JR某駅で電車を降りてふと空を見上げると、そこには大きな大きな飢えたホオジロザメが口を開けて待ちかまえていて、誰彼かまわず、通りかがる人すべてに噛みつこうと身構えているように見えました。

 

 すべてを見逃すまいと狙い、でも実は何も見えていないかのようにも思える濁った目は虚空を見据え、とがった鼻はどんなかすかな血のにおい、傷ついた者のにおいも捉えようと常に何かが起こるのを待っているようでした。それは、想像を絶するような巨大なひとりの修羅をも思わせる圧倒的な量感を備え、四方を睥睨していました。

 

 しかし、「二億年続く悦びはなし 二億年続く哀しみもなし」(夢枕獏氏)。色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識亦復如是…。

 

 雲は、みるみるうちに姿を変え、恐ろしいサメの姿はどんどん溶けてやがて消えていきました。私は流れゆく雲の姿を眺めるのが大好きなのですが、「雲は天才である」(石川啄木)という言葉は、実に言い得て妙だなあといつも思います。