鳩山由紀夫首相は日本時間の21日夜、ニューヨークで中国の胡錦濤国家主席と会談し、自分からわざわざ「村山談話」を踏襲すると表明したそうです。言うまでもなく、村山談話とは平成7年8月、当時の村山富市首相が、日本による植民地支配と侵略をアジア諸国に謝罪したものです。

 

 一応、閣議決定された首相談話なので、現在は政府の公式見解となっていますが、もともとは社会党出身の村山氏のイデオロギー、個人的な思い込み、偏見などが色濃く投影されたものだと理解しています。

 

 まあ、鳩山氏の村山談話踏襲自体は、不思議でも何でもありません。8月11日の海外メディアとの記者会見でも、鳩山氏はこの談話に対する熱い思いをこう語っていました。

 

 「村山談話は、私が(自社さ)政権にいたときにつくったもので、その思いは民主党が政権を取ったならば当然、尊重したい。自民党政権の中では、何か談話を踏襲するみたいなことを言いながら、どこまで本当に理解されていたのかという部分は若干の疑問を禁じ得ない。少なくとも私どもは、村山談話の思いを十分に受けた政権にしたい」

 

 また、平成10年5月に「韓国と日本」をテーマに行った講演でも、次のように語っています。

 

 「村山内閣のときに、敗戦50年の8月15日に村山談話が出され、韓国でも高く評価されたわけだが、その後残念ながら橋本内閣において、その思いが踏襲されていないような気がする。橋本内閣にしろ次の内閣にしろ結構だが、この過去の歴史認識の問題、サハリン残留韓国朝鮮人の問題、また従軍慰安婦の問題も、精神的な意味でしっかりとした謝罪を行うことによって、解決出来る問題だと認識したい。形式的な謝り方ではなく、本当に心を込めて総理の立場で、あるいは国会の立場で謝罪を一度することが大事ではないか」

 

 で、会談で胡主席はというと、鳩山氏の言葉に「明確な立場を示したことを評価したい」と述べたとのことでした。映画ではなく原作(単純なエコではなく、実に深い世界観が描かれています)の方の「風の谷のナウシカ」(徳間書店)2巻で、「僧正さま」が、ナウシカと王蟲(オーム)の心の交流ついてこう語った箇所があります。

 

 「いたわりと友愛がわしの胸をしめつける…王蟲が心をひらいておるんじゃ…」

 

     

 

 さて、鳩山ナウシカの真情は、中国という走り出したら誰にも留められない王蟲の胸に届き、揺り動かしたでしょうか?。ちなみに私は、月刊正論10月号に書いた「第二の『村山談話』を阻止せよ」(タイトルは編集者がつけました)の中で、こう予測しておきました。

 

  「鳩山氏は、(中略)村山談話をもっと頻繁に示したいということだろう。最近は出番が少なくなった『歴史カード』を再び活用できるのだから、中国としては飛んで火に入る夏の虫というところか」

 

 私の見方が、ひねくれた穿ちすぎなものであり、鳩山内閣において世界に友愛の輪が広がることを願ってやみません。そうなるとは、どうしても思えないのですが…。

 

 と、だらだら鳩山氏について書いているうちに前置きだか本文だか分からなくなってしまいましたが、ここからは1カ月ぶりに読書シリーズをお届けします。このところけっこう忙しかったのですが、相変わらず歩きながらでも読みたい本は読む、を実践しています。

 

     

 

 進歩がない人間なので、いつものように「帯」のキャッチコピーにつられて手を出したのが中沢けい氏の「楽隊のうさぎ」(☆☆☆)でした。引っ込み思案で現実逃避気味の中学一年生の男の子が、ふとしたきっかけでブラスバンド部に入り、やがて居場所を見つけ、成長していくというストーリーです。もうちょっと、続きが読みたいような。

 

     

 

 川上健一氏の「透明約束」(☆☆☆☆)には心が洗われました。それこそ、帯では触れられていないのですが、なぜかカナダに関係のある10の短編が収められています。些事に悩み、あくせく働く日常がバカらしくなるような、そんな物語の花束のような本でした。いいなあ。カナダでオーロラが見たくなります。

 

    

 

 今度は同じ川上氏の「ナイン 9つの奇跡」(☆☆☆★)です。川上氏の作品が矢継ぎ早に出版されていて、嬉しい散財となりました。こっちの作品は草野球を舞台にしているのですが、一人ひとりの登場人物の造形に作者の愛情が感じられ、とても爽やかな気分になります。これも一つの「フィールド・オブ・ドリームス」だなあと。

 

     

 

 この読書エントリシリーズでたびたび登場している原宏一氏のヒット作「床下仙人」(☆☆☆)をようやく読みました。他の作品同様、上手いなあ、鋭いなあ、皮肉が効いているなあと思いつつ、この表題作はオチがちょっともの悲しくて…。家族は大事にしなきゃなあ。

 

     

 

 堂場瞬一氏の警視庁失踪課・高城賢吾シリーズ第3作「邂逅」(☆☆☆)は、大学職員の生態について取り上げていて興味深いものでした。私は学生時代も産経に入ってからも、諸般の手続きや取材で大学職員と接するたびに「何でこの人たちはこれほど偉そうなのか」と感じることがしばしばでしたので。ともあれ、本編でも阿比留真弓室長がいい味を出しています。

 

     

 

 佐藤雅美氏の町医北村宗哲シリーズも同じく第3作「口は禍いの門」(☆☆☆)が出ました。私はこの作者の文体、登場人物の思考が合うというか、実にしっくりきて心地よいのです。特にこのシリーズは、学問を修めた医者であり、元任侠筋の男という主人公の設定がいろんなバリエーションを可能にしていて、楽しめますね。

 

     

 

 この稲葉稔氏の「裏店とんぼ 研ぎ師人情始末」(☆☆★)は、書店に平積みになっていたので新刊かと思って手を出したのですが、一巻を読み終えて気付いたら10巻も出ているシリーズものでした。まあ面白いので、結局、読んでしまうのかなあ…。読む本が見つからないよりいいけど。