昨夜は、福田首相の夜のぶらさがりインタビューのメモを読んで、久しぶりに激しい怒りを感じるとともに、どこか既視感のようなものを覚えました。それが何かと考えると、ああ、官房長官時代に繰り返し聞かされた、あのいいかげんで中身がなくて冷淡な、それでいて大事なところで他人の神経を逆撫でするイヤミな話し方が戻ってきたのだなと気づきました。それだけ追いつめられているのか開き直ったのか、福田氏の心境は分かりませんが。

 首相になってから、福田氏のさまざまな他人事発言が批判されるようになりましたが、以前の福田氏のしゃべりを聞いてきた者からすると「すぐぶち切れない分、官房長官時代よりずっとマシ」(外務省次官経験者)であり、私も、やはり立場を意識してかよく抑えているなあと思っていました。でも、昨夜の北朝鮮のテロ支援国家指定解除問題と、安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会の報告書提出に関する答弁は、昔通りの「福田節」がででいました。実に不愉快ですが、報告したいと思います。まずは、北朝鮮の方からです。

 《記者 アメリカ政府が北朝鮮をテロ支援国家指定解除を26日に議会に通告する方針を示しました。総理の受け止めをお願いします。

 福田氏 まあ、26日にね、申告すると。いうことであるならば。ということになりますけどね。まあ、それは、北朝鮮の核の問題がですねえ、この問題が解決をする方向に進むというのであればね、それは歓迎すべきことですよ。これは、米朝間というだけでなくて、この地域の安全また、あの日本の安全保障の問題でもありますからね。それが、進んでほしいというように思います。そしてですね、これをね、成功させるためにはですね、日米関係これは大事ですね。米国ともよく緊密な連絡を取りながら、そして我が国は、あの、拉致の問題ありますからねえ、これの解決も果たさなければならない。で、そのためにも、今後、ますます日米関係緊密な連絡を取り合う、そういうことが必要だと思っております。

 記者 日本政府としてアメリカ側にどのように訴えていくお考えなんですか。指定解除後。

 福田氏 (遮るように)ですから、そういうことが大事だということを。これは、再三、えー、双方で話し合ってきてるわけですねえ。まったく意見の食い違いはありません

 記者 総理自ら、ブッシュ大統領にテロ支援国家指定解除の取りやめをお願いするということはありますでしょうか。

 福田氏 いや。それはね、今、申し上げた通り。でしょ。今、申し上げたのはね、その核がね、核の問題が解決するのであれば、それは望ましい事ではないんですか。我が国にとっても。ですから、そういうのであれば、歓迎すべきことなんですよ。ね、あとは拉致の問題を解決するということです。そしてまた、核と拉致の両方を解決するためにも日米関係は大事だと申し上げています。分かった?分かった?

 米国によるテロ指定解除につていて、福田氏はよく分からない留保はつけつつも二度にわたって「歓迎」して見せました。米国に対して何かモノを言うつもりは全くないのもうかがえます。今朝、外務省首脳は「日本はもっと北朝鮮の核に目を向けるべきだ」と、福田氏や、山崎拓氏に迎合するようなことを記者団に語っていましたが、実はこれは変な議論ですね。以前のコメント欄でstaro様が指摘していたように、現時点ですでに中国もロシアも日本にたくさんの核ミサイルの照準を日本に合わせているわけですから。ことさら北朝鮮の核開発にだけ慌てふためいてみせるのには、何かうさんくさい意図を感じます。

 そこで、参考までに昨日の自民党
拉致問題対策特命委員会での安倍前首相の冒頭あいさつを紹介します。

 

 《安倍氏 日朝にも動きが出て参りました。先般、斎木局長とソンイルホとの会談の結果が公表されている通りでございます。大切なことは、しっかりと北朝鮮側に行動をさせて、行動を見ながら、こちらが制裁の解除について決断をしていくことだ。幸い政府もそのような方針だという。
 また今日の新聞報道によると、北朝鮮が核についての申告を行い、それに対して米国がテロ支援国家リストからの削除について議会に対して申請をするという報道がなされている。日本にとっては極めて重大な問題だと思う。北朝鮮がテロ支援国家を指定されたことについては、やはり拉致問題について、北朝鮮が拉致を実行し、いまだにその拉致をした人たちを解放していないことも含まれているとわれわれは認識しているわけでありますし、それ以上に、日米の同盟という絆の問題にも関わってくる私は考えている次第だ。そういう観点から先生方にもご議論をいただきたいと思う。》

 安倍氏は「日米同盟の絆の問題にも関わってくる」と明確に指摘しています。また、拉致はテロであり、拉致被害者が解放されていない現時点での指定解除はおかしいという点にも触れています。福田氏は現職の首相ですから、発言に一定の制約があるのはその通りだとしても、前首相との落差にめまいがします。安倍氏は会合後、記者団の質問に答えて次のように語りました。


