《きみたちはわたしを崇拝する。だが、きみたちの崇拝がいつの日かくつがえったとしたら、どうだろう?(倒れかかってくる)立像に打ち砕かれないよう、用心せよ!》《これら善人ども、彼らは譲歩し、忍従する。彼らの心は受け売りし、彼らの心底は聴従する。だが、聴従する者は、自分自身の声には耳を傾けないのだ》(ニーチェ「このようにツァラトゥストラは語った」)

 

 昨日は、あれだけ民主党の小沢一郎代表との一蓮托生ぶりを強調していた鳩山由紀夫幹事長がテレビ番組で、今さらのように「(小沢氏の)進退問題が浮上しないと言い切るつもりはない」とトーンを変えてきましたね。その意味では、当初から小沢氏に理解を示しつつも微妙に距離を置く発言をしていた菅直人代表代行の方が、政治的には賢く振る舞ったということかもしれません(人間的にはどうだか分かりませんが)。

 

 で、今朝の朝日は2面の「時時刻刻」の欄で、「『代表さえ辞めれば総選挙で大勝』 民主、事件の進展注視」「『岡田克也代表に代えてきたら大変』 自民、春解散に高い壁」という見出しをつけてきました。私はこの社の記事内容や見出しの付け方には、これまで散々文句を言ってきましたが、たまには褒めようと思います。「うまいなあ」と素直に感じたもので。西松建設の件は、自民党の二階俊博経済産業相にも波及するようですし、民主党側が早期に小沢氏を降ろして新しい顔でくれば、これは自民党側も「麻生太郎首相ではまずい」という具合にクビのすげ替えに走り出すかもしれません。

 

 ほんの1週間前には、ちょっと想像し難かった展開ですね。使い古された言葉ではありますが、まさに「政界一寸先は闇」。それとも、これこそが予定調和であり、神の見えざる手の成せるわざなんでしょうか。まあ、それはともかく、昨日から今日にかけては新聞各紙の世論調査が出ていたので、ちょっとまとめてみます。

 

 まず、今回の件で小沢氏に辞任を求める声をみると

 

・産経(フジ)   47.4%(「辞任すべきとは思わない」は41.4%)

・朝日       57%(「続ける方がいい」は26%)

・読売       53.1%(「辞任する必要はない」は36.1%)

・共同通信     61.1%(「代表を続けてよい」は28.9%)

・毎日       57%(「辞める必要はない」は33%)

 

 となっています。産経の調査が一番小沢氏に優しい結果となっていますが、それでも辞任を求める意見の方が6ポイント多く、朝日に至っては30ポイント以上も「辞任派」が上回っています。これだけ同じ設問で結果のばらつきが多いのは最近では珍しいと思いますが、質問の仕方、聞き方の差でしょうかね。ちょっと分かりませんが、いずれにしろ、予想通り、小沢氏には厳しい数字が出ていますね。

 

 次に、記者会見その他での小沢氏の説明は不十分とする見方は

 

・産経(フジ)   76.6%(「責任を果たしている」は18.2%)

・朝日       77%(「納得できる」は12%)

・読売       80.8%(「納得できる」は11.5%)

・共同通信     78.4%(「納得できた」は12.4%)

・毎日       79%(「納得できる」は12%)

 

 こちらも産経の調査が比較的小沢氏に甘い結果となっていますが、他紙はあの説明に納得できた人は11~12%にとどまっています。そりゃそうだろうなというか、1割強の人が納得してしまったことがかえって不思議な気もしますが。今朝の毎日のコラム「風知草」では、編集委員の山田孝男氏が「小沢の反論に中身がない」と断じていましたが、そもそも小沢氏は、何かを他者に説明する能力・資質に欠けた人ではないかと私は、過去の言動をたどりながら考えています。

 

 では、今回の件で民主党の支持率はどうなったか。

 

・産経(フジ)   23.9%(前回調査比2.0ポイント減)

・朝日       22%(同4ポイント減)

・読売       23.8%(同4.5ポイント減)

・共同通信     27.4%(同6.2ポイント減)

・毎日       22%(同7ポイント減)

 

 またまた産経が一番民主党への打撃が一番少ない形ですが、それでも昨年11月の調査以来、久しぶりに自民党の支持率(26.6%、前回調査費4.7%増)が民主党を上回りました。これは、民主党議員たちも心穏やかではいられないでしょうね。二階氏サイドへの捜査が本格化したら、現役閣僚ということもあって麻生内閣のダメージは大きいでしょうが、小沢氏は党の顔である代表だけに、これもかなり深刻な事態です。

 

 じゃあ、肝心の麻生内閣の支持率はどう動いたかというと

 

・産経(フジ)   17.0%(前回調査比5.6ポイント増)

・朝日      14%(同1ポイント増)

・読売      17.4%(同2.5ポイント減)

・共同通信    16.0%(同2.6ポイント増)

・毎日      16%(同5ポイント増)

 

 こういう数字で、「敵失」があったからといって内閣支持率が急によくなるわけがないという当たり前の結果が表れています。それでも私が目を通した5つの調査のうち、4つでは微増していますが、読売では逆に微減しており、まあ、麻生氏にとって喜べた数字ではなさそうです。支持率が1割を切るという悪夢は免れたものの、かなりの低空飛行であることには変わりませんし。

 

 最後に、麻生VS小沢でどちらが首相にふさわしいかをみると

 

          麻生氏              小沢氏

・産経(フジ)  23.2%(4.3ポイント増) 29.8%(14.6ポイント減)

・朝日          22%(3ポイント増)    32%(13ポイント減)

・読売     26%(2ポイント増)    35%(5ポイント減)

・共同通信   25.6%(5.2ポイント増) 33.6%(12.8ポイント減)

・毎日     10%(2ポイント増)    13%(12ポイント減)

 

 こうなっています。小沢氏への失望も確かに表れていますが、小沢氏が減らしたポイントがそのまま麻生氏に向かわないところに、現在の政治状況の閉塞感と難しさがあるような気もします。もっと言えば、小沢氏側にあれだけ大きな問題が発覚したにもかかわらず、麻生氏はまだすべての調査で小沢氏に負けているわけで、問題の根の深さがうかがえます。この数字は、政府・与党側にも相当ショックだったかもしれません。

 

 最初に挙げた今朝の朝日の記事は、「両党首 負け比べ」という大見出しもつけていました。まったくだと率直に感じています。政権を担い、また次を狙う二大政党の党首どちらもが、国民の信頼を勝ち得ていない現状は、やはり困ったものだと思います。小沢氏という「神話」「偶像」が倒れ、崩れ落ちてきたとき、民主党議員たちはどう動き、難を逃れるのか。

 

 こうした政治の現状を考えるとき、たびたびご指摘をいただくように、マス・メディアのあり方も真剣に反省し、見直していかなければならないのでしょう。ただ、これからの日本社会でどういう情報伝達・共有のあり方が可能であり、目指すべきなのか、「鈍」な私には答えがなかなか見えてきません。