経済制裁の解除に反発もあるが

 

山崎氏 それはあるでしょうけども、あることはよく知っているが、私は反発しているほうではないので、どう思うかと言われても言うべき言葉を知らないが、率直に言って圧力一辺倒ではなんら前進がなかったということだけは考えてほしいと思う。今から圧力かけ続けて、今回の協議は成果は認めないということなら再調査すら認めないということになるから何の前進もないわけであるので、そういうことを考えると対話の努力は百害あって一利なしという人(安倍前首相)もいるが全然逆ではないか。幼稚な考えだ。

 

記者 福田政権に与える影響は

 

山崎氏 福田政権としては平壌宣言に基づいて日朝国交正常化をしたいという存念をもっていることは承知しているのでそれに向けて、道は険しいが、ステップアウトしたという意味においてプラスだと思う。

 

記者 内閣支持率とは関係してくるか

 

山崎氏 支持率とは直接関係ないんじゃないかと思う。さまざまな評価が行われると思うので、肯定的な評価、否定的な評価、そのバランスでこの問題からくる支持率への影響は出てくると思うが問題は結果なので、そういう意味ではっきりゴールを定めてそれに向かってスケジュール闘争をやったらいい。

 

記者 火曜日の議連だが今後の行動目標について火曜日にとりまとめて発表するのか

 

山崎氏 行動目標すべてではなく当面の。正直言って、今度の議連総会で一定の日朝国交正常化作業部会の協議において一定の前進が見られれば制裁の部分解除を行うべきだということを決議しようと予定していてが、そのことは実現したので、そういう意味でこの際どういう決議をするか申し合わせをするかということについて慎重熟慮したい。

 

記者 政府間交渉で一定の前進ということで議員外交にもプラスの効果はあるのか

 

山崎氏 議員外交は当然行うべきもので、我が党の外交力強化特命委員会は森元総理が座長しているが、議員外交を積極的に行うべきと提言している。我が党の基本的な考え方だ。対北朝鮮についても同様だ。今回人的往来が制裁解除の部分解除に入っているがそれと議員外交とは関係ない。そういうものがあろうがなかろうが議員外交を行うべきで、一般国民のことをいっていると思う。

 

記者 訪朝の環境が整ったと思っているか

 

山崎氏 訪朝自体が目的ではないので事態が進めばいいわけだからあくまでも政府間だ。そこは多少、政党間で違いがあると思うが、自民党は政権与党だから政府間交渉だから、我々としてはサポートし、促進させる立場である。それができればいいわけだから、必ずしも訪朝にこだわっていないが、政権与党でない野党の立場としては若干違うところがあるのではないか。
 訪朝の是非、タイミングについても慎重に熟慮したい。必要があればする。必要がなければしない。何が何でも訪朝したいということは私は、私はない。だけど訪朝自体を目的にする向きはあるかもしれない。今後は具体的な日程が今度の斎木・ソン会談でフィックスされてないからそれが当面のそれこそ政府間交渉の課題だ。どういうルートでいつ犯人を引き渡すかということがある。再調査のあり方は、それについても協議しなければならない。今回は窓口が開かれた、ドアが開かれたということだ。

 

記者 制裁一部解除は、党の外交部会で了承する必要はあるのか

 

山崎氏 ありません。それは政府の専権だ。制裁の期限を延長したときにも確認している。報告はすると思う。

 

 ■福田康夫氏

 

記者 日朝協議で、北朝鮮側は、拉致問題は解決したとは言わないとした上で、拉致問題の調査を約束しました。また、よど号犯の引き渡しについて協力すると申しています。こうした北朝鮮側の提案について総理はどのようにお考えでしょうか。

 

