きょうはゴールデンウイークの最中なので、震災後で初めて、久しぶりに読書エントリとします。私も本日は休み(といっても、明日以降はまた仕事)をもらったので、少しのんびりとした気分を味わっています。
さて、きょうまず紹介するホーガンの「星を継ぐもの」(創元SF文庫、☆☆☆☆)3部作は、第1巻は1980年初版の古いSF小説であり、私も最初に読んだのはおそらく高校生のころだったと思います。
この古い本を本棚から引っ張り出して今回、再読(というか再々々読ぐらい)したのは、この英国出身で米国で活躍した小説家の、驚くほどあっけらかんとした科学信仰、人類賛歌、楽観主義を再確認したからでした。震災発生直後、猛烈にこの小説を読みたいという気分に襲われたのでした。
この作品の中で、準主役として登場する生物学者のダンチェッカーは例えばこう述べます。何度読んでもほとんど脳天気とも言える前向きさですが、そこから元気をもらいたい気分だったのかもしれません。
「たいていの動物は、絶望的状況に追い込まれるとあっさり運命に身を任せて、惨めな滅亡の道を辿る。ところが、人間は決して後へ退くことを知らないのだね。人間はありたけの力をふり絞って、地球上のいかなる動物も真似することのできない粘り強い抵抗を示す」
…おっとストーリー紹介をすっかり忘れていました。裏表紙の紹介分をそのまま写すと《月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。だが綿密な調査の結果、驚くべき事実が判明する。(中略)彼は五万年前に死亡していたのだ!一方、木製の衛星ガニメデで、地球の物ではない宇宙船の残骸が発見される…。》
で、次は古書店で未読のヘミングウェイ作「インディアン部落・不敗の男」(岩波書店、☆☆☆)を見つけたので、これまた実に久しぶりにこの作者の本を読んでみました。
まだ開拓時代のにおいが残る米国の自然と、人間の暮らしが、ありありと目に浮かぶようでした。にしても、パンチドランカーってこの時代からいたのか…。まあそりゃそうか。
その後、なぜか将棋に関係する小説を続けて2冊読みました。私自身は、子供のころにちょっとかじったことがある程度で、特に将棋に思い入れがあるわけでも何でもありませんが、そういえば将棋漫画なんかもよく読むなあ。ちなみに、最近は「王狩り」がいい。
ともあれ、貴志祐介氏の「ダークゾーン」(祥伝社、☆☆☆)から。この人の「新世界から」は心底、面白かったというか衝撃的でしたが、こっちは、うーん、あまり読後感はよくありません。カタルシスがないというか。
ストーリーは、主人公をはじめ登場人物たちが、気がついたら異形の姿となって、将棋によく似たルールの下、相手の「キング」を倒すまで意味も目的も分からぬ殺し合いを続けさせられ、その果てに…というものです。確かに、物語世界はよくできているし、面白いのはそうなのですが、あまりに救いがないように思えて。いや、この結末はこれで一つの救いではあるのですが…。
もう一つの将棋関連の塩田武士氏の「盤上のアルファ」(講談社、☆☆☆★)は、二人の主人公の設定がともに「性格が悪い」というある意味、痛快な設定です。
で、この作品は著者のデビュー作というわけなのですが、著者は神戸新聞の33歳(だったかな)の記者なのですね。他紙ではありますが、自分よりかなり年下の記者の作品ということで、当初はどこか原稿をチェックするような気持ちで読み進めていましたが、やられました。
途中、随分と不自然な場面がいくつかあるので、まだ粗いのかなと思っていたら、ラストでこれらがみんな盤上に置かれた重要な「布石」であることに気づかされました。脱帽します。
有川浩氏の「県庁おもてなし課」(角川書店、☆☆☆)は、題名を見た瞬間に「買うか」と手に取りました。知らなかったのですが、これ、新聞小説だったのですね。
