昨日は衆院本会議で、脳死後の臓器提供の年齢制限を撤廃し、本人が生前に拒否しなければ家族の同意で提供を可能にする臓器移植法改正案のA案が賛成多数で可決されました。これは、各人の死生観、宗教観、倫理観にもかかわる重大なテーマであり、かつ現実に臓器提供を待ちわびる患者や家族にとっても医療の現場にとっても重大な国会(衆院)の判断でした。ただ、この問題は主に社会部が取り扱うテーマであることと、本日の紙面でも大展開されているので、ここで取り上げる必要はないかとも思いましたが、ひとつ気になることがあったので簡単に紹介しておきます。

 

 改正案は今後、議論の舞台を参院に移すわけですが、今朝の産経の1面に民主党が第一党である参院の「ドン」、輿石東民主党参院議員会長の見解を伝えるごく短い記事(14行)が掲載されていました。それは、次のようなものでした。

 

 《民主党の輿石東参院議員会長は18日、国会内で記者会見し「臓器移植法案を最優先でやらなければいけないとは思っていない。急がなければ死んでしまうという話でもない。一日も早く救いたい気持ちは分かるが」と述べた。輿石氏は、民主党が国会に提出している母子加算手当を復活させる生活保護法改正案を挙げ「母子加算(法案)との兼ね合いもある」と指摘した》

 

 一読、これはことの重大性に気付いていない、はっきり言ってまるっきり認識不足の発言ではないかと感じました。私の同僚もつい先日、臓器の提供者・適合者が現れない(間に合わない)ため異国の地で親族を亡くしましたし。ただ、こういう短い記事では発言の前後を省いて(丸めて)一番インパクトの強い部分だけを抜き出さざるを得ないことがあるので、記者会見に出た記者にその前後のメモも送ってもらいました。以下がそれです。

 

記者:衆院でA案が送付される。感想と参院審議のあり方について。

 

輿石氏結論から言うと考えていない脳死は人の死ということでしょ。それぐらいは分かる。BCDと4つある。B案は厳しく条件つける。どれがいいとか、党議拘束をかけないということはひとつの方向にまとめないということ。議員個々に任せる。会派がどうするという話ではない。審議の仕方は議員立法のひとつ。

参院には母子加算とか、父子家庭のお母さんしかいない、お父さんしかいないという家庭にどういう愛の手を差し伸べるかと。こういう法案も残っているわけだから。それとを比べて優先順位を決めることも考えられる措置でしょう。来たからすぐにやると(はならない)。急がなければ死んでしまうという話でもない。まあ、脳死は人の死ということで、そういう病で倒れている人を一日も早く救いたい気持ちは分かるけれども。審議の仕方からすれば、A案が送られてくるということなので、各議院にいろいろな思いがあるので厚労委員会でどういう審議の仕方をするかはこれから考えればいい。厚労委員会を中心に。

 

記者:臓器は今国会中に結論出せるか。

 

輿石氏:党議拘束をかけていない法案だから。ひとつの案があって、時間をかけてここまでにやろうという話じゃない。分からんねえ最優先でやらなければいけないとは思っていないってこと。》

 

 …基本的に記事の通りでした。私は輿石氏に関しては今まで日教組や山梨県教職員組合との関連でいろいろと書いてきましたが、やはり他の点でも問題だなあ。この発言からは、例えばA案よりD案(15歳以上は現行法を維持し、15歳未満は家族の承認などを条件に提供を認める)の方が望ましいと考えているとかそういうレベルではなくて、単に輿石氏が今まで何の関心も知識も持たずにいただけだということがよく分かります。ご本人も「何も考えていない」と正直に述べているし。

 

 で、今朝の民主党参院議員総会のあいさつでの輿石氏の発言は、かなり軌道修正が入っていました。以下のものがそれですが、新聞、テレビの報じぶりを見て「そんなに大きな話だったのか」と気付いたのか、あるいは参院でこの法案の審議が進まないと、麻生首相の解散のタイミングも遅れることになると政局的に考えたのか。

 

輿石氏:処理の仕方によっては大きな責任を負うという宿命を持っている。この問題については脳死は人の死という定義にもつながるA案が参院に来た現実を踏まえ、どのように扱っていくか。われわれも大変重い法案なので、きちんと議論し、ひとつの方向性を出さなければいけないだろうと。いたずらに引き延ばしたり、拒否をしたりすることは毛頭、考えていない。しかしきちっと議論は尽くす。》

 

 いずれにしても、参院は衆院に比べA案に慎重な議員が多いとされますし、まさかA案が衆院で可決されるとは思っていなかったメディアも、これまで以上に注目するかもしれないので、参院での審議の行方は要注意ですね。さあて、この何も考えていない輿石氏は「参院のドン」として議論の方向性に道筋をつけようとするのか、それとも放っておくのか。…なにはともあれ、なんだかなあ。