自民党の言論弾圧通達検討プロジェクトチームは本日、防衛省の広田政務官と芝首相補佐官に、「防衛次官通達は即時撤回すべき」という申し入れ書を手渡しました。けっこう長いものなのでどうしようかと迷いましたが、けっこう重要な中身も含むので、ここで書き写しておくことにしました。ふぅ、以下がそれです(傍線、太字は私がつけました)。

 

 防衛省は、北沢防衛大臣の指示により、平成22年11月10日、全部隊に対し、「隊員の政治的中立性の確保について」と題する事務次官通達を発した。この通達は、航空自衛隊入間基地航空祭での一民間人である同基地航友会会長の発言をとらえて、「極めて不適切な発言」と断ずるおよそ行政機関の慣例と常識を逸脱する極めて異常な通達であるとともに、民間人の発言を事前に抑制しようとしている点において、一見して明白な言論の自由を侵す憲法違反の通達である。

 言うまでもなく、日本国憲法は基本的人権の尊重を基本原則とし、その中でも精神的自由、すなわち思想信条の自由の保障は、最も重要なものと考えられている。その具体的な実現のため、言論の自由は、侵すことのできない基本的人権である。

 昨年の臨時国会において、我が党をはじめ野党側が、この点を指摘し、北沢防衛大臣に対して通達の撤回を求めたが、何らの具体的根拠ある反論もなく、大臣は「通達を撤回する考えはない」という答弁を繰り返している。全く言語道断であり、通達は即時撤回すべきである。

 

1 基本的人権の尊重についての理解を欠く通達

 平成22年11月3日の入間基地航空祭祝賀会で、航友会会長は「…こんな内閣は間違っている。まだ、自民党政権の内閣の方がまともだった。現政権の顔ぶれは、左翼ばかりである。みんなで、一刻も早く菅政権をぶっつぶして、昔の自民党政権に戻しましょう。皆さんそうでしょう。民主党政権では、国がもたない。…」(防衛省資料)と発言したと伝えられる。防衛省は、この発言があったことにより、自衛隊員が政治的行為の制限に違反したとの誤解を招くと、主張している。

 

 自衛隊法第61条1項並びに同法施行令第86条第3号及び第4号並びに第87条第1項第12号は、自衛隊員は、特定の政党その他の政治団体を支持し、反対し、又は特定の内閣を支持し、反対する政治的目的のために、国の庁舎、施設、資料又は資金を利用し、利用させてはならないと、定めている。ただし、この規定は、一見明白なように、自衛隊員の行為規範を定めたものであって、民間人の行為を規制するものでは全くない。だからこそ、通達は、「誤解を招くような」と極めて曖昧な表現を用いているのである。

 

 しかし、なぜ一民間人の発言によって自衛隊員が自衛隊法に違反して施設を利用させたと誤解を招くことになるかという点について、十分な説明がない。自衛隊の友好団体の行事という適切な利用目的のため許可された行事において、出席者の一部がたまたま多少「過激な内容」の政局的な発言をしたからといって、その施設の利用許可が祝うであったと誤解されるという論旨に、そもそも論理の飛躍、法令の拡大解釈がある。既に、通達の柱書きの部分から論理破綻を来しており、北沢防衛大臣の恣意的指示が影響をしていると推測せざるを得ない。

 

 北沢防衛大臣は、政治的行為の制限を定めて自衛隊法及び同法施行令の規定を遵守させる必要があると、ずっと答弁しているが、なぜ一民間人の発言がそのことに支障を及ぼすのか説明をしていない。この規定は、過激派の政治集会のようなものを規制する趣旨で規定されているものであり、自衛隊の友好団体が主催する祝賀会などに適用する余地は全くない。

 

 自衛隊の施設以外でも、国や地方公共団体において様々な公式の式典や行事が行われている。そうした場において、主催者や来賓が政局的な発言をしていいかどうかは、その式典や行事の性格などに照らし、意見が分かれるだろう。しかし、それは、適不適の問題であって、法律論ではない例え不適切な発言をされる可能性があると考えたからといって、その人の発言を事前に抑制してはならないというのが、言論の自由の本質である。その発言が事実無根であったり、誹謗中傷であったりしたときには、事後的な措置に委ねられるのである。こうしたことの認識を、北沢防衛大臣は全く欠いている。