高知県庁で働く地方公務員たちが、いかにお役所仕事のぬるま湯から脱して「おもてなしマインド」を身につけるかという話で、とてもさわやかな読後感があります。読むと高知県観光に出かけたくなること請けおいます。
堂場瞬市氏の警視庁失踪課シリーズは何度も紹介しているのでストーリーはあえて触れませんが、今巻「波紋」(中公文庫、☆☆☆)では新たな展開がありました。物語がいよいよ動きだしそうです。今巻の最後の一文、しびれます。
高田郁氏のみをつくし料理帖シリーズも第5弾の「小夜しぐれ」(ハルキ文庫、☆☆★)となりました。こっちも少しずつ物語が進み出しました。このシリーズを読むといつも思うのは、主人公が働く料理屋が近くにあれば、毎日通うのになあ、ということです。
相変わらず、現実逃避がしたくなると山手樹一郎氏の世界に没入することにしています。この「世直し若さま」(コスミック、☆☆★)にしても、現実にはありえない一つの桃源郷を描いているわけですが、それが心地よい。勧善懲悪はいいなあ。
上田秀人氏の闕所物奉行シリーズ第4弾の「旗本始末」(中公文庫、☆☆★)は、相変わらず宮仕えのあれこれに悩みもだえるサラリーマンの心に寄り添っています。しっかし、菅直人首相を見ていても不思議に思うのですが、これほど集中砲火を浴びてもしがみつきたくなるほど、そんなに地位や権力って、うまみなり面白みがあるものなのでしょうか。
ただのヒラ記者には理解ではない世界です。まあ、別に理解したくもありませんが。
コメント
コメント一覧 (23)
一冊も読んだことが無いです。
気分転換に読書も大変良いと思いますが、やはり頭と心を休めるためて真っ白させるには、お子さんと目一杯遊んでみては如何でしょう。
こっちは明日からまた大雨だそうです。
連日、国会その他で「人として」「人間として」うんぬんと人間性そのものが問題視される首相は、初めてみました。>手放した瞬間から誰にも見向きされなくなる…これも理解できているのかどうか。
子供とゲームしては負けています。インベーダーゲーム世代は、とてもいまの子には勝てません。
参考までに無能有害編として、岸田秀さんと山本七平さんの対談本を送りました。
無能有害の指揮官が居座る日本の組織について語られています。
> いかなる動物も真似することのできない粘り強い抵抗を示す...
いい台詞だなぁ...科学に対する絶対的信仰なぞは持ち合わせてませんが、半ば狂信的に科学を否定するような向きにも馴染めないし...
科学に携わる者の良心に沿った主張を行った小佐古内閣官房参与は出来れば涙ではなく怒りでそれを綴って欲しかったですが...
現政権が「説明・説得」を疎かにし続けた結果の抗議行動と見ましたが、大手マスメディアはどう扱うのかなぁ...
> ラストでこれらがみんな盤上に置かれた重要な「布石」であることに...
これをキメられると、読者的には「してやられた爽快感」がたまらないですからねぇ...しかし、33才か...凄いな...
私的には最近では万城目学の新作が...題名が又例によってアレなのでうっかり乗せられて購入/読了してしまいました。
カテゴリは青春もの...なのかな? 緻密な物語展開とはお世辞にもいえない訳の解らんエネルギーに満ちた愉しい小説でしたよ。
>ホーガン…一冊だけ読むはずが、結局三冊とも読み返してしまいました。無能有害には、ホント、困ったものですね。
>万城目氏の新作…いま、半分近くまで読んでいます。彼の「ワールド」満開ですね。
本の話題が出てきたので、うれしくなってついコメントしてしまい
ました。
「新世界より」は衝撃的な面白さで、徹夜して一気に読破してしま
った記憶があります。
私は「ダークゾーン」よりも新世界の次の作品の「悪の経典」がお
気に入りです。
実際にこんな事件がおこらなきゃいいのですが・・
阿比留様は漫画も読まれるようですが、少年チャンピオンで
連載中の「バチバチ」という漫画はご存知でしょうか?