記者 26日にアメリカがテロ支援国家指定解除をすると見られているがどう受け止めているか

 

安倍氏 米国が北朝鮮をテロ支援国家に指定した理由の一つとしてやはり拉致の問題があった。これはやはり拉致自体は人権への重大な侵害であり、また主権への侵害であり、かつこれは対南工作、テロ行為のための拉致でもあった。それはまだ継続しているわけです。当然そのことも理由である、そういう説明も米国から当時あったわけですから、その観点からこの問題解決されていない中で、解除されるというのは極めて日本にとっては遺憾なことであり、日米の同盟関係、信頼関係にもですね、私は影響があるかもしれない、と思います

 

記者 北朝鮮も核の申告をするといっているようですし、方向としてはそれを止められないという状況なんでしょうか。

 

安倍氏 核の申告について中身が正確なものなのかどうかということも当然検証していかなければいけないと思います。そしてまた、やはり解除ということについてはですね、日米関係、同盟関係に影響があるということもさらに日本はしっかりと言っていくべきだろうと思いますね。

 

記者 今後、例えば周辺国が制裁を解除し、日本も制裁を緩める方向になってくると思うが、日本としては北朝鮮にどう対応していったらいいか

 

安倍氏 制裁の解除については北朝鮮側の行動を見ながら、こちらが制裁を解除していくことはもうすでに政府も述べてますね。先に制裁解除ありきではありません。かつて日本人の安否について、なんの結局回答もありませんでした。そこからわれわれは学びとらなければいけないわけであって、今回は拉致被害者の調査をすると言っておりますけども、その調査の結果がちゃんとでるまでわれわれは制裁を解除しない、こういう意思で臨まなければいけないと思いますね。当然のことだと思います。

 

記者 核の申告について、北朝鮮は冷却炉を爆破するパフォーマンスをするという報道もあるが

 

安倍氏 これは世界に対していかも、自分たちは核を無力化させると、開発能力を無力化させるということを宣伝しようとしてるんだと思うんですね。それにはわれわれだまされてはいけないと思いますね。

 

記者 今日、拉致家族の方とも(特命委員会で)お会いになったが、どういう話をしたのか

 

安倍氏 テロ支援国家リストに北朝鮮を載せる上において家族会の皆様が何回も訪米をされて大変な努力をしてこられました。まさに彼らにとって肉親を取り返す大きな拠り所になっているんですね。その拠り所を失うかもしれない、なんとかしてもらいたい、という切実な声だった。

 

記者 日朝実務者会議で誤ったメッセージを送ったことが米の指定解除の流れになったとも指摘されている。この間の政府の対北朝鮮、対米国への姿勢はどう受け止めるか

 

安倍氏 米国もこの問題、日米同盟関係に影響を及ぼすという、その可能性について米国にはしっかりと伝えてきた思いますね。さらにそういう努力を続けてもらいたいと思います。》

 なぜこんな当たり前のことが福田氏には言えないのか。結局、福田氏は北朝鮮と早く手を打ちたいライス米国務長官やヒル国務次官補と同じ穴の狢であるのだろうと思います。今回の日朝実務者協議について、ある元外交官は「あの程度の北朝鮮の提案であるならば、斎木君は自分の判断でけっ飛ばして帰国できるはずだった。それがそうしなかったのは、あらかじめ上から『北朝鮮の提案を受けるように』と命じられていたのだろう」との見方を示しました。

 ヒル氏が北朝鮮と詳細に話し合って決めたシナリオがあり、それを受け入れた福田氏が日朝協議の結果、制裁措置を一部緩和すると「決断」し、そしてその一連の流れの中でライス氏が指定解除の議会通告を行うと表明したということではないでしょうか。日朝協議にはまだ隠し球があって、もしかすると何人か拉致被害者が帰ってくるという場面もあるかもしれませんが、「だまされてはいけない」と思います。

 福田氏のぶらさがりインタビューの話に戻します。昨日は、安倍内閣時に発足した安保法制懇の報告書をやっと福田氏が受けとりました。これはもうとっくにできあがっていたのに、ずっとたなざらしにされていたもので、国会が閉じてから一応受け取るだけ受け取ったという形ですね。これに関連して、私は4月4日の政治面に次のような記事を書いています。

 

