対北朝鮮政策をめぐる安倍前首相と山崎元自民党副総裁の言葉の応酬が続いています。私は6月12日のエントリ「安倍前首相の外交論と教育論について」の中で、安倍氏が山崎氏らがつくった対北融和派の日朝国交正常化推進議連に対し、「百害あって一利なし」と述べたことを紹介していましたが、それに山崎氏が反撃して安倍氏のことを「幼稚」と言い放ち、さらに安倍氏が反論し…と、同じ党の中ではめったに見られない展開になっています。

 まあ、安倍氏は官房副長官時代にも、拉致実行犯のシン・グァンス元死刑囚の助命釈放嘆願書に署名した民主党の菅直人氏や社民党の土井たか子氏に対し、「極めて間抜けな議員」と明言し、物議をかもした人ですから、攻撃モードにスイッチが入れば引くことはありません。今後、2人のやりとりが落ち着いていくのかさらに続くのかは分かりませんが、ちょっとおさらいしてみようと思います。まずは、11日の講演で北朝鮮に甘いことを言う議連は「百害あって一利なし」と言われたことに対する、13日の山崎氏の反応からです。

 《記者 経済制裁の解除に反発もあるが

 山崎氏 それはあるでしょうけども、あることはよく知っているが、私は反発しているほうではないので、どう思うかと言われても言うべき言葉を知らないが、率直に言って圧力一辺倒ではなんら前進がなかったということだけは考えてほしいと思う。今から圧力かけ続けて、今回の協議は成果は認めないということなら再調査すら認めないということになるから何の前進もないわけであるので、そういうことを考えると対話の努力は百害あって一利なしという人もいるが全然逆ではないか。幼稚な考えだ。》

 先に仕掛けた方とはいえ、「幼稚な考え」とまで言われた安倍氏も黙ってはいません。安倍氏はもともと、北朝鮮問題だけでなく、以前からわざわざ外国に行って小泉元首相の靖国参拝を批判するなどしていた山崎氏の言動について国益に反すると考えていただけになおさらです。17日の政治家のパーティーでの講演で、次のように語りました(※テープ起こしではないので、一部不正確な部分がありましたらすいません)。

 

 《北朝鮮が拉致被害者の再調査を約束した。よど号犯を日本に返す、引き渡すことについて言及をし、日本側が制裁の一部を解除するという合意がなされたという。「圧力よりも対話の方が良かったのですか」と私に聞いた記者がいた。再調査をするのは、こちらが制裁の一部を解除するといったからだ。制裁していなければ解除はできない。米を20~30万トン出さなければ対応を引き出せなかった。制裁は解除するときにもカードになる意味がある。制裁があったからこそ今回、話し合いに応じて、いわば再調査を行うということを約束したわけだ。

 

 問題はそれで安心してはならない。再調査をすると言ってきたが、拉致問題は存在しないということになったことが何回もあった。ソウルを火の海にするといって、カーターが訪朝して金日成と会談をして、KEDOの合意をした。48万トンを北朝鮮に出して軽水炉2機を作るという合意だった。プルトニウムは不問に付した。自社さ政権だったが、50万トン人道支援をした。その後、日朝交渉がスタートして50万トン援助することと同時に、日本人妻の帰国事業をし、拉致被害者の調査をすると約束をした。6万トンの追加支出をしたが、1800人のうちの10人しか一時帰国しなかった。家族は全部本国にいるから当然だ。

 

 再調査の結果、対象者は1人もいないという結果が出てしまった。50万、50万、6万と食糧援助をしたのにもかかわらず、何で対応したかというとテポドンの発射だ。彼らが行動しない限り、彼らの言うことを信用してはならない。援助をしても結果が出ていないという苦い経験は何度もしている。そこから学ばなければいけない。日本も世界の人も何度も騙される。交渉する人が変わるが、向こうが経験則にのっとって罠をしかければ。同じ罠に引っかかることになる。今回はそうならないように気を引き締めて対応する必要がある。

 

