…もうため息しかでません。国民をどこまでも疲弊させ、絶望のどん底に突き落としつつひたすら元気な我らが宰相、菅直人氏のことや、現下の政局の件など汚らわしくて考えたくないし、触れたくもないのですが、日々あれこれと情勢がムダに動いているので、追っかけざるをえません。

 

 で、現在、永田町で「大いにありうる」と語られているのが、菅首相による延命を懸けた「脱原発解散」です。ふつう、勝算なく衆院解散はできるものではありません。周囲も止めますし、何より首相自身が「大敗して同志議員を大量に討ち死にさせた首相」との汚名を歴史に残すことにプレッシャーを感じざるをえないということがあります。

 

 しかし、菅直人首相の場合はどうでしょうか。どうせこのまま行けるところまで粘ったとしても、8月中には行き詰まるのだから、もう失うものはありません。最近は盛んに、輿石東参院議員会長らが万が一にも菅首相が8月中に辞めないということがないように、対外発信して「たが」をはめようとしていますしね。もうすでに人格・識見・能力については「史上最悪」という評価が定着しているので、これ以上評判を落とすはありませんから。

 

 今のところ民主党幹部連中は打ち消しに懸命ですが、これは確たる根拠があってそうしているというより、そんなの困る、それは筋が違うという意味で、一応否定しているという感じです。誰も菅首相の暴走は止められないのですから。

 

 菅首相としては、このままではじり貧である一方、脱原発を掲げて解散・総選挙を行い、何か致命的な間違いか運命の悪質ないたずらで勝ってしまったら、選挙で信任された首相として、堂々と大好きな「延命」「保身」を果たすことができ、しばらくは首相官邸の執務室で「我が身可愛やほ~やれほ~」と意味不明のことを口走っていることができます。

 

 己を知らず、ことこの期に及んでも、オレは本当は人気者であるはずだ、などど本気で信じていかねない菅首相のことですから、解散という選択肢はとても魅力的、蠱惑的、誘惑的であるはずです。

 

 そして、解散に打って出るには掲げるべき「大義」が必要なのですが、それが脱原発の是非であれば、確かに国民に問うに値する重大なテーマだということもできます。最近、この脱原発と再生エネルギーという有効なキーワードを思いついたらしい首相は、おそらくこれこそオレの歴史的使命だとばかりに例の誇大妄想に陥って、周囲の困惑をよそにいよいよ他者とかかわりのない世界で遊ぶようになったようです。

 

 私も国民の信を問うこと自体は大賛成です。菅首相自身、野党時代は「衆院選を経ていない首相は『仮免許』だ」と主張していましたしね。ただ、私は菅直人首相には脱原発をテーマに解散に出る資格がないと考えているだけに、何だかイヤな雰囲気だなあと感じているのです。

 

 例えば、自民党の小池百合子総務会長は24日の記者会見で、最近、急に菅首相が成立に意欲を示しだした再生エネルギー特別措置法案について、こんな話をしていました。

 

「例えば3月11日に例の再生エネルギー法案、これについて役所から総理の元にブリーフィーングに行ったところ、3月11日の時点で再生エネルギーについて菅総理は何も興味を示さなかったそうだ。突然火がついたのが、たぶん(ソフトバンク社長の)孫正義さんとの話があってからのことではないかと。何か再生エネルギーをすることが正義の味方みたいなところがあるけれども、正義は正義でも孫正義の正義ではないか」

 

 例の、孫氏に「なんていい人なんだ」と激賞された会合以降、菅首相が俄然やる気になっていることを言っているのでしょうが、「孫の正義」とはうまいですね。でも、これがあまり洒落や冗談では済まされないところが心配です。

 

 そもそも菅首相は、当選以来、時折、思い出したように国会質問などで再生エネルギーについて言及してきたのは事実ですが、少なくとも政権交代以降、この問題に特に取り組んできた様子はありません。それどころか、今年1月の施政方針演説で「私自らベトナムの首相に働きかけた結果、原発施設の海外進出が初めて実現します」と原発ビジネス成功を手柄誇りしていました。

 

 菅首相、鳩山由紀夫前首相、仙谷由人官房副長官は競うように原発ビジネスの国際展開を行ってきましたし、菅政権は今もそのビジネスを進めています。それなのに、脱原発をテーマに解散するとしたら、それは国際的ペテン以外の何物でもないと愚考します。

 

 というより、将来的に再生エネルギーの方にシフトしていくということ自体には、与野党ともに反対する党はないはずです。あまり急進的にやろうとすると、国民生活にも日本経済にも大きな影響が出るとの懸念は当然出ていますが、解散時に「脱原発」が大義として振りかざされると、そうした穏健な意見も、すべてを単純化して善悪二元論に持ち込む人たちによって「原発利権屋の反抗」として排除されかねない怖さがあります。

 

 そしてその結果、人類よりもダニ、ムカデ、ナメクジ、ヒル、毛虫、寄生虫…などと並べて分類した方がぴったりくるようなナントカが勝利を収めて居座りを決めるなんてことになれば世の中真っ暗ですから。まさか有権者がそんな判断を下すとは思いませんが、もしそんなことになったら、日本は社会正義に反した非道徳的・非倫理的国家として世界に指さされることでしょう。

 

 きょう発表の産経とフジニュースネットワークの合同世論調査で、菅政権について「評価する」人の割合を見ると、「首相の指導力」(8.0%)、「景気・経済対策」(11.0%)、「外交・安保政策」(13.0%)、「福島第1原発事故への対応」(13.5%)…と軒並み低評価であるにもかかわらず、「原発への依存度を減らす方針」については、68.4%が評価していました。

 

 菅首相もそのスタッフも、こうした数字はチェックするでしょうから、うんうんと意を強くする可能性がありますね。というより、これしかないと思い詰めていく危険性だって否定できません。菅首相のようなポピュリストは、先日のイタリアの国民投票結果なども間違いなく脳裏に刻んでいることでしょうし、どうもなあ。

 

 繰り返しますが、原発への依存度を漸次減らしていくことに関しては、与野党とも特に反対はないと思います。それなのに、菅首相が「見えない敵」として守旧派・既得権益派を勝手に想定してそれをたたくことで選挙に勝とうとしているとしたらどうでしょうか。

 

 菅首相は、本当に恐るべき「人災」そのものであり、日本に災厄をもたらす「禍日神」、あるいは「大貧乏神」であると感じています。あの不景気面を1年以上も見続けてきたせいか、なんか私の精神も少し病んできたのではないかとそんな気も…。

 

          

              7月1日発売(PHP研究所)