忘れられた「集団的自衛権と憲法」 安全保障上のタブー、福田首相が再「封印」

 昨年9月の福田内閣発足以降、福田康夫首相が隅に追いやり、政治課題としてすっかり話題に上らなくなった重要問題がある。安倍晋三前首相が推進していた集団的自衛権の行使と憲法の関係の再整理がそれだ。安倍氏が、日米同盟の双務性を高め、米国に対して対等の発言権を持つために打ち破ろうとした安全保障上のタブーは、福田首相によって再び厳重に「封印」されようとしている。
 安倍氏は昨年4月の訪米時に、ブッシュ大統領に対しこの問題を再整理する方針を伝え、5月に「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を設置。周辺事態に公海上で米艦船が攻撃を受けた際、近くの海上自衛隊艦船が敵に反撃できるかどうかなど4つの事例を示し、検討を指示した。
 懇談会では「権利」はあるが、憲法上「行使」はできないとする政府解釈に対する批判が相次ぎ、昨年中に解釈の見直しを求める報告書を出す方向だった。
 安倍氏は集団的自衛権の全面容認ではなく、昭和35年に祖父の岸信介元首相が示した「他国の領土、領空、領海では集団的自衛権を行使しない」とする「制限行使論」に立ち戻る考えだったとされる。自国の領土、公海などでは集団的自衛権を行使できるという論理だ。
 日本近海の公海上で米軍艦船が攻撃を受けた際に、日本は何もできないとする政府解釈に従えば「日米同盟は崩壊する」(防衛庁長官経験者)とされる。国際テロ組織の脅威も顕在化した現在、この問題は喫緊の課題であるはずだ。
 ところが、福田内閣発足後、懇談会は開かれていない。福田首相に提出されるはずの報告書は「中身はできている」(政府筋)が、たなざらしのままだ。
 福田首相が国会運営に苦慮しているのはわかるが、この問題はそれとはかかわりなく首相の決断で前に進められる。首相には安倍氏がまいた種を枯れさせず、育てる度量を見せてほしい。(阿比留瑠比


 上記の北朝鮮関係の福田首相答弁には、「日本の安全保障」という言葉も出てきますね。そうであれば、この懇談会の報告書も真剣に受け止めるべきだと考えますが、実際の福田氏の言葉は以下の通りでした。この人を小馬鹿にしたようなふざけた物言いこそが、官房長官時代を彷彿とさせたのです。

 《記者 今日、安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会が、憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を認めるよう求めた報告書をまとめた。総理はこの報告書の扱いをどうする考えか

 福田氏 あの、扱いとはどういう意味ですか?

 記者 報告書を受け取って、それに基づいてどのような対応を取られるのかということです。

 福田氏 どのような対応って、何を、したいの?

 記者 報告書に書かれている内容について、総理として何らかの施策なり政策なりを打ち出していくお考えがあるのか、ということです

 福田氏 それはねえ、あの今日、いただきましたけどね。内容はまだ見てません。ですから、まあこれからよく研究したいと思います。

 記者 報告書の内容は別として、集団的自衛権が行使できるように、今の政府の憲法解釈を変えるというお考えは今のところはありますでしょうか

 福田氏 今のところって、変えるなんて話はしたことないんだけどねえ。…憲法は憲法

 記者 これからもないということでしょうか。報告書をまた別として、集団的自衛権の行使は…

 福田氏 それは憲法に書いてあるんですからねえ。憲法変わるんですか?変わったらばそのときのね、憲法に従いますよ。

 記者 報告書を、恒久法の制定につなげていくのか、いかないいろいろあると思うんですが

 福田氏 恒久法というのは一般法のことですか?

 記者 そうです

 福田氏 これはー、今ですね、一般法は、今の国会の状況でなかなか難しいのではないかという、そういうような話は党のほうからうかがっておりますんでね、ですからそういうことになるのかどうかはわかりませんけど。

 記者 安保法制懇の会議自体の取り扱いはどうされるか

 福田氏 何の?…ああ、会議ですか? これはー、あのまあ立派なね、先生方が集まって、ああいう報告書を出してくださったということで、一応これで報告終わったわけですから、まあ…、まあ完結したんじゃないんでしょうかね。》

 因みに、集団的自衛権の行使ができないなんて、憲法には一行だって書いてありません。福田氏の言葉がいかにいいかげんでその場しのぎ以下のものであるかがよく分かると思います。その点をきちんと突っ込めない記者も記者ですが。

 私は記事の中で、福田氏に「度量を見せてほしい」と書いていますが、まあ、最初からそんな度量があろうはずもないとは分かっていました。しかし、この志を持たない福田氏の「まあ完結したんじゃないでしょうか」というイヤミあふれる、一生懸命議論して報告書をまとめたメンバーへの思いやりのかけらもない言葉を読むと、どうにも怒りが抑えられません。自国の首相にこんな言葉をぶつけたくはないのですが、本当に「最低」の首相だと言わざるを得ません。こんな人が現在の日本の首相であるということに、強い屈辱を覚える次第です。