昨日の古森記者のエントリ「ブッシュ政権はなぜ北朝鮮を『テロ支援国家』指定から解除するのか--日本の拉致はどうなる?」は、21日付産経朝刊1面の短期連載記事【背信の論理 テロ指定解除】(上)、「拉致軽視『欠陥の融和策』」を紹介していました。

 実はこの連載の(中)「下げたハードル 米に口実」を私が書き、今朝の朝刊1面に掲載されたので、古森記者の真似をしてこの場で紹介したいと思います。(下)は社会部が担当し、明日の紙面に載るはずです。私の記事は、古森記者が主に米国から見た問題の所在を書いているのに対し、記事のレベルはともかく、日本側はどうだったのかについて記したものです。それは以下の通りです。

 《「拉致は現在進行形のテロだ。そして、拉致問題は一つの判断基準なんだ。北朝鮮にとって、核問題よりも拉致問題の方がはるかに解決は簡単だ。その簡単なことさえしない北が、核問題で述べている約束を信用できるわけがない」

 今年4月29日、ワシントン。アーミテージ元米国務副長官は訪米した拉致被害者「家族会」の増元照明事務局長や支援組織「救う会」の島田洋一副会長らにこう語った。

アーミテージ氏は副長官時代、米国のテロ年次報告書の北朝鮮へのテロ支援国家指定の理由欄に拉致事件を記載するよう指示した人物でもある。

 アーミテージ氏は、米政府の対北政策の現状について次のように指摘した。

 「(対北融和派の)ヒル国務次官補から見れば、私やみなさんは障害物になるんでしょう」

 その3日後、ヒル氏と面会した増元氏はテロ支援国家指定を解除しないよう求めたが、返ってきた言葉は「拉致がテロであるか定義したりする立場にない」と突き放したものだった。

 家族らは、まだ国民の拉致問題への関心が高くはなかった2001年2月から自ら訪米し、テロ支援国家指定理由に拉致を加えるよう働きかけてきた。

 当初は米議員はだれも会おうとしなかったが、やがて活動への理解は広がり、04年4月にテロ支援国家指定理由に拉致が加えられ、06年4月には横田早紀江さんとブッシュ大統領の面会も実現した。それが今、「家族たちが必死でつくった砦が崩れてしまう」(西岡力・「救う会」副会長)との恐れが高まっている。

 

    日本が招いた事態

 

 日本政府は、早期のテロ支援国家指定解除を歓迎しないとしている。福田康夫首相は20日、首相官邸にシーファー米大使を呼び、拉致問題が日本にとっていかに重要な問題であるかを改めて伝えた、とされる。

 また、19日にヒル氏と会談した外務省の斎木昭隆アジア大洋州局長は20日の自民党外交調査会で、「ヒル氏には『くれぐれも慎重に。日米の信頼関係にかかわる問題だ』と言ってきている」と説明。さらに、核申告に会わせて指定解除の手続きに入ると述べたライス米国務長官の発言について、夕刊1面で報じた新聞各紙を見せて、「反響の大きさを理解してほしい」と迫ったことも明かした。

     

 だが、今回の事態は、日本が自ら条件を整備し、招き寄せたとも言える。

 日本は11、12両日の北朝鮮との実務者協議で拉致再調査とよど号犯引き渡し協力で合意し、「一定の前進があった」として制裁措置の一部解除を表明した。これにより、テロ支援国家指定の理由によど号犯の件を盛り込んでいる米国の「指定解除に向けた難問をクリアさせ、指定解除に手を貸した」(重村智計早大教授)ことになるからだ。

 また、自民、民主、公明、社民など超党派でつくる「日朝国交正常化議員連盟」(山崎拓会長)が5月に結成され、北朝鮮への「圧力」は成果を生まなかったと強調していることも「ヒル氏やライス氏を喜ばせる誤ったメッセージを送った」(増元氏)ようだ。

 福田首相は昨年月の訪米時のブッシュ大統領との初会談でも、拉致問題について自ら口火を切ることはせず、テロ支援国家指定解除についても強く反対することはしなかった。

 その背景には「当時、米国がすぐに指定解除に向かう状況ではないと判断した」(外務省筋)ことがある。ただ、昨年4月の首脳会談でブッシュ大統領に強く働きかけ、「(指定解除で)アベを困らせることはしない。ライスがいろいろ言っても、私とあなたで決めればいい」との言葉を引き出した安倍晋三前首相とは、方向性や手法が異なるようだ。

