今朝の産経も報じていますが、昨日、NHKが昼のニュースで流した中国製ギョーザ中毒事件の続報について、外務省は事実関係を強く否定しています。NHKの報道は「
工場関係者が個人的な動機で毒物を混入した可能性が高いという見方を日本側に伝えてきたことが分かった」といった内容でしたが、外務省はそうした事実はないというのです。実は私も、昨日は土曜日だったので家族と外出していたのですが、社から電話がかかってきてNHK報道の裏取り取材をさせられました。

 

 そこで、何本か関係者に電話をかけ、やっと担当者をつかまえたのですが、その相手は「本来なら、『捜査中のことは答えられない』と言うべきなのだが、このNHKの報道は全くでたらめだ。間違った事実が一人歩きして広まるのはよくないので、明確に否定する」といったことを私に説明しました。さらにその後、外務省は報道を否定する文書を発表したわけですが…。

 

 ただ、この一連のギョーザ事件をめぐる報道も政府の姿勢も、私にはどうにも納得がいかないのです。今年2月の段階では、中国公安省は国内での毒物混入の可能性を否定し、責任を日本側に押しつけていたわけですが、それが8月6日付の読売新聞の特ダネ記事から様相がガラっと変わります。「中国トップの考えで、方針が変わった」(外務省幹部)のはその通りでしょうが、日中両政府の動向がいろいろと不可解というか怪しいというか。私はそれまでの自分自身の取材をもとに、8月9日付のSANKEI EXPRESSのコラム「福田政権考」に、「ギョーザ事件 謎の多い『ストーリー』」と題した次のような記事を書きました。

 

 《中国製ギョーザ中毒事件にからみ、製造元の中国・河北(かほく)省の「天洋食品」のギョーザが、中国国内でも中毒事件を起こしていた問題が波紋を広げている。主党など野党はこの問題に関して国会での閉会中審査を求め、マスコミは政府が情報を公表してこなかったとして批判している。さらには、政府部内からも「問題の早期決着を図るため、中国が創作したストーリーなのではないか」(外交筋)という観測まで出ている。

 

    不自然な展開

 発端は、読売新聞が6日付朝刊1面トップに掲載したスクープ記事だ。白抜きの大見出しで「天洋餃子 中国で中毒」と報じ、「『天洋食品』が事件後に回収したギョーザが通し、このギョーザを食べた中国人が有機リン系殺虫剤メタミドホスによる中毒症状を起こして、重大な健康被害が出ていたことがわかった」と書いている。

 これに対し、外交筋は「不自然だ」としてこう指摘する。

 「いったん回収したものを食べるなんて信じられないし、ふつう考えられない話だ。そもそも、中国側はこれまで、こんな具体的でよくできた話は日本に言ってきていない。それなのに突然、日本で一番発行部数の多い新聞にリークされた」

 マスコミは政治家の言葉に乗って、中国側から7月初旬に「中国国内で中毒事件発生」という情報を伝達された後も、政府が1カ月にわたりそれを放置してきたと断定的に書いている。だが、外交筋によると、そのころ中国側から伝わっていたのは、中国がギョーザ事件の捜査態勢を強化しており、何か動きがありそうだという感触レベルの話だったという。

 7月末の時点では、中国側は「北京五輪が終わるまで何もできない」として、ギョーザ事件の進展は五輪閉会後という見通しを示していたともされる。外務省関係者は「もし仮に中国から中毒情報が寄せられていたとしても、中国が極秘捜査を進めている内容について、日本が勝手に公表できるわけがないだろう」と述べた。

 

    すぐに認めた中国

また、読売の報道後、中国外務省がすぐにこれを追認し、6日付で「中国国内でも6月中旬に中毒事件が起きていた」と発表したことも不自然だ。

ただでさえ国内問題について秘密主義の傾向がある中国が、捜査途中の情報をあっさり認めるのも珍しい。また、こうしたすっぱ抜きの記事が日本の新聞などに掲載された場合、いつもは「日本の情報管理はどうなっているのか」と文句をつけてくる中国側が、今回に限って日本の外務省に何も言ってきていないという。

こうした点を踏まえ、外交筋は「これは中国当局のかなりハイレベルの人間による決定ではないのか。武装警察による日本人記者暴行事件などもあり、まずいと考えた中国側が、勝手にストーリーをつくって犯人を捕まえる絵図を描いたのだろう。中国は何でもありの国だから」という見方を示す。

一方、福田康夫首相(72)は6日午前、この問題について記者会見で「捜査上の問題もありますので説明するわけにいかないが、(日中間の協議が)進行中であるというように理解してほしい」と語り、中国での中毒事件発生を把握していたことを示唆している。

消費者行政の充実を掲げる福田首相としても、いつまでも日中間でギョーザ事件を引きずることは政権にとってダメージとなり、問題の早期決着は大歓迎であるはずだ。首相は、中国政府要人と独自のパイプを持つこともあり、「首相が外交当局の頭越しに、中国の描いたストーリーに乗っていた可能性もある」(政府関係者)との指摘が出ている。(政治部 阿比留瑠比)》

 

 …問題の早期決着のために、じっくり真相を解明するよりもとにかくスケープゴートを見繕って捕まえたり、自殺させたり(中国流)して、ギョーザ事件はもう終わりましたというストーリーを中国がつくり、それに日本側も官邸主導で乗ったのではないか、そして報道もそれに利用されているのではないか、という記事です。この話の複数の情報源は当然のことながら書けませんが、「ええ!そういう立場の人がこう言っているのか」と驚く人もいるのではないかと思います。

