本日は、いつものように4週間ぶりの読書エントリとなります。今月は雑用が多く、けっこう多忙で精神的に余裕がなかったためか、読んだ本も時代小説を中心に比較的読みやすい手軽な本に傾いたようです。でも、その中でも今まで知らなかった「これはいい」という作家とも出会いました。最近では、家人からも「本に依存している」と呆れられている次第ですが、読書だけはやめられませんね。(今回も5段階の☆印で自分勝手な評価をつけますが、基準はあくまで私の趣味・好みの問題なのでご勘弁ください)

 

 まず、最初に読んだのは前回読書エントリでも紹介した原宏一氏の「トイレのポツポツ」(☆☆☆)です。なんかユーモア小説のようなタイトルなのですが、これがけっこう真面目な企業小説の趣きでした。ある中堅食品会社で、一つの社内メールをきっかけに社内の権力闘争、同族支配の実態、表示偽装などの諸問題がどんどん明るみに出始め、やがて内部告発に業務停止、そして再生へと…というストーリーです。タイトルは、「社内が乱れてくるとトイレの汚れもひどくなる」ことを表しています。 

 

     

 

  で、次は「一膳飯屋『夕月』 しだれ柳」(☆☆★)というおそらく読んだことのない作家の作品に手を出しました。私のこれまで書いてきたことをご存じの方は想像がつくと思いますが、「一膳飯屋」という言葉にひかれた次第です。主人公は町屋で町人出身の妻と暮らしているが、もとは御家人で、将軍の食事を調理する御膳所御台所人の三男という設定は興味深く、出てくる料理もおいしそうなのですが…。趣味と理解力の問題でしょうが、文章のつながりがときどきよく分からないことがあり、どういう意味だ?と読み返すことがありました。

 

     

 

  これは話題作ですね。またまた料理屋を舞台にした「みをつくし料理帖 八朔の雪」(☆☆☆)は、帯で角川春樹氏が「山本周五郎の『さぶ』以来の感動!十年に一冊の傑作」とまで激賞しているので、そこまで言われたら読まないわけにはいくまいと手に取りました。初めての作家でしたが、天涯孤独の若き女料理人がまっすぐに成長するという内容で、確かにいい作品でした。思わせぶりな終わり方からみて、これはシリーズものになりそうです。巻末に作中に出てくる新作料理の調理法が付録としてついていていて感心しました。

 

     

 

  これはいいなとなると、続けて読みたくなる方なので、次は同じ作家の「出世花」(☆☆★)です。中身は、帯にある通り「江戸時代のおくりびと」という感じで、これも面白くはあったのですが、私には主人公がこの道を選び、それに生涯を捧げようと決めることにいまひとつ必然性が感じられず、少し厳しい評価としました。もっと普通の幸福も同時に追及する方が当たり前ではないかと。

 

     

 

  この高田郁氏の作品の中では、最後にあげる「銀二貫」(☆☆☆★)が一番楽しめました。これまた、結論から言うと寒天を使った料理開発に取り組む話で、これでは私は食べ物にしか関心がないのかと思われてしまいそうです。否定できないところでもありますが。…この作家は、何というか「真っ当」な人、生き方とはどういうものかを描こうとしているようで、読んでいて気持ちがいいです。

 

     

 

  今月は時代小説づいていたので、次は「山田浅右衛門斬日譚 絆」(☆☆☆)とあいなります。首斬り浅右衛門と呼ばれた処刑人で徳川家御佩刀御試御用役を務めた山田家のありようが「そういうものだったのか」ととても興味深く読めました。派手さはあまりありませんが、読み応えがありました。

 

     

 

  私が好きな作家である佐藤雅美氏の新刊「八州廻り桑山十兵衛 たどりそこねた芭蕉の足跡」(☆☆☆)は、やはり安定感があってよかったです。このシリーズも第七弾だそうです。主人公が、「あくせく働くばかりが能ではない」とさぼることを考えながらも、結局、事件(仕事)に巻き込まれて働かされてしまうところが…これも他人事ではないような。

 

     

 

  今月は私はかなり頭が朦朧ともしていたようで、何度も地下鉄で降りるべき駅を乗り越したり、本を水の中に落としたり、コップの水をこぼしたりしました。この上田秀人氏の「密封 奥右筆秘帳」(☆☆☆)は、「この文庫書き下ろし時代小説がすごい!」第一位だという宣伝文句に引かれ、初めて読んだのですが、これと続編(まだ途中までしか読んでいない)の二冊とも水浸しにしてしまいました。はい、徳川家の内情を描き、面白いです。このシリーズは4冊出ているようなのでまだ楽しめそうです。

 

     

 

  もったない、後にとっておこうと思いつつ、つい上橋菜穂子氏の「狐笛のかなた」(☆☆☆★)に手を出してしまいました。これも、「獣の奏人」「守人シリーズ」ほどではありませんでしたが、やはりしみじみといいです。架空の国、時代を舞台にしていますが、やはり、作者の世界観に納得させられるのだろうなあ。

 

     

 

  で、上の上橋氏が称賛しているという帯の文句に引き寄せられて買ってみたのが荻原規子氏の「RDGレッドデータガール」の第一作「はじめてのお使い」と第二作「はじめてのお化粧」(ともに☆☆☆☆)で、今月の一番の収穫でした。RDGとは、絶滅の恐れがある少女という意味らしいです。主人公は第一作では中学三年生、第二作では高校一年生という設定で、奈良県の山奥の神社で生まれ育ったため、極端に世間を知りません。

 

 その少女が、自分は何者であり、何がしたいのか、どうありたいのかに少しずつ目覚め、成長していくわけですが、その周囲には山伏だの陰陽師だの神霊だのが…まあ、詳しくは読んでみてください。それこそ好みの問題はあるでしょうが、お薦めです。

 

         

 

  いやあ、これは現代小説ですが、懲りずに食べ物方面のお話です。ただ、「遺言状のオイシイ罠」(☆☆☆)というタイトルからはミステリータッチかと思わされるのですが、タイトルを変更する前の原題は「東京・自然農園物語」だったそうで、ストーリーはどちらかというと後者の方がぴったりきます。突然、都内の4000坪の農地の相続人に指名された4人の男女が、遺言状の「条件」を満たすため悪戦苦闘しながら有機農業に取り組み、やがて…という内容でした。

 

     

 

  〆は、夢枕獏氏の「闇狩り師 黄石公の犬」(☆☆☆)です。帯にもありますが、私の大好きな「闇狩り師」シリーズの21年ぶりの新刊であります。本当にこの作者は多作ではありますが、書きかけになっている作品も多く、いつまで待たせるのかと。主人公の九十九乱蔵は身長2メートル、体重145キロという設定ですが、この圧倒的な肉体のパワー、エネルギーを描かせたら、夢枕氏にかなう人はいませんね。格闘小説でも第一人者ですし。

 

     

 

  現実が面白くないと、余計に読書に逃避しがちだと自分でも戒めてはいるのですが、カバンの中には常に本が2、3冊入っていないと落ち着きません。どうも近く衆院解散があるのではないかとの見方も出ていますが、これから日本社会はどこへ向かうのでしょうね。ますます本の世界に浸りたくなるようなものでないことを祈るとともに、自分のできる仕事を一つひとつするしかないのだろうなと思っています。