 ブッシュ政権から次の政権に変わる。彼らは、今よりも甘い対応をする政権になることを期待している。ブッシュとの間で、譲歩しなければ対応することはないと考えた方がいい。六者協議が進む中で形式的結果を出すことになってはならない。プルトニウムにおいて核はつくらないといても、ウランは進めてきたことを忘れてはならない。北が核を放棄するのは大きな決断だが、本当にするかどうかしっかりと見極める必要がある。その中でテロ国家支援リストから、北朝鮮を排除するかが大きな課題で、テロ支援国家リストから落とせと強く要望しているが、よく考えなければいけないことはよど号犯の日本への帰還だ。ハイジャック犯だから、日本が犯人を要求して日本でしっかりと処罰するのは当然だが、犯人をかくまっていることもテロ支援国家リストに載っている条件になっている。日本に返すことはリストから外れるため都合がいいんだということを忘れてはならない。彼らにとっては難しい譲歩ではない。

 

 テロと拉致の関係だが、北が拉致を行ったことは人権の重大な侵害であり国家主権の侵害だ。拉致作戦を行ってきたのは台南(韓国)工作を行うためだ。安全保障上の問題であるといってもいい。ここを押さえておかないと拉致問題が分からなくなる。安保上の問題であることも伝えなければ行けない。指定が外れると拉致問題に取り組むためのテコを失うことになる。日米同盟関係に影響、国民感情的に同盟関係に影響を及ぼす可能性があると申し上げた。

 

 日本で、制裁をやめて対話だけでいこうという議連も誕生した。政府以外の国会議員が、政府よりも甘いことを言っては外交交渉能力を損なうことになる。議会が甘いことを言ったら、政府はそれより甘いことを言わないと相手は交渉に乗ってこない。私は、政府以外の人たちが甘いことを言って交渉するのは百害あって一利なしと言った。それを批判した人物がいるが、その人は日本語能力がないのではないか。政府以外の人が言うのは百害あって一利なしではないか。百害あって利権ありかといいたい。国益を考えて国会議員は行動すべきではないかと思う。

 

 国民世論が重要になっていく。世論が厳しく一丸となって対応しなければ政府は相手の譲歩を勝ち取ることができないということに思い致すべきだ。》

 安倍氏は周囲に「もっとはっきり『この変態!』と言ってやろうか」とも冗談で述べているようですが、この「利権」発言は効いたようですね。山崎事務所にも抗議の電話などがたくさん舞い込んだと聞きますし、これによって山崎氏の訪朝計画がつぶれたという未確認情報もあります。山崎氏も怒り心頭で、18日の派閥総会で「私は利権政治家ではない」と強調しましたが、これには「はあ?よく言うよ」という声も聞こえてくるようです。私は以前、ある自衛隊幹部から「山崎氏は防衛族のドンと言われているが、それは決して防衛政策のドンという意味ではない。あれは防衛予算のドンだ」という説明を受けたことがあります。

 

 《あのう私自身の政治生命にもかかわる発言が行われておりますけど、私は利権政治家ではございませんし、いわんや北朝鮮利権とはまったく関係ございませんので誹謗中傷する政治家の人格を疑いたい。そのように思います。今後、北朝鮮問題については我が国の平和と安全、国民の生命財産に深くかかわる問題でございますので、核、ミサイル、拉致すべてそうですが、核問題については6か国協議で足並みをそろえて取り組んでいかなければならない課題ということを、われわれは思慮分別を働かせて、われわれの子孫のために朝鮮半島の非核化を、必ずこの機会に実現しなければならない。福田政権において実現しなければならない。同時に拉致問題も解決を図り、国交正常化を図りたいと念願している次第です。よく理解願いまして、報道していただけける方には報道してほしい。》

 安倍氏の人格攻撃まで始まりましたが、でも、この日朝国交正常化議連については外務省からも「迷惑だ」(幹部)という声が漏れているんですけどね。山崎氏はさらに、記者団にこう語りました。

 