何かと話題だった相撲界を題材にした漫画なのですが、とても
熱くて面白い漫画です。
なにせ我が家の高校生の娘に薦めたらすっかりハマってしまい、
名古屋場所が開催されたら連れて行けとせがまれてしまいました。
バリバリの今時の女子高生なのに(笑)
今日は 表題とは関係ないのですが、ぜひ阿比留さんにお伺いしたいのです。
私は ずっと枝野官房長官 会見内容を3.11以来ずっと 保存しています。
以前から、幹事長として毎日午前・午後と以前の仙石さんよりは説明責任を果たしているとは思いますが、丁寧に説明しようとしている反面、菅首相の行動や最近の人格面まで否定されるに至って、枝野さんの説明にもかなり倫理的な破たんが見られるように感じるのです。そもそも菅首相がぶら下がりをやらない分、枝野さんに負担がかかるのはわかりますが、各マスコミの記者の皆さんは会見文をそのまま掲載して、会見内容の検証はあまりしないのでしょうか? 今回小佐古参与を慰留しなかった理由についての会見内容は 理解できませんでした。阿比留さんなら 厳しくチェックしておられるとは思うのですが、早く引導を渡してやってください。
けっこう癖になるシンプルな歌です。
読書のBGMにどぞ。(´・ω・`)
はじめまて。その漫画は知らなかったので、今度、手にとってみます。相撲ではありませんが、個人的に最近、しばらく前の柔道漫画「帯をギュッとね!」にはまっていました。
仙谷氏と枝野氏は、子弟関係ともいわれるだけに似ている部分があります。どちらも、何が真実かよりも、言葉でどう言い繕うかを優先し、かつ、けっこうその場しのぎ的であることです。枝野氏は長官就任以来、ある意味、本音が出やすかった仙谷氏に比べ、公式発言に徹していてそれが或る程度の信頼につながったのでしょうが、ご指摘の通り、一つひとつの言葉を検証するとあやふやだったり、誤魔化していたりします。産経紙面でもその点について何度か触れてきましたが、また機会をとらえて指摘します。
人類のポテンシャルとその未来への大いなる楽観といえば、アーサー・C・クラークの初期作品でも読みましたが、題名がいま出てきません…。菅首相に対しては、理解不能な「ソラリスの海」を感じますが。
ちょっと、読書のBGMにはなりません(笑)
「星を継ぐもの」シリーズ4部作、「内なる宇宙」で
やはり完結だったんですね。続きが読みたかったです
ああ、「内なる宇宙」上下のことはすっかり失念していました。今確かめたら、私の本棚にホーガンの本はあと「造物主の掟」と「造物主の選択」しかなかったもので…。
試したつもりでしたが、さすがです(笑
ホーガンの作品は希望が持てるものばかりでした
日本人の心情に合っていたかもしれません
危機に陥っても、必ず克服するストーリー展開は
テレビの水戸黄門的とも言えるほど日本人のツボにはまったものでした
現代の日本に黄門様はいないのかな
ダメ将軍を叱り飛ばす黄門様は
ホーガンお読みでしたか。出身校のSF研の会誌名も当時ミーハーにも即座に「パーセプトロン」に変わっておりまして、当時SF読みは広く嵌ったものです。ホーガンの著作は大体好きですが「巨人の星」四部作に続くものとしては私は「創世記機械」でしょうか。前半の地味くさいストーリーが次第に加速して走り出す感覚が良いのです。
当時、グレゴリー・ベンフォードという作家の作品がホーガンに似ている様に思って(主人公の職業や受ける軋轢、表紙絵の感じ)飛びつきましたが全然違う感触で(楽観性や明快さが足りない?)自分には合わなかった。。。
> 人類のポテンシャルとその未来への大いなる楽観といえば、
> アーサー・C・クラークの初期作品でも読みましたが
うーん「火星の砂」と「宇宙島へ行く少年」ですかね。
後者はジュブナイルだから希望に溢れた感じになって当然ですが、前者が「人類のポテンシャルとその未来への大いなる楽観」というテーマにピッタリです。淡々と進む作品ですが私は大好きです。
「星を継ぐもの」が漫画として連載が始まりましたが
絵にするとこうなるのだなあ、と、なかなか感慨深いですね