もうきょうから2月となってしまいましたが、今年始めての読書シリーズをお届けします。例によって独断と偏見と怖いもの知らずのただの一読者目線で論じます。1月は公私ともにホントにいろいろあって、同僚記者も息を抜くヒマを与えられない日々に「1月が永遠に続くような気がする。藤井裕久財務相の辞任が何カ月も前のことのようだ」とこぼしていました。私もつくづく、ああもう若くないなあ、無理がきかないなあと実感させられています。

 

 そういう中で、おおいに慰めとなったのがお気に入りの川上健一氏の「yes お父さんにラブソング」(☆☆☆)でした。家族にまつわる67のショート・ストーリーが収められていて、電車の中やちょっとした待ち時間など細切れの時間に読むのに最適で、気持ちが温かくなりました。

 

     

 

  次に紹介するのは、三浦しをん氏の「星間商事株式会社社史編纂室」(☆☆★)で…。まあ、三浦氏の作品としては正直、期待外れだったかもしれません。あくまで趣味の問題でしょうが。物語の核となる総合商社の秘められた歴史の部分に、どうしてもリアリティーを感じられなかったというか。

 

     

 

 これはよいです。山本甲士氏の「ひなた弁当」(☆☆☆★) 。会社をリストラされ、妻子にも冷たくされている50歳目前の男性が、暇つぶしの釣りや山菜採りをきっかけに料理に目覚め、やがて再生していく、というお話です。脇役も含めて登場人物がきちんと生きていて、素直に楽しめました。

 

     

 

  同じく山本氏の「わらの人」(☆☆☆)は、周囲から軽んじられていたり、自分に自信を持てずにいたりする6人の主人公が、それぞれある理髪店で思わぬ髪型になってしまったことをきっかけに、本来の自分を取り戻すという痛快な物語です。上手いなあ、と感心させられます。

 

     

 

  最近、テレビドラマ化もされた垣根涼介氏のリストラ請負人シリーズ「君たちに明日はない」の第3巻「張り込み姫」(☆☆☆★)が出ていたので、早速読みました(このシリーズを読むと、しみじみ仕事と人生について考えさせられます)。前作の「借金取りの王子」のように、今まで読んだラブストーリー(?)の中で一番感動したといえるような話はありませんでしたが、やはり面白い。ちなみに、表題の「張り込み姫」とは、写真週刊誌の編集部員をしている女性のことで、読ませます。

 

     

 

  待ちに待った今野敏氏の「安積班シリーズ」の新刊「夕爆雨」(☆☆☆)も買い求めました。うーん、安定した面白さはあるのですが、この物語を358ページもの大作にする必要があったかなあ、という印象もあります。むしろ、中編か短編でいいのではないかと。素人の感想ですが、期待感が大きかっただけに。

 

     

 

  直木賞をとった白石一文氏の「ほかならぬ人へ」(☆☆☆★)は、この人の作品がいつもそうであるように、読者に「あなたも考えなさいよ」と求めてきます。この本には、「ほかならぬ人へ」ともう一つ、「かけがえのない人へ」という作品が収められていますが、私はどちらも主人公がこの先どうなるのかと不安にかられました。現実とはそういうものであり、小説の終わり方としても効果的なのでしょうが、読者としては放り出されたような。

 

     

 

  以前のエントリで「遺言状のオイシイ罠」という作品を紹介した山田健氏の「ゴチソウ山」(☆☆☆)は、あっさり読めるのですが、読後感は爽やかで痛快です。自然災害をきっかけにした、ある地方都市の町興しを描いたものですが、もう少し書き込んでもよかったんじゃないかという気もします。

 

     

 

  以前、「捌き屋」シリーズを紹介した浜田文人氏の「CIRO 内閣情報調査室 香月喬」(☆☆☆)は、私も仕事柄、多少かかわっている永田町を主舞台にしているので、その意味でも興味深くよめました。郵政民営化の功罪を舞台回しの一つとしているのですが、その点の踏み込みはいまひとつだったような…。ただ、小泉元首相の秘書官だった飯島勲氏をモデルにしたとしか思えない人物が出てきたりで、やはり面白い。

 

     

 

  上田秀人氏の「奥右筆秘帳」シリーズ第5作「簒奪」(☆☆★)は、面白いには面白いのですが、やはり少々マンネリも感じます。まあ、それを承知の上でエンターテインメントを楽しめばいいのでしょうが…。

 

     

 

  この夢枕獏氏の「新・餓狼伝」(☆☆☆)は、ノベルス版で出た際にいっぺん読んでいたのに、文庫版で出ているのを書店で見かけてまた買ってしまいました。読み返しても、これがまた、面白いのです。ジャイアント馬場をモデルにしたらしいカイザー武藤が実にいい。かつてのプロレスファンにはこたえられません。

 

     

 

 池永陽氏の「夢ほりぴと」(☆☆)も、やはりリストラされた40代の中年男性が主人公ですが、こちらは感情移入ができませんでした。作者の意図が奈辺にあるのかは分かりませんが、何せ主人公が情けなさすぎ、そのくせ自分勝手でひとりよがりで…。他の登場人物も何かセリフが白々しいというか浮いているというか。単に好みの問題かもしれませんが…。

 

     

 

 …実はこのほかにも、戦記シミュレーション小説を6冊ほど読んだのですが、紹介するほど目新しいものはなかったので、ここでやめておきます。本日、並べた12冊のうち、ふと気づくと3冊までがリストラがらみの小説でした。世相を反映しているようでもあり、自身の関心事項が表れちゃったようでもあり…。この先、日本とわが身はどうなっていくのか。

 

 ちなみに今、元毎日新聞記者の河内孝氏の「血の政治 青嵐会という物語」を読んでいるのですが、これに目を通すと、当時の自民党でいかに自由闊達の党内論議が可能だったか、若手・中堅議員が平気で倒閣(当時は田中角栄内閣)を口に出せたかがよく分かります。時代背景の差もあるでしょうが、現在の民主党との落差に、改めて背筋が寒くなるような。