今回の中国漁船衝突事件と、その後の政府対応、政治家や国民の反応を見ていて、昨年10月4日に惜しくも急逝し、もうすぐ1年を迎える中川昭一元財務相のある言葉を思い出しました。

 

 あれは福田内閣のころだったか、ある日、中国による東シナ海のガス田開発と、日本側の抗議に対するけんもほろろの傍若無人な対応が話題になった際のことです。中川氏は私にこう語りました。

 

「まあ、中国批判はたやすいんだけど、むしろ『誠意を持って話せば分かる』と言うようなことばかり言って行動しない、きちんと対抗しない日本側の方が問題だ。政治は自国の国益を守るのが第一だ。私が中国の政治家なら、やはり今の中国のようなやり方をすると思う。より大きな問題は日本側にあるんだ」

 

 当時、私はこの言葉に深く頷き、全くその通りだと同意しました。国際社会の倫理レベルはまだまだ低いものだし、ましてや中国がどういう国であるかは初めから分かり切っていることなのです。それなのに、中国側が中国としては当然の振る舞いをすると一々うろたえるというのは、うろたえる側がおかしいということですね。

 

 この言葉を思い出した理由は、民主党の岡田克也幹事長(前外相)が25日に奈良市内で記者団に語った次の言葉がとても気になったからです。

 

「私は、中国にとってももう少し冷静に対応された方がいいのではないかと。国際社会の中で、民主主義国家でないし自由とか人権とかそういう観点で見ると少し違うと言うことがみんな分かってはいると思うがこういうことがあからさまになってしまうということはやはり決して中国にとってプラスじゃないと思いますし、がっかりしている日本人も多いのではないか」

 

 …なぜか日本の国益より先に中国の国益を慮っているように聞こえます。日本としては、むしろ中国がどういう国であるかをこの際、国際社会にどんどんアピールすべきなのに、「中国様、お気を付け下さい」と言っているようです。しかも、「みんな分かっていると思うが」と自分で言っている内容について、暴露されて公になっては困るという矛盾した、どこまでも中国をかばうような姿勢もうかがえます。

 

 そんな戯言を言っている暇があるなら、この現在は日本の一方的な敗北となっている事態をどう逆転させ、利用するかを考え、その一端なりとも示してほしいものです。そして、これに関連し、民主党幹部は26日、オフレコで次のように述べ、中国漁船側が体当たりをしかけてきたのが一目瞭然だとされる海保のビデオテープ公開に後ろ向きな姿勢をあらわにしました。

 

出したら、国民は激昂するだろうなあ

 

 中国様に不利なことは国民に見せたくないというのです。また、強い国民世論を受けて中国に立ち向かおうという発想もみられません。世論の後押しを受けた外交は強く、世論が引いてしまうと弱いというのは常識なのに。ここにも事なかれ主義が顔をのぞかせています。やれやれ。

 

 外交はときに、相手国だけでなく国民をも騙しながら、初期の目的(国益)を増進するためのものですから、何もいつも正直に手の内のカードをさらせ、なんて言うつもりは全くありません。

 

 中川氏は、東シナ海のガス田の共同開発合意ができた際、表向きは「これでは中国側に有利なばかりだ」と不満を表明していましたが、その裏では外務省の事務方を慰労し、「先行開発を進めていた中国から、よくぞここまで譲歩を引き出した」と使い分けていました。それは、自分のような対中強硬派が下手に「これでいい」と評価してしまうと、中国側に「それではもう少し押してみようか」という隙を与えることになることが分かっていたからです。

 

 外務省事務方もこれをよく心得ていて、「中川氏のような人が、ガス田合意は全然不十分だと言ってくれると、中国側に『日本の世論はこうなんだぞ』と言えるので助かる」と語っていました。

 

 今回の件にしても、国民世論をもっと激昂させて、それをもとに断固たる毅然とした対応をとるという選択肢だってあるはずなのです。東シナ海を「友愛の海」と呼んで中国の好き放題に任せたルーピー氏はじめ、民主党の外交はなぜこうも幼稚なのかと頭が痛くなるのでした。