 

2 憲法違反の発言の事前抑制

 通達は、自衛隊の施設内の行事について、「団体の行為により、政治的行為をしているとの誤解を招くおそれがあるときは、当該団体の参加を控えてもらうこと。」と、指示している。明らかな民間人の行為の事前抑制であり、明白な憲法違反である。

 

 表現の自由を公共の福祉の名の下に制限できるのは、「明白かつ現実の危機」があり、「他に採り得る手段がないとき」に限られるというのが、憲法学上の常識である。祝賀会における一民間人の発言のどこに、明白かつ現実の危機が存在しているのか、全く理解できない。ましてや、通達は「誤解を招くおそれ」という表現を用いており、基本的人権の尊重の視点から、このような曖昧な規制は許されるものではない。

 

 防衛省は、この通達は自衛隊員が留意すべきことを示したにすぎないと強弁しているが、そうでないことは、この通達の規定から一見明白である。

 

 北沢防衛大臣は、「自衛隊法を遵守させる必要がある。」の一点張りであるが、一民間人の発言によって自衛隊員の自衛隊法違反が生ずることはあり得ない。また、趣旨・目的が正しければ、手段は何でもいいということにはならない。これも、重要なポイントである。この通達の「誤解を招くおそれ」のある事態が二度と起きないようにするという趣旨・目的もよく理解できないが、仮にそうだとしても、言論の自由を保障する憲法の規定に鑑み、民間人の発言を事前に抑制するという手段を採ることは趣旨・目的にかかわらず憲法違反である。

 

 また、通達は、自衛隊の部外の行事について、隊員は「政治的制限の規定に抵触するおそれのある内容が含まれていないことが確認できないときは、当該行事に参加しないこと。」と、指示している。この部分は、自衛隊員に対する指示を規定したものであり、直接民間人の行為を規制するものではないが、民間人の言論を事実上抑制する効果を持つものであり、憲法違反の可能性が高い。

 

 そもそも、民間主催の行事の場で、自衛官の挨拶又は紹介を伴う場合に限られているが、政局的な話を聞いたらいかなる理由により自衛官が自衛隊法の規定に抵触するのか、全く理解できない明文の法律の規定なくして、自衛官の行為を規制することは、自衛官の思想信条の自由を侵すことにつながるものである。防衛省は、当該行事において自衛官が挨拶し、又は紹介されることにより、行事と一体となって政治的行為の制限に抵触するおそれがあるとしているが、他の出席者の話を聞くだけで法令に抵触するというのも、相当な論理の飛躍、法令の拡大解釈である。

 

 さらに、政治行為の制限に関する規制は、一般の公務員についても同様な規定がなされており、人の話を聞くだけでも規制に抵触するというような法律の拡大解釈を許すとすれば、公務員全体の思想信条の自由に重大な影響を与えかねない。

 

3 実効性のない通達

 防衛省は、当プロジェクトチームの指摘を受け、「自衛隊員が政治的行為をしているとの誤解を招くようなことを行わないよう要請」し、「政治的行為の制限について周知」する相手方は、行事の主催者に限るとし、個々の発言者の発言内容を事前に聞くようなことはしないと、説明している。

 

 そうであれば、そもそも民間団体が政治的な集会を自衛隊の施設内で行うことを自衛隊が許可することはあり得ず、また、自衛隊施設外の政治的集会で自衛隊員の挨拶又は紹介を伴うことは通常あり得ないことであり、この通達が何の趣旨・目的で発せられたものなのか、全く理解できない。

 

 自衛隊の施設内外を問わず民間団体の主催する行事において発言する者は、主催者に限られず、来賓など多くの者が含まれる。その発言内容を個々に事前に確認するのでないとすれば、どうして「かかる事態が二度と起きることのないよう」担保するのであろうか。主催者に、他の発言者に発言を慎むよう指示することでも、期待しているのであろうか。

 

 このことからも、この通達が論理性を欠き、十分な検討が行われないまま発せられたものであって、実効性のないものであることが分かる。しかし、だからといって、この通達の憲法違反の性格が縮減される訳ではない。

 