 

    あいまいな福田首相

 

 今月13日にも、記者団とこんなやりとりがあった。
 記者団「政府は、『指定解除では拉致問題を考慮してほしい』とブレーキをかけてきたが…」

 福田首相「いや、特別にブレーキをかけたわけではありませんよ」

 こうした福田首相のあいまいな言動から、日朝協議の結果もそれを受けた日本の制裁緩和、米国の指定解除も「既定路線だったのだろう」(拉致被害者家族)との声が出ている。

 「日朝協議はヒル氏と北朝鮮が話し合っておぜん立てし、福田首相が『それでいい』と乗ったのだろう。指定解除もその延長線上だ」

 大使経験者の1人はこんな見方を示す。一方、ある首相経験者は「ライス発言は、ブッシュも承知した上でのものかどうか分からない」と指摘する。

謀略も含めさまざまな情報が錯綜する中、福田外交は米国の「背信」と日本の世論の間でさまよっている。(阿比留瑠比)》

 写真は、19日にヒル氏と会談した後、外務省内で記者会見した斎木氏とヒル氏の様子です。斎木氏の胸中に関しては、18日付のフジサンケイ・ビジネスアイ紙に「外務省・斎木局長の憂鬱」というコラムを書いたことは、同日のエントリ「外交方針と官僚の立場と横田早紀江さんの訴え」で報告しましたね。

 そのときは、残念ながらあまり部数の多くない新聞に書いたものなので、特に反響はないだろうとタカをくくっていたのですが、実は19日の衆院拉致問題特別委員会で民主党の松原仁氏が取り上げ、斎木氏との間でこんなやりとりがありました。
 

 《松原氏 ビジネスアイに「家族会と培ってきた信頼の貯金は使い果たした」などとある。本当か。

 

 斎木氏 読み上げられた新聞報道を承知していない。私が発言していることを引用したかどうかもコメントできない

 

 松原氏 (現状に)怒っていると。

 

 斎木氏 私は日本政府の一員でございます。個人の判断で外交交渉に臨んでいるわけではない。首脳の指示に基づいてやっている。きちんとした指示を受けて向こうに行って交渉しており、上司に報告した。拉致問題については長年担当しているし、ご家族の思いは痛いほど分かった上でやっているが、交渉事だから、私も100%満足しているわけではない。交渉しないと問題の解決は進まないと認識している。交渉しないでどうやって解決するのか。交渉は一歩、一歩しか進まないこともあるが、国益をかけて先方との間で交渉している。私個人の思いはまた別だ。》

 この場合、首脳と言えば福田首相のことでしょうね。このやりとりは、あまり注目されていませんが、個人的には、斎木氏は官僚の国会答弁としてはかなり率直に心情を吐露したなあと注目しました。それにしても、悪いことはできないというか、よりによって松原氏がビジネスアイを読んでいたとは…。

 このテロ支援国家指定解除の件については、重村智計・早大教授のコメントを、20日の産経朝刊に小さく載せています。重要だと私が思う部分を、一部引用します。

 《テロ支援国家指定が解除されると、北朝鮮におカネが入ってくる。中国は指定解除を条件に、北朝鮮沖合での海底油田の掘削権を35億ドルで買う契約を交わしているほか、他の地下資源開発への投資も約束しているからだ。北朝鮮が日朝協議に取り組むのは、日本の支援が欲しいからだが、数十億ドルものカネが手に入れば、日本とまじめに協議するわけがない。日本は交渉カードを失い、拉致問題の解決は、さらに難しくなる。》

 この点については、拉致被害者家族の増元氏も私に、「これで北朝鮮が日本とまじめに向き合う理由がなくなる。ひどいですね、政府のやり方も」と語っていました。私は連載記事の中にも書きましたが、国会での日朝国交正常化推進の怪しい策動、日朝実務者協議、ライス発言…と続く一連の動きは、北朝鮮とヒルが共同で描き、福田氏が便乗しているのではないかという気がしています。

 ただ、少なくとも福田氏は世論の動向をとても気にしています。内閣支持率は首相の力の源泉ですから、これを気に留めない内閣などありません。今後、事態がさらに最悪の方向に進まないようにするためにも、国民の声を政府・与党にどんどん届けることが何より大切だと思うのです。