 これ以上は、何を書いても人物特定のヒントになるので触れませんが、私は現在でも基本的にこの線が正しいのだろうと考えています。この人は「対中外交というのは、ふつうの人が考えるような外交とは全然違う。ただ、どういう形であれ、中国側が折れてきたともいえるので、これはこれで成果だ」とも語っていました。ただ、明確な証拠と言えるものは示せないので、あくまで署名コラムの中で、「こういう見方が出ている」という書き方をするしか紙面では展開できなかったわけです。

 

 一方、この間、内閣改造後の大臣インタビューがあり、下の短い記事も書きました。これは、高村外相はこう述べたと、言ったことをそのまま書いたわけです。

 

《高村正彦外相は7日、産経新聞のインタビューに答え、中国でギョーザ中毒事件があったことをいつ知ったかについて「7月初めに『中国国内で(有機リン系殺虫剤)メタミドホスによる中毒事件が発生した。とりあえずお知らせします』と、(中国から)そういう報告があった」と述べ、7月初めに情報を把握していたことを明らかにした。

 これまで公表しなかった理由に関しては「今発表されてしまうと捜査に支障を来すので、これから捜査が進むまでは発表しないでくれとの縛りをかけた情報提供だった」と語った。

 また、「政府部内では一定の範囲で情報を共有した」と述べ、このことを知っていたのはごく小人数だったことを示唆。情報提供ルートについては「通常の外交ルートとみていただいてけっこうだ」と述べた。》

 

 ちょっと補足すると、高村氏は「中国からの報告に天洋食品という名前があったかどうかは覚えていないが、メタミドホスという言葉はあった」と具体的に語りましたし、私が「それは通常の外交ルートからの情報と考えていいのか」と聞いた際も、一瞬考えていましたが、「それでけっこうだ」と答えました。ただ、このときはまだ、中国からの通報時期については7月初旬という表現にとどまっていました。後に政府は、7月7日と特定して発表するのですが。また、「一定の範囲で情報を共有した」という言い方も思わせぶりですね。一定の範囲の人間で中国側と「握った」と言っているようにも聞こえましたが…。

 

 このインタビュー内容を伝えると、ギョーザ事件に関する情報源の1人は「ああ、政府内でもう口裏を合わせたようだね」と話していました。記者対応を含め、対外的にはこれこれこういうことにしておこうという話し合いができたのだろうと。確かに、上に述べた日時の発表にしても、当初は人によって言うことにあいまいさや食い違いがあった政府も、その後はどんどん発言内容が統一されていきました。

 

 さて、そういうところに今回のNHK報道があったわけです。私としては、7月7日に政府が言うようなきちんとした通報があったということ自体、疑っているわけですが、本当にそれが事実かどうかとは別に、政府が報道や事実関係について何と述べるかは取材して押さえておかなければならないわけです。また、当然、関心もあったわけですが、結果は冒頭に述べたような全否定でした。以下が外務省の発表文です。

 

《本日16:45付けで以下の外務省報道発表を発出致しました。

本30日、一部報道において、中国政府が、中国国内で起きた中毒事件について、工場関係者が個人的な動機で毒物を混入した可能性が高いという見方を日本側に伝えてきた、毒物が中国国内で混入した可能性が高いことを初めて正式に認めた旨、報じられているが、日本政府として、中国政府からそのような情報の提供を受けたことはない。》

 

 さて、これをどう見るか。私は読売さんやNHKさんや他のマスコミがどんな取材をしているのか知りませんし、だれにどのように聞いて記事を書いているのかも当然知りません。ですので、現在のところ、あくまでただ私がどう感じたかというだけの戯れ言の一種に過ぎないということを断った上での話ですが、今回はNHKが中国側がアドバルーン情報を流すのに利用されたのではないか、と咄嗟に受け止めた次第です。そして、事態が今後、報道通りに進もうと進むまいと、それは今回は日本側に根回しされたものではなかったのだろうと。

 

 拉致問題について、北朝鮮かその出先機関、シンパ議員らが情報の出元と思われる記事がときどき他紙に大きく載りますが、中国も東シナ海のガス田問題などで、日本人記者にときどき「中国側の主張」や「議論過程で消えた話だが、中国側に都合のいいこと」などをリークし、書かせていたようです。そして、それに対する日本国内の反応や、政府や他のマスコミの対応などを見極めたり、議論そのものをミスリードして混乱させることを狙ったりいうこともあったのでしょう。

 

 情報の真偽は定かではなくても、いわゆる大マスコミが大きく報じると、その情報はインターネットを駆けめぐり、とりあえずその報道を前提とした議論が行われますね。それに対して、あとから違う事実を示してみても、最初に受けた印象を覆すことはあまりできません。で、何が言いたいかというと、一連のギョーザ報道・発表には、典型的な「謀略」の気配を感じざるを得ないなあとずっと思っているということです。中国にとっては、まさに国益のかかった謀略戦であるのかもしれませんし。ただ、そのような疑念は覚えつつも、それでただちに対抗策をとるような力はなく、こうした場で細々と「本当にそうか?」と問い続けるしかできませんが…。