今年も政界はジェットコースターから見る景色のようにめまぐるしく移り変わり、私もこれまで以上に忙しく、あれこれと記事を書きまくる(書かされる)1年を過ごしました。私にとっては「政権交代したからどうだというのだ。その意味は過大評価されていないか」という疑念を再確認するとともに、いまだに綱領すら持たない(持てない)党が政権を握るとどういうことが起きるかが、広く国民に周知された1年であったように思います。

 

 で、年末用原稿の書きためなどもようやく終わり、本日から正月休みに入ったので、久しぶりに読書シリーズをアップしようと思います。例によって、政治関連のものは取り上げません。

 

 まずは、数々の銀行小説をものしてきた池井戸潤氏の「下町ロケット」(小学館、☆☆☆☆)からです。舞台は、元ロケット研究者だった2代目が社長を務める下町の町工場。不景気の世の中とあって、日々資金繰りに頭を悩ませ、社員とはもめ、銀行や競合大手企業からはいじめられている主人公が、それに立ち向かい、一つの夢を実現する…というストーリーです。

 

     

 

 池井戸氏は自身が元銀行員だっただけあり、銀行の内幕、銀行員の貸し渋り・貸しはがしの手段とその理由などを描かせると本当にうまいですね。そして、物語の王道として、きちんとカタルシスが用意されているので満足感が得られます。うん。

 

 次も、私のお気に入り作家である原宏一氏の「佳代のキッチン」(祥伝社、☆☆☆★)を紹介します。主人公が、中学生のときに失踪した両親を捜すため、キッチンカーで「移動調理屋」をしながら旅をしているという設定も面白いですが、その両親が理想の生活共同体「コミューン」を立ち上げようとしていた、というところも、なんだか…。どうしても、団塊の世代が中枢を抑えている今の政権が提唱する「新しい公共」を連想してしまったり…。

 

      

 

 佳代がつくる料理がどれもおいしそうで、登場人物も魅力的で、やはり小説って、人物がきちんと存在感をもって立ち上がっているかどうかだなあと、今更のように思うのでした。 

 

 さて、安普請のアパートを舞台にした連作構成の三浦しおん氏の「木暮荘物語」(祥伝社、☆☆☆)を手に取りました。本の帯の宣伝文句に「人肌のぬくもりと、心地よいつながりがあるアパートです」とあったので、何となくほのぼのとした人情モノを期待して読み始めたのですが、実はこれ、さまざまな「性のあり方」をテーマにした内容でした。

 

 

     

 

 最初は、それこそほとんど共感が持てない登場人物ばかりに感じてなかなか読み進められなかったのですが、一話一話と読んでいくうちに、作者の仕掛けに乗せられ、だんだん面白くなっていきました。まあ、最後まで好みとは言えませんでしたが、ちょっと切ない素敵な話ではありました。

 

 流行作家3人(今野敏氏、東直己氏、堂場瞬一氏)による警察小説の競作「誇り」(双葉社、☆☆☆)は、題名そのものの内容です。窃盗係のベテラン刑事、退職警官、たたき上げの県警刑事部長とお気楽なキャリアの捜査2課長…などが登場し、それぞれの意地と誇りを見せてくれます。 

 

 

     

 

  特に東氏の作品「猫バスの先生」で、学生運動崩れの工事会社社長が主人公が元警官であることを知り、執拗にからむシーンが印象的でした。仙谷由人官房長官も、相手が自衛隊や海上保安官だと、とたんに言葉と要求がきつくなることを、これまた連想しながら読んだ次第です。

 

 一時期。集中的に読んだ横山秀夫氏のデビュー作「ルパンの消息」(光文社、☆☆★)をようやく読了しました(図書館で借りた本なので、ちょっとシワが寄っています)。非常に凝っていて、いろんな要素を盛り込んであるのはよく分かりますが、デビュー作だけあって、やはり無理があるというか、完成度はいまひとつかなと感じました。

 

 

     

 

  この作家の後の作品で、映画化もされた「クライマーズ・ハイ」であれば、大興奮して夢中で読んだので「☆☆☆☆★」ぐらいの評価ができるのですが…。この「ルパン」の最後に、若い女性記者が得ダネをもらうシーンは妙に好きです。

 

 熟練した時代小説作家である佐藤雅美氏の「町医 北村宗哲」シリーズは、この第4作「男嫌いの姉と妹」(角川書店、☆☆☆★)で完結だそうです。他にも未完のシリーズものがいくつかあるので仕方がありませんが、ちょっと残念です。

 

 

     

 

  今回も、表看板の町医者としての宗哲よりも、元裏社会で名を売った渡世人としての宗哲の方にウエイトが置かれており、つくづく巧みな設定だなあと感心します。表題作も、皮肉なテイストたっぷりに、そのくせ大団円というオチで、世の中そんなものだと納得させられます。

 

 「とびっきりの人情譚」というコピーに負けて購入したのが山本一力氏の「ほかげ橋夕景」(文藝春秋、☆☆☆)でした。8編の物語が納められており、バラエティーに富んでいて楽しめました。毎度毎度、山本氏の書くものはどれを読んでも同じように感じるとブツブツ言っているわけですが、それでもつい手に取ってしまいます。

 

     

 

 同じ山本氏の「研ぎ師太吉」(新潮文庫、☆☆★)は、どうなんだろう。いつものように、登場人物の器量と器量がぶつかって、格の差を見せつけて…というパターンが全面に出てくるわけですが、あまり説得力を感じず…。 

 

 

     

 

 いつか読もうと思っていたのが、この鳥羽亮氏の「ももんじや」(朝日文庫、☆☆★)でした。さまざまな獣肉を食べさせる百獣屋は、実は多士済々な御助人が集う「御助人宿」で…というストーリーです。ただ、せっかくももんじやを舞台にしたのであれば、もっと調理や食事の場面、食材の解説などがあってもいいのになあと少し不満が残りました。

 

     

 

  上田秀人氏の「奥右筆秘帳」シリーズ第7弾「隠密」(講談社文庫、☆☆☆)も、相変わらず江戸時代を舞台にしたサラリーマン小説として楽しめます。いま、上田氏の作品はどれもベストセラーとなっているようですが、私のような中年サラリーマンが主な読者層なのかなと…。

 

     

 

 最後は、米村圭吾氏の「ひやめし冬馬四季綴」シリーズの「桜小町」と「ふくら雀」(徳間文庫、☆☆)となります。うーん、まあ、ほのぼのとした味わいはいいのですが、荒唐無稽というか、いくらなんでもそれはなあ、という印象もあります。でも、もともと最初からリアリティーやディテールで勝負している作品ではないでしょうから、それはそれでいいのか。

 

 部屋住みの主人公は、 身分降格された父の汚名を晴らし、一家を興すことができるのか?…これまた、文句をいいつつ、続刊が出たら、行方が気になるので読んでしまうのだろうなあ。

 

 

     

 

 というわけで、今年の読書エントリはこれまでです。来年はどんな本に出会えるでしょうか。政治はどうせ激動し、政権の枠組みが変わったり、解散・総選挙があったりするかもしれませんが、そんなときでも本は手放せません。本で心を安定させ、ストレスを解消しなければ、たちまち煮詰まってしまいます。

 

 なので、来年もときおり、こうした読書エントリを続けようと思います。よろしくお願いします。さて、これから帰省します。