福田氏 うん。あのー、提案っていうか、まあ、あのー、日本とそれから北朝鮮で交渉した結果ですね、話し合いの結果です。まあ、あの、今回、北朝鮮の方も、今まで解決済みとしていた拉致問題ですね。これを、そのー、解決したということでいわないで、そして、再調査しますとこういう風に言ったわけですね。で、まあ、そのー、再調査しますと。問題は中身なんですね。ですから、それはこれから具体的に詰めていくわけです。で、一方日本の方も、そういうことがですね、調査は前進するということになればね、それは、あのー、今までの経済制裁とかいったようなですね、措置を緩和すると。ま、こういうことになるわけでありまして、まあ、今、その話し合いが始まったと。こういう段階です。

 

記者 総理としては、今回のこの交渉の結果について、進展があったとお考えでしょうか。

 

福田氏 ええ。まあ、今まで、話し合いにもならなかったんですね。ですけども、おー、北朝鮮の方もですね、話し合うとそういう姿勢が見えたということだと思います。で、あれば、その交渉プロセスもね、まあ、入口に立ったと。こういう風に考えていいんじゃないかと思います。

 

記者 日本政府としてはですね、経済制裁の一部を解除するという方針を固めました。これの最大の理由はいかがでしょうか。

 福田氏 向こうがそういうような考え方をしてる、そしてまた実際にこれからどうするかということもあるんですけどね、それに対する見返りというものも当然向こうのほうは期待をするでしょう。またそういうことがなければ話し合いも始まらない。交渉もできないということですからね。それで今回、非常に限定的な形で経済制裁を解除してもいいのではないか。こういうふうに考えておるわけです。

 

記者 町村官房長官が会見で「一定の進展があった」と話したことに、拉致家族会の一部からは「これを進展というなら政府の方針は変わったのではないか」という声もあるが

 

福田氏 まず、政府の方針はこれはかわっておりません。あくまでもね、拉致被害者の全員の帰国ということを目指しているわけであります。これは全然変わってませんよ。しかし同時にですね、交渉の、交渉のね、これをこれからやっていこうというそういうきっかけになったわけですねえ。交渉しなければ、解決しないでしょう、おそらく。交渉しないで解決しなくていいのかどうか。そうはいかないですねえ。ですから、今までいろいろな交渉をしてきたけれども、今、こういう段階になった、ということであるというように認識しております。

 

記者 アメリカのテロ支援国家の指定解除をめぐり、これまで日本政府としては「拉致問題を考慮してほしい」と要請してきた。今回の北との交渉結果を踏まえて、今までの政府の対応を変える考えはあるか

 

福田氏 政府というのは…。

 

記者 日本政府としての。アメリカに対し、拉致を考慮して欲しいと、ある意味ブレーキをかけてきたと思うが、そのスタンスを変える考えは

 

福田氏 いや、特別にブレーキをかけたわけではありませんよ。しかし、アメリカもですね、核について真剣な協議をしているわけですねえ。交渉してるわけですよ。日本は、拉致について…拉致中心ですけど、交渉している。まあ、同じ北朝鮮と交渉しているわけですから、日米がその間にどういう状況になっているか、相互に情報は交換しているんです。ね。相談しながらやっているということもありますから。状況は、いままでと、これからも変わらないと。

 …いろいろと突っ込みたい気もするのですが、予断と偏見を交えないためにあえて何も書きません。ただ、別件で一つ。今朝の日経新聞の関連記事の中に「貨客船『万景峰号』など朝鮮籍船舶の日本への入港禁止解除方針をめぐっては拉致問題担当の中山恭子首相補佐官が猛反発し、最終的に『人道支援物資を日本で積み込む場合』に限って認めることになった」と書いてあったのが気になりました。

 実はこれは私も昨日、各所への取材の過程でほぼ同じことを聞いていました。福田氏の「御前会議」の場で中山氏が朝鮮籍船舶の無条件受け入れに大反対し、「人道支援」を入れさせたのだということです。現在の官邸に、中山氏のような人がいなければ、もっともっと北朝鮮に有利なように話は進んでいたのかもしれませんね。まったく福田という人は…。