本日は、国連北朝鮮人権状況特別報告者であるタイのチュラロンコン大学のムンタポーン教授が外務省を訪れ、中曽根外相を表敬しました。教授は、国連人権委員会(現在は国連人権理事会に改組)の決議に基づき報告者に任命され、北朝鮮の人権状況に関する情報収集を行うため来日中とのことでした。ぜひ有益な、拉致被害者とその家族の心が伝わる情報を集めていってほしいものです。

 

   

 

 写真右がムンタボーン教授です。中曽根氏は会談の冒頭、いわゆる頭撮りの場面で、「去年の国連総会(第3委員会)に提出されたあなたの報告書は示唆に富み、バランスがとれていると歓迎している。特に、拉致問題の解決に向けて、説明責任と透明性を持って協力するように北朝鮮に要請していることを高く評価する」と語っていました。これに対し、ムンタボーン氏は「今回の訪問では新潟県の拉致現場も訪問した。この問題を引き続き報告書で取り上げ、国際的関心を喚起していく考えだ」と答えたそうです。あまり注目はされなくても、こういう人たちが地道に活動を続けることで、拉致問題への国際社会の認識が深まっていくことを期待します。

 

 さて、この日本の最大の関心事の一つである拉致問題について、米新政権はどんな姿勢をとるのでしょうか。以前のエントリで、バイデン副大統領が「米国の加藤紘一氏」とも呼ばれる融和主義者であることへの懸念は書きましたが、やはり気になるのは国務長官に就任したヒラリー・クリントン氏がどうでるかです。

 

 ヒラリー氏は一応、23日の中曽根氏との電話会談では、拉致問題について「大変重視している。被害者家族と日本国民に強い思い、シンパシーを感じている」と述べてはいますが、どこまで本気でどこまでリップサービスなのかは、まだ分かったものではありません。この人も「米国の田中真紀子氏」という見方もあったぐらいですからね。まあ、この見方についてある外務省幹部に話したら、「それは田中真紀子氏の実像を知らない人の意見でしょう」と、田中氏と比較するのはいくら何でも失礼だとたしなめられましたが。

 

 ともあれ、私は2006年9月3日のエントリ「中国と米民主党と日本のナイーブさ」(http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/33356/)の中で、米民主党とクリントン夫妻が、いかに中国と親密か、あるいはべったりとした関係にあるかについて少し触れています。それでは北朝鮮についてはどうなのか。古い取材メモをめくっていて、3年ほど前に、旧ソ連、北朝鮮、中国に関する情報分析を専門とした元公安調査庁第2調査部長、菅沼光弘氏から聞いたエピソードを見つけました。菅沼氏は私にこう語っています。

 

 「北朝鮮は米国への働きかけ(工作)に相当カネを使っている。そして、もともとクリントン(元大統領)は大阪のある在日朝鮮人を通じ、北からカネをもらっていた。この在日朝鮮人は、クリントンの大統領就任演説にも呼ばれていたし、クリントンは来日し際にも会おうとした。いま、北はターゲットをヒラリーに向けている。北の対米戦略は、(核、拉致などの)問題をヒラリー大統領誕生まで引き延ばそうというものだ。当然、ヒラリーはブッシュの対北政策を非難するさ」

 

 …正直なところ、菅沼氏の話はどこからどこまで事実なのか分からない、ウラのとりようのない部分があり、かつ、菅沼氏自身、公安関係者からは「ミイラとりがミイラになった」と北朝鮮とのかかわりを指摘されることがあります。ですので、このコメントは当時は使わなかった経緯があります。

 

 米オバマ政権が北朝鮮に対してどんなアプローチをとるかは、外務省内でも「米民主党はクリントン政権下の1994年の米朝枠組み合意を北に裏切られたことを忘れていない。対話ばかりに傾くということはない」(幹部)という見方もあれば、「政権交代のたびにスタッフが大きく入れ替わる米国は、前例を忘れて一から始めるため、同じ失敗を繰り返すという宿命がある」(別の幹部)という観測もあります。

 

 また、米朝枠組み合意による北朝鮮への軽水炉建設支援や、完成までの間の重油提供に際し、日本は大きな負担を一方的に負わされました。この事業にかかわった外務官僚の一人は激しい言葉で「あのとき、日本は米国に強姦されるような屈辱を味わった。米国を信用してはならない」と語っています。先日のエントリで取り上げたオバマ大統領の就任演説に関しても、省内から「テロ集団を『打倒する』と言っているのはいいが、米国は北朝鮮のテロ支援国家指定を解除しちゃったしなあ…」という嘆息も聞こえます。

 

 ヒラリー氏は、人権問題には厳しいはずだという指摘もあり、まだ北朝鮮に対してどう対応する気なのかは見えてきませんが、いずれにしろ米国の対北政策のカギを握る立場にいるので、今後も目が離せないところです。3年前に菅沼氏が語ったような方向に傾いていかないことを祈っています。もちろん、米国はどうあれ、何より日本が主体的に行動すべきは言うまでもありませんが…。

 

 あと余談ですが、米民主党の日本の民主党に対する視線は、「非常に厳しい」(日米交渉筋)と言います。私は複数の関係者から「米政府関係者や米大使館関係者に会うと、異口同音に『民主党議員はなぜ、「われわれは本気で(インド洋で補給支援を行う)テロ対策特別措置法に反対しているわけではない」と言い訳したがるのか』と尋ねられる」という話を聞きました。最近では、民主党議員が「まさか本気で反対しているとは思っていませんよね」と言うと、米側が「じゃあ何をしてくれるんですか」と切り返し、民主党議員が言葉に詰まる場面もあったそうです。

 

 小沢一郎代表が、シーファー前大使との会談を記者団にフルオープンにした上で米側の要請をはねつけ、シーファー氏をさらし者にした件(私の07年8月9日のエントリ「小沢・シーファー会談全文と小沢・横路合意文書」http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/262184/をご参照ください)は、「間違いなく米政府内で引き継がれ、米側は決して忘れない」(外務省幹部)とみられています。民主党のネクスト外相は日教組組織内候補の鉢呂吉雄氏ですし、日米関係はなかなか前途は多難であるようです。