 北沢防衛大臣は、団体の代表に自衛隊法の趣旨を要請又は周知し、それに明確に反対する趣旨の発言があった場合に限り、この通達が適用されると答弁している。しかし、前述のように自衛隊法の趣旨の周知を図るという論理そのものが破綻しているが、仮にその旨を伝達したときに法律の趣旨に従わないと公言するような民間団体に対して自衛隊の施設の使用を許可し、当該団体の行事に自衛隊員が出席するなど、通常考えられないことである。

 

 当プロジェクトチームの議論において、こうした指摘を受け、防衛省は、「いつものとおりにやればいい。」「いちいち確かめる必要はない。」と、説明した。そうであれば、「通達はいらないではないか。」と委員から大きな非難の声が上がったのは、当然のことである。通達を撤回しても何らの支障がないことを、防衛省自ら認めたのである。

 

4 憲法の番人の歴史に汚点を残した内閣法制局

 内閣法制局は、防衛省と連名で、「自衛隊の隊員の中立性の確保に関する通達について」と題する極めて異例な説明文書を発している。内閣法制局が、個別事案について署名付きの文書を出すのも異例であり、ましてや一省庁と連名で文書を出すのは極めて異例である。いわゆる「政治主導」の名の下に、嫌々作成させられた文書であることは想像に難くないが、憲法違反の通達に内閣法制局が裏書きしたことの罪は重い

 

 内閣法制局は、当初、「通達という性質上、一般の国民の行為を規制する効力を有しない」ことをもって、憲法上の問題はないと答弁していた。しかし、当プロジェクトチームにおいて、再三にわたって「通達の性格はそのとおりであるが、問題は、この通達に基づいて行う自衛隊員の行為が憲法違反に当たるかどうかという点にある。」という指摘があり、内閣法制局及び防衛省とも、結局通達の性格はこの憲法上の議論の本質ではないことを認めた

 

 さらに、内閣法制局は、「この通達の趣旨・目的の範囲内で、いやしくも一般の国民の行為を規制するものとの疑念を生じさせないようにすること」を前提として、憲法上の問題はないと言っただけであり、この通達に「問題がないと言ったわけではない。」とまで、当プロジェクトチームで発言している。ここまで指摘してきたように、通達はとてもそのような趣旨で書かれたものとは読みがたいが、内閣法制局が途中から通達そのものに保証を与えるものではないという方針に転換したものと見ることができる。

 

 通達は明らかに民間人の行為を規制する規定であって、内閣法制局の説明と矛盾しているにもかかわらず、こうした点に目を閉ざしている同局の姿勢は、正に非難に値する。いずれにせよ、内閣法制局の憲法の番人としての良心を「政治主導」の下踏みにじったものであり、内閣法制局の歴史に大きな汚点を残すことになった。

 

5 心配される委縮効果

 通達が発せられた後、全国で様々な委縮効果が生じている。通達の趣旨に照らしても全く問題のない行事に以前出席していた自衛隊員が出席しなかったり、前国会議員が招待されなかったりしている。今、当プロジェクトチームは、こうした委縮効果について全国調査を行っている。

 

 もし、従前国会議員が出席していた行事に、国会議員が招待されなかったり、挨拶を拒否されたりしていることが判明したならば、それは重大な政治活動の妨害であり、見過ごすことのできない問題に発展するであろう。

 

 防衛省は、文書課長通達で、自衛隊施設内で行われる行事における民間人の挨拶の内容について逐次報告を求めており、こうしたことが委縮効果を大きくしている。この通達も次官通達と併せて即時撤回すべきである。

 

 忠実に職務に精励する自衛官は、大臣の依命通達であるこの通達に従わざるを得ず、誠に気の毒な立場にある。この通達の実施に当たり、政党や民間団体の指弾を受けるのは、現場の自衛官である。早期にこの異常な通達を廃止させ、自衛官に安心して本来の職務に専念してもらうようにしなければならない。

 

6 通達の即時撤回を求める

 以上見てきたように、この通達は、その形式、内容ともに極めて異例であり、民間人の言論の事前抑制を内容に含む憲法違反の通達であって、即時撤回以外に違憲状態を解消する方法はない。

 我が党は、この旨、北沢防衛大臣に申し入れ、速やかな善処を求めていく。

 

 …この申し入れ書、首相官邸サイドは官邸内での受け取りを拒否し、芝首相補佐官は別の場所で受け取ったとか。まあ、何かの参考にしてください。世の中いろいろありますねえ。