ようやく民主党の小沢一郎元代表が強制起訴されました。ここ数年、小沢氏の政治資金問題の異常性・異様性、また発言のブレと変遷を指摘してきた者としては、やっと一区切りついたな、という感想があります。小沢氏は今後、刑事被告人として法廷に立つわけで、法廷の場で、正々堂々と主張するなり、弁解するなりしてくれればいいと思います。

 

 ただ、小沢氏はすでに、もうほとんど根拠も由来もよく分からないが政界で行使してきた「神通力」を失っています。なので、これ以上ここでまたあれこれ振り返るのは止めておきます。

 

 今もテレビの衆院予算委員会の中継で、目をちらちらとあちこち泳がせながら、落ちつかない様子で周囲をうかがう菅直人首相の姿が映りました。見るからに陰険な小者風でしたが、まあ、彼の今の心境がそのまま表れているのかもしれません。

 

 昨年末以降、それまでの経緯を忘れたかのような勢いで小沢たたきに走った菅氏ですが、今回の強制起訴によって皮肉なことに、最後の政権浮揚カードを失いました。もう、この政権には何もいいことは起きそうにありません。

 

 菅氏はこれまで、困ったときの小沢たたきによって、失速しそうな政権を持ち直してきました。しかし、小沢氏を政治倫理審査会の場に引き出すことには失敗し、また、今回の強制起訴によって法廷闘争に入る小沢氏に対し、さらに国会の場での説明を求めることにはハードルが高くなりました。そして、仮に何らかのそうした場が設けられても、もう菅氏の手柄にはなりません。

 

 もとより、反(非)小沢の一点で結びついてきた政権の主流派は、小沢氏の問題が一段落したことで、もう菅氏を担ぐ必然性はなくなりました。当面の敵がいなくなってしまえば、菅氏を中心にまとまる必要もなく、むしろ、公然と菅降ろしが始まる可能性もあります。今、予算委で菅氏はこう述べました。

 

 「清(王朝)のことを蒙古族と申し上げましたが、満州族でした。訂正します」

 

 …こんなリーダーを誰が好きこのんでいただきたいでしょうか。小沢氏の起訴により、小沢グループも崩壊の危機に瀕するでしょうが、菅首相支持派もまた、前原誠司外相ら「次の顔」擁立へと走る可能性があります。新たな党内抗争のスタートです。

 

 2月6日の愛知の地方選も、民主党の敗北は確実視されています。4月の統一地方選を「疎い」菅首相のままで戦いたいという議員はごく少数でしょう。来年度予算案と関連法案の成立と引き替えに、菅氏の首を差し出したいという議員も出てくるはずです。

 

 菅氏がいかに「石にかじりついても」「支持率が1%になっても」と権力の座にしがみつきたくとも、もうそうはいきません。自分の姿を鏡に映し、裸であることに気付こうとしない菅氏は、まだ、小沢氏起訴で公明党はじめ野党が社会保障問題の与野党協議に参加する障害がなくなったと勘違いしているかもしれません。

 

 でも、もう公明党は明らかに反菅に舵を切っています。菅氏が首相のままでは、もう民主党と組むことはないでしょう。民主党と違い、地方選こそが本丸である公明党にとって、統一地方選を前に菅政権とつるむ選択肢はありません。

 

 何より、菅氏もその周囲も、あまりに人徳がない。こんな誠意も実もない人に何を呼びかけられても、信じられるはずがない。その気になるのは、長年、極端な政局音痴で知られてきた与謝野馨経済財政担当相ぐらいのものでしょう。そして、与謝野氏の一本釣りは明らかに、野党を硬化させましたし、民主党内の不協和音も増す効果を生みました。

 

 そして、そんな当たり前のことすら理解できない菅氏に対する党内外の反発と軽蔑ははっきりと強まっています。今では、党幹部や閣僚クラスの民主党幹部から、半ば公然と

 

 「もうこの政権はダメだよ」「どうしようもない」

 

 といった突き放した声が出ています。今朝の読売新聞では、あれほど政権交代と民主党を持ち上げていた御厨貴・東大教授が「もう衆院解散しかない」と書いていました。いったん、すべてをチャラにしない限り、このグダグダ感は払拭できないということでししょうね。無責任で無定見な人だとは思いますが。

 

 今年が、衆院選の年になるのか、あるいは政界再編の年になるのか。いずれにしろ、これからは激動がありそうです。あんまりすっきりした形に収まるとは限りませんが、現在の卑怯な政権には心からうんざりしている私としては、それが楽しみでもあります。