12日付の産経社会面に、「『国造り』テーマ 李登輝氏講演へ 9月、都内で」という小さな記事が載っていました。東京青年会議所(東京JC)などが日比谷公会堂で9月5日に開くイベントで、台湾の元総統、李氏が国造りをテーマに基調講演を行う、という内容でした。

 

   

 

 で、昨日のことですが、東京JCの事務局に、この講演の内容について少し聞く機会があったので、それを紹介します。まず、李氏の講演を企画した理由については、以下の現状認識があるとのことでした。

 

 「現在100年に一度の世界同時不況をはじめとし、国民が未来に対して夢を持てず、不安を抱く社会が訪れ、このまま進む日本の未来に希望は持てません。物質主義的、拝金主義的な価値観を追い求めた日本の姿は、本質的な日本の文化に基づいたものではなく、そのまで幾百世代と積み上げた日本精神とそれを支える日本文明との非連続性が日本人に方向性を見失わせていると言わざるを得ません。

決して懐古主義や戦前の体制への回帰ではなく、民族の歴史・誇りを忘れ去ることの危うさを自覚し、国民一人一人が今一度、精神的価値や民族特有の歴史・伝統を明確に想起し、未来を築く必要があります」

 

 そこで、李氏に「日本人が元気を出し、誇りを持てるような話を」と講演をお願いしたところ、快諾されたとのことでした。当日は、東京JCなどJC関係者も数百人くると見込んでいるそうですが、一般の人も1000人程度受け入れるとのことです。

 

 東京JC内では、例によって中国のご機嫌を損なうことを恐れた反対運動もあって相当もめたそうですが、なんとか反対派を押し切ったようです。李氏の訪日も、2000年の総統退任以来、5回目になります。07年6月の訪日時には、靖国神社にも参拝されています。初来日のときは、外務省のチャイナスクール(あくまで当時の)が、「日中関係がとんでもないことになる」といって親中派の多い自民党橋本派を利用して訪日を止めようとしたり、引退した河野洋平前衆院議長(当時、外相)が「親中一筋の自分の経歴を汚すことになる」と辞任をほのめかして森喜朗首相(当時)を揺さぶったり、いろいろありました。しかしまあ、日中関係はその後、これでもだいぶ正常化したといえるでしょうね。世界ウイグル会議のラビア・カーディル議長も無事来日できましたし。まだまだ、でもありますが。

 

 で、事務局に「李氏の話す内容は決まっているのか」と聞いてみたところ、「具体的な話は聞いていないが、『船中八策』について取り上げるようだ」とのことでした。「船中八策」といえば、明治維新時の志士、坂本龍馬が起草したとされる新国家体制の基本方針ですね(龍馬のオリジナルのアイデアではないともいいますが)。私も学生時代に5度読んだことのある超有名小説の以下のシーンがあまりにも有名です。

 

《「八策ある。」

 と、竜馬はいった。

 海援隊文官の長岡謙吉が、大きな紙をひろげて毛筆筆記の支度をした。

 「言うぜ。」

 竜馬は長岡に合図し、やがて船窓を見た。

 「第一策。天下の政権を朝廷に奉還せしめ、政令よろしく朝廷より出づべき事」

 この一条は、竜馬が歴史にむかって書いた最大の文字というべきであろう。

………

 「第二策。上下議政局を設け、議員を置きて、万機を参賛せしめ、万機よろしく公議に決すべき事」

 この一項は、新日本を民主政体にすることを断乎として規定したものといっていい。余談ながら維新政府はなお革命直後の独裁政体のままつづき、明治二十三年になってようやく貴族院、衆議院より成る帝国議会が開院されている。

