中国・新彊ウイグル自治区で起きたウイグル人と漢族との衝突事件が大きな話題となっています。中国の胡錦濤国家主席は晴れ舞台であるサミットをすっぽかして急遽、帰国しましたが、他の地域にも飛び火しかねないこの問題の根深さ、重要性を強く意識してのことだろうと思います。胡氏は、自身もかつてチベットで弾圧を行い、それを出世の足がかりとしてきた人だけに、小数民族問題には特に敏感にならざるを得ない部分もあるのかもしれません。

 

 現在、日本大使館員も各社の記者も現地入りし、状況把握に努めていますが、情報が錯綜していて、事情はよく分からないところもあるようです。まして、日本にいる私には、「又聞き」情報しか入ってこないので、本日はおそらく今回の事件の遠因の一つになっているであろう問題について書こうと思います。きょうはサミットの首脳声明でも「核兵器のない世界」を目指すことが盛り込まれたようですし。

 

 私は以前、先日のエントリでも紹介した日本ウイグル協会代表のイリハム・マハムティ氏から一冊の本を献本されました。それは、札幌医科大の高田純教授の「中国の核実験 シルクロードで発生した地表核爆発災害」(医療科学社)という著書で、イリハム氏は本に添えた手紙に、こう記していました。

 

 《核実験を行った国は多数あるがそれなりに放射能拡散には気を使い、被害を最小限に抑えるための事前の対策を行っている。それでもソビエト連邦時代に事故を起こして被害が広がった。しかし中国共産党政府の核実験は情報の公開は勿論、放射線被害に対する処置や医療行為などを行っていることを聞かない。このことは人類に対する大犯罪であると言っても過言ではないだろう。第1回の核実験は1964年10月16日東京オリンピックに合わせておこなわれた。日本人の気持ちを逆なでするような、徳の無い行為は許すことが出来ない》

 

 日本人にもっとウイグルの実態を知ってほしいというイリハム氏の気持ちが伝わってきます。また、高田氏はこの本の「序」で次のように書いています。なにげに中共べったりで知られる某公共放送もちくりと刺していますね。

 

 《実験場は、日本文化に大きな影響をもたらしたシルクロードの要所であった楼蘭の近くにある。日中の国交が1972年に再開し、日本人が好んで訪れる観光地でもある。筆者も、若いころに井上靖氏のシルクロードを舞台にした小説を読んでいたが、よもやそうした地で、中国が核実験を行っていたとは驚かされた。公共放送でも、しばし、この地の文明の遺跡を紹介してはいるが、この種の話題に触れることはなかった》

 

 この本によると、中国は、ウイグル人の暮らすウイグル地区のロプノルで、1964年から1996年にかけて、地表、空中、地下で延べ46回、総爆発エネルギー20メガトンの核爆発実験を行っているそうです(うち、放射線災害として最も危険な地表核爆発を含む大気圏実験を、少なくとも1980年までに21回実施)。ウイグル地区の当時の平均人口密度の推定値6.6~8.3人/平方キロメートルから、死亡人口は19万人と推定されるといいます。また、健康影響のリスクが高まる短期および長期の核ハザードが心配される地表の推定面積は、日本国土の78パーセントに相当する30万平方キロメートルに及び、観光などで現地を訪れる人は核ハザードのリスクも多少あることを知るべきだとしています。

 

 中国政府は公式な実験データの公表をしていないので、上の分析は隣接するカザフスタンの報告資料や、中国研究者の平松茂雄氏が日中友好協会を通じて入手した資料などをもとになされています。高田氏は次のように指摘しています。

 

《中国の核爆発実験においても、周辺住民への健康影響の調査と必要な医療対応が、人道上求められるのはいうまでもない。はたして、実際に関わった科学者や軍人、そして実験に関与はしなかった周辺住民の被害に対し、中国政府はいかなる対策を講じているのか。中国政府機関からの放射線防護上の線量および健康影響についての報告が公開されていないので、気にかかるところだ》

 

 《ウルムチおよびトルファンの人口は160万人および24万人である。その周辺にも集落が点在しているはずである。あるいは、遊牧民が暮らしているかもしれない。いずれにせよ、これらの地域へ夥しい核の砂が降下し、ウイグル人たちが危険な外部線量を受けた。さらに、汚染した農作物や乳製品、飲料水の摂取による内部被爆を受けたと考えることは、合理的である》

 

 …詳しい科学的分析については、この本に直接当たっていただきたいのですが、それにしてもひどい、とんでもない話ですね。某公共放送も、シルクロードに大量の取材班を送り、大金を使い、長期滞在して取材を重ねていたわけですから、少しはこうした問題も取り上げたらどうかと改めて感じました。中国に対しては、政治家にもよく「多数の異民族をまとめて統治していくのは大変なんだ」と変な同情を示す人がいますが、何をバカなことを言っているのかと思います。同情、共感する相手が違うだろうと。

 

     

 

 本日は都内で、昨年7月以来となる第5回日中人権対話が行われました。その席で中国側は、ウイグル自治区での衝突事件について「一部の不法分子による扇動があった。これに法律にのっとり対処した」と説明したとのことです…。