本日は、東京地検特捜部の捜査の行方に注目している準大手ゼネコン「西松建設」(東京都港区)の裏金問題について、私自身の頭の整理も兼ねて取り上げます。この問題については、連日のように新聞の1面や社会面で大きく取り上げられていますが、テレビの扱いはいまひとつのようですね。テレビの短いニュース枠では、特集でも組まない限り、こうした詳しい説明がないと理解しにくいような複雑な問題は、あまり報じない傾向があるのだろうと思っています。テレビニュースで読み上げられる字数は、実に少なく、新聞で言うとミニニュース程度の分量であることが多いですからね。

 

 この問題は主に社会部マターであり、私は直接取材する立場にないので、ここでは新聞各紙が報じた内容をもとに、私の見聞きしたことを補足したいと思います。気分次第で適当に切り抜いておいた新聞記事の中から引用したものなので、漏らした記事や内容も多いことでしょうがそれはご容赦ください。

 

 問題となっているのは、西松建設のOB2人が設立した政治団体、「新政治問題研究会」と「未来産業研究会」が約4億8000万円に上る政治献金をしていた問題です。このカネが、民主党の小沢一郎代表や山岡賢次国対委員長、自民党の二階俊博経済産業相や森喜朗元首相、尾身幸次元財務相ら与野党の議員に献金されていたわけですが、この2政治団体は西松建設のダミーで、実態は脱法的な「迂回献金」に当たるという疑惑があります。この点について、昨年12月29日付の東京新聞は次のように書いています。

 

「リクルート事件をきっかけとした法改正で1995年、企業・団体から政治家個人への直接献金が禁じられ、2000年には資金管理団体への献金も禁止に。しかし、政治家が代表を務める政党支部を利用した迂回献金など、企業側は法の網をくぐり抜け、政治家に金を流し続けた」

「04~06年の主な献金先は、小沢一郎・民主党代表の資金管理団体『陸山会』へ1400万円、自民党・二階派の政治団体『新しい風』(二階俊博代表)へ778万円など、与野党首脳や建設族の議員が中心。小沢氏については、岩手県の政党支部にも1700万円を寄付している」

 

 …この時点でも、興味深い記事だなあと注目していたのですが、西松建設をめぐっては今月14日、同社元副社長の藤巻恵次容疑者ら4人が東京地検特捜部に外為法違反容疑で逮捕されたことで、再びこの政治献金の問題がクローズアップされました。もともと政治資金規正法はザル法ですし、この事件の本筋でもないのでしょうが、各紙は続報などでこの問題を取り上げています。15日付の読売新聞はこう報じています。

 

 「特捜部は、西松建設がOBを代表にした二つの政治団体を隠れみのにして国会議員らに行っていた献金についても捜査。これらは他人名義での献金や政党以外への企業献金を原則禁止している政治資金規正法に違反する疑いがあるため、同社関係者から事情聴取を行っている」

 

 逮捕された4人の中には、同社子会社「松栄不動産」元社長、宇都宮敬容疑者の名前もありました。15日付の朝日は「外為法違反容疑で逮捕された4人のうち、裏金の使途解明に向けたカギを握るのは、西松建設の藤巻元副社長と、同社の元部長で子会社『松栄不動産』元社長の宇都宮敬容疑者とみられている。いずれも、社内で国沢幹雄社長の側近とされていた」と指摘しています。松栄不動産について、17日付の産経は「西松の政界への資金提供の窓口だった疑いのある」と指摘した上で、次のように書きました。

 

 「松栄は民主党の小沢一郎代表が党首を務めた旧自由党の政治資金団体などに献金。西松が小沢氏ら国会議員8人の資金管理団体に事実上の企業献金を行った際のダミーだった政治団体の代表は、松栄の監査役を兼務していた。特捜部は松栄を通じて裏金も政界に流れていた可能性があるとみている」

 「政治資金収支報告書などによると、松栄は平成13年、旧自由党の政治資金団体『改革国民会議』に200万円、14年にも100万円を献金。国会議員のパーティー券購入など、政界に資金を支出していた」

 

 …さて、ここで「改革国民会議」の名前が出てきました。これは、小沢氏の側近である平野貞夫元参院議員が会計責任者を務めており、現在は小沢事務所が「関係団体だが、小沢氏自身の政治団体ではない」と説明している団体です。昨年9月の政治資金収支報告書公開時で11億1104万円もの繰越金(資産)を保有していました。ちなみに自由党は平成15年9月26日の解党の2日前、合併相手の民主党からなぜか2億9540万円もの寄付を受けた一方、解党当日には、改革国民会議に13億6816万円を寄付しました。そのため、国会で「(政党助成金は、解散時に残金があれば国に返還しなければならないため)政党助成金の返還逃れではないか」(故松岡利勝元農水相)と追及されたのは、以前のエントリで紹介した通りです。

 

 ちょっと話が脇にそれましたが、要するに西松は、2つの政治団体と子会社を使って小沢氏の資金管理団体や政党支部、関係団体に献金してきたということになります。前述の通り、西松は小沢氏以外の複数の与野党議員にも献金していますが、特に小沢氏を大事にしている姿がうかがえますね。

 

 それでは、なぜ西松は大物政治家とはいえ、野党生活が長く公共工事に絡みにくく見える小沢氏のことをこれだけ優遇してきたのか。旧田中派に詳しいベテラン秘書に意見を求めたところ、あっさりとこう言われました。

 

 「そんなことも知らないの?西松には昔、Sさんという社長がいて、その娘が金丸信さんの次男坊と結婚している。そういう関係がある。金丸さんは当時、小沢さんを異常にかわいがっていて、小沢さんにいわゆる『利権』を譲ったから、西松の仕事は小沢さんが仕切ることになった。当時、西松は(金丸氏の地元の)山梨で大きく業績を伸ばしたけど、それも最後は小沢さんが取り仕切っていたよ」

 

 …これは以前も書いたことなのですが、繰り返して述べたいと思います。2年前に国会で政治とカネの問題が大々的に取り上げられた際には、「分かりやすい」ためか、何よりも領収書の有無ばかりが焦点として扱われ、マスコミも大騒ぎし、まるで1円から領収書を公開すれば問題はなくなるかのような議論が横行しました。そうした中で、例えば資金管理団体、陸山会による大量の不動産購入問題では、事務所費の領収書を公開した小沢氏は一部メディアで喝采され、「次は自民党が公表する番だ」(毎日新聞の社説)といった論調が出ていました。

 

 でも、あのときの小沢氏の「公開」は、コピーや写真撮影は認めず、公開時間も報道機関1社あたり30分間で、閲覧者も3人に限定するというもので、どの社だろうと、とても十分なチェックなどできるものではありませんでした。その点を当時指摘したのは日経新聞だけでした。私には、みんな問題の本質を忘れて領収書に目をくらまされているだけのように見えました。例えば領収書さえ整っていれば、いや、整っているように演出すればそれでいいのかと。とにかく物事を単純化してテレビの前で「分かりやすく」訴えれば、それでその他のことは不問にされていいのかと。

 

 今回の西松による脱法的な迂回献金疑惑も示すように、政治資金規正法はまだまだ穴だらけな不透明なものです。脱法行為に何の手も打てず、それを正すことも難しい現状から見れば、法改正で1円から領収書を揃えることになったなどというのは極端に言えば枝葉の問題だと思います。何を今さらのような話ですが、ずっとそう書いてきましたし、今もそう考えています。東京地検特捜部の捜査が、多くの人が政治とカネについて思いをめぐらし、問題意識を持つきっかけになればいいと思っています。