 「第三策。有材の公卿・諸侯、および天下の人材を顧問に備へ、官爵を賜ひ、よろしく従来有名無実の官を除くべき事」

 「第四策。外国の交際、広く公議を採り、新たに至当の規約を立つべき事」

 「第五策。古来の律令を折衷し、新たに無窮の大典を選定すべき事」

 「第六策。海軍よろしく拡張すべき事」

 「第七策。御親兵を置き、帝都を守衛せしむべき事」

 「第八策。金銀物貨、よろしく外国と平均の法を設くべき事」

後藤は、驚嘆した。》(司馬遼太郎『竜馬がゆく』7巻より)

 

 さて、李氏はこの「船中八策」をどう料理し、日本人の元気を引き出そうというのか興味がわきます。李氏は今回の日本滞在中、高知の坂本龍馬記念館も訪れるといいますから、けっこう思い入れを持っているのかもしれません。龍馬については、司馬氏の小説での脚色・人物造形があまりに上手すぎ、実像とかけ離れてしまったという指摘もありますが、まあ、それはそれとして、間違いなく日本史上のヒーローですからね。

 

 また、このイベントには元台湾総統府国策顧問の金美齢氏とジャーナリストの桜井よしこ氏も参加するとのことなので、私もぜひ行きたいのですが、この9月5日は前々から予定が入っていていけません…。事務局には、「李氏に会わせようと思っていたのに」と言われ、ますます残念です。

 

 ともあれ、9月5日というと、8月30日の衆院選党開票日を終えたばかりです。日本の将来を改めて問い直すにはいい時期かもしれません。その意味でも、タイムリーな企画だなと思います。

 

 ついでに先日、某自民党幹部から聞いたところによると、同党が実施した直近の世論調査では、衆院選の自民党の予想議席は「150ぐらい」だそうです。これでも最近ほんの少し上向いてきたのだとか。この幹部は「なんとか180いきたい」と言っていましたが、あと2週間あまりの間に世論はどう動くでしょうか。逆に自民がさらに落ち込み、120~130議席ほどにとどまる可能性もありますね。いずれにしろ、民主党の単独過半数は動かないでしょう。

 

 民主党の執行部は、鳩山由紀夫代表も岡田克也幹事長も小沢一郎代表代行もみな、「政権を取ったら4年間解散はしない」という趣旨の発言を繰り返していますから、それは党内ではコンセンサスに近いのだろうと見ています。もちろん、政界一寸先は闇ですから、何が起きるか分からないのも確かですが、最近、民主党を取材していて痛感するのは、彼らは本当に細川政権のことを強く意識しているということです。

 

 7党1会派の寄せ集めだった細川連立政権は、連立内の路線対立の激化でまず社民党が抜け(自民党に引っ張られ)、あれよあれよと崩壊していきました。現在の民主党幹部には、この細川政権に何らかの形でかかわっていた議員が多く、鳩山、小沢両氏をはじめ「あの失敗は繰り返さない」と何度も強調しています。彼らを見ていると、「細川政権の敵討ち」という意識があるのではないかとすら思えます。まあ、確かに彼らは自分自身の体験として挫折や悔しさ、憤りを覚えているのでしょうから不思議ではないのですが。

 

 自民党の前閣僚は昨年夏、「小沢だって少しは学習している。今度の選挙で政権を失ったら10年は取り戻せない」と言っていましたが、民主党は今度は何がなにでも政権の座にあり続けようとすると思います。そのためには、寄り合い所帯でバラバラな党内・連立与党内の対立や相互不信を招くようなテーマは、特に来年の参院選で参院でも単独過半数をとるまでは封印するだろうと。細川政権のときは、比較第一党は自民党でしたが、今度は民主党は他党を圧倒する規模の優位も手にできるでしょうしね。

 

 個人的観測ですが、なので民主党は来年の参院選後までは、外交・安保政策の大転換や保守派の反発を買ういわゆる左翼的政策はあまり動かさず、衆参両院で数を押さえた後に本格的にやりたいことをやり始めるのかな、という気もしています。もちろん、最初に断ったように、この先何がどうなるかは分からないので、必ずしも私の予想通りにはならないかもしれませんが、今はそう見ているというお話でした。