 《記者 北朝鮮がまもなく核申告を行い、米国がテロ支援国家の指定解除を行うとライスさんが発言したが、受け止めは

 山崎氏 予期されていることですが、まず北朝鮮が6者協議の申し合わせ通り、一日も早く核計画の完全申告を行うことが、今後の6者協議の最終的な成果のために最も重要なステップになっておりますので、そのための米朝間の合意があったと思う。

 記者 これで北朝鮮問題は進展するか

 山崎氏 米朝間の核問題をめぐるこれからの作業については進展するというか、第三段階に入ると思う。ひいては6カ国の目標のひとつというか、主要目標といってもいい、朝鮮半島の非核化に向けた大事なステップになると思う。ただ、6者協議は朝鮮半島の非核化と米朝国交正常化、日朝国交正常化が同時ゴールインでありますので、日朝関係も前に進めてテンポをあわせないと、ブッシュ政権下の最終決着にならないとかねてから心配して、日朝作業部会が開かれ協議が進むことを強く求めてきた

 記者 関連して安倍さんの山崎会長への批判は

 山崎氏 歯牙にもかけるべき発言ではない私の政治生命にかかわるような国民世論の反応がでているので名誉毀損に相当する思います。

 記者 総会では訴えるべきとか安倍発言への批判の声があいつだが、会長はどうしますか

 山崎氏 取り消しと謝罪を求めます》

 …やはり、安倍氏の発言は相当の効果があったようですね。安倍発言に対しては、山崎氏の盟友の加藤紘一氏も腹を立てていて、本日、国会で安倍氏に対し、「安倍さん、オレたちは利権議員なのか?」と言ってきたそうですが、安倍氏は「違うんですか?」と言いたいのを我慢して無視したということのようです。ちなみに、加藤氏と日朝国交正常化議連のお仲間である社民党の福島瑞穂氏は2002年3月、加藤氏の自民党離党に際してこんな談話を出していますね。

 《本日、自民党元幹事長の加藤紘一衆院議員が、前事務所代表の脱税事件を受け、自民党を離党した。逮捕された前事務所代表は、政治家秘書の肩書きを利用して公共事業への口利きを繰り返し、巨額な脱税を行なった。議員としての監督責任、政治に対する国民の信頼を大きく損なった責任は重大だ。(中略)前事務所代表が事務所の代表に就いた1993年以降、加藤議員の政治資金収集力が急速にアップしていること、脱税資金を提供していた山形県内7社の建設会社と役員らが95年以降、加藤議員に対して約9500万円の献金を行なっている事実を踏まえれば、加藤議員が前事務所代表による口利き行為と直接・間接に関与していた疑いは否定できない。加藤議員は過去にも、譲渡されたリクルート未公開株で売却益を得ていたことや、鉄骨メーカー「共和」からヤミ献金を受け取っていた疑惑が取りざたされた経過がある。これに続き、今回の事件でも何らかの関与があったとするならば、その責任問題は離党という自民党内の処理で済まされるわけがなく、議員を辞するのが筋である。》

 きっと加藤氏は、自分の都合の悪いことはすぐ忘れられるタイプなのでしょうね。うらやましい限りですが、私は忘れたくないので掲載しておきます。よくも利権と無縁であるかのような顔ができたものです。ともあれ、安倍氏は山崎氏の謝罪要求について20日、記者団に次のように語りました。 

 《記者 山崎さんが発言の撤回と謝罪を求めているが

 安倍氏 私はもう講演で述べた通りですね。講演をもう一度よく吟味をしていただきたい。拳々服膺していただきたいですね、むしろ。

 記者 利権という言葉を使ったことについて遺憾というか、撤回を求めるということだが

 安倍氏 まあ、私の全体の講演をね、よく見てもらいたいと思いますね。学習してもらいたいなあ。》

 広辞苑によると、拳々服膺(けんけんふくよう)とは、「胸中に銘記して忘れず守ること」とあります。簡単に言えば、「私の言葉を肝に銘じなさい」ということですね。さて、山崎氏はその通り、安倍氏の言葉を深く胸に刻むでしょうか。まあ、そんなわけありませんね。そういう人であればまだ救いがあるのですが…。