さて、国民の大きな期待を背に受けて出発した民主党政権も2年余が過ぎ、かつては政権のたらい回しを批判していたにもかかわらず、3代目の首相が今、政権の座に就いていますね。

 

 鳩山由紀夫元首相、菅直人前首相については、おおよそどういう人物であり、どういう方向性を持っているのかある程度つかめているという思いもあり、好き勝手書いてきましたが、野田佳彦首相に関しては、まだ「この人はこうだ」と明言、断言できる材料が十分私の中に蓄積されていないので、どうも論じにくい状況が続いています。

 

 この人は、来年秋の民主党代表選で再選されるまでは、ひたすら大人しく頭を低くしてやりすごそうと考えているフシもあり、政局はなんだか「凪」となっています。もちろん、ある意味多士済々の民主党政権のことですから、このまま何事もなく無事に済むとは思いませんが、世間にも少々、批判疲れがあるように感じます。

 

 というわけで、本日は久々に読書シリーズをアップします。まずは、ここの常連、堂場瞬一氏の「異境」(小学館、☆☆☆★)からです。相変わらず、この人の作品の登場人物はアクの強い狷介な人物ばかりで、そこが少し疲れますが、おもしろい。

 

 

     

 

 上司との対立で本社社会部を追われ、横浜支局に赴任した中年記者が、失踪した嫌われ者の後輩記者を捜すという仕事を命じられ、あれこれ足跡をたどるにつれ、ある事件にぶつかり……というストーリーです。主人公が左遷された中年記者である点に関心を覚えました。

 

 奥田英朗氏の短編連作小説「我が家の問題」(集英社、☆☆☆★)はもっと軽妙なタッチというか、重苦しくはありません。でも、タイトルが示すように家族の問題というのは、それはそれでいろいろと考えさせられます。

 

 

     

 

 特に、帯「どうやら夫は仕事ができないらしい」とある「ハズバンド」という作品は、あくまで淡々とした描写ながら、切ないというか胸にどしんとこたえるものがあります。他人事とは思えないというか……。

 

 お気に入りの今野敏氏の「隠蔽捜査シリーズ」第4弾、「転迷」(新潮社、☆☆☆★)は相変わらず見事な黄金パターンというか読ませます。サラリーマンのニーズに実にうまく応えていて、帯に池上彰氏の推薦文が入るところが何とも……。

 

     

 

 まあしかし、この作品の主人公も、警察庁の中堅キャリアでありながら、降格人事で警視庁大森署の署長となっています。官僚は人事がすべてといいますが、一般企業のサラリーマンでも、それは似たようなものでしょうね。ちなみに、私は社会部で警視庁を担当しているとき、大森署管内で起きた殺人事件で走り回ったことがあるので、その意味でも感慨深い読み物でした。

 

 宇江佐真理氏の「髪結い伊三次捕物余話」シリーズ第10弾「心に吹く風」(文藝春秋、☆☆☆★)を読んで、改めてこの作者はつくづく上手い書き手だなあという感を深くしました。人生いろいろ、だけどみんな懸命に生きているのだなあという当たり前のことを、しみじみ味わうことができました。

 

     

 

 シリーズも10巻目ですから、登場人物はそれぞれ齢を刻み、状況も生きる環境も少しずつ変化していき、だけどそれぞれ真っ当に暮らしている。静かな感動があります。

 

 井上荒野氏の作品は初めて読んでみました。この「キャベツ炒めに捧ぐ」(角川春樹事務所、☆☆☆)は、洒脱(?)な題名に惹かれて手に取ったのですが、総菜屋で働く3人の中年というか初老の女性の人生がけっこう重く迫ってきました。

 

     

 

 といって、暗いわけでもなく、人生そんなに捨てたものじゃないという気分にはなるのですが。いやもっと、料理を中心とした明るい話かと勝手に想像して読み始めたもので、現実はこういうものだと突きつけられたような印象がありました。

 

 一方、小路幸也氏の「カウハウス」(ポプラ文庫、☆☆☆)は、現代のファンタジーとでもいうべき明るい色調の本でした。主人公もそのパートナーも決して幸せな生い立ちではありませんが、それゆえに誠実に生きていて。

 

     

 

 ただ、この作品の主人公も、ばりばり働く商社マンだったにもかかわらず、上司とケンカしてわずか25歳にして社保有(死蔵)の豪邸の管理人に飛ばされます。なんか、心境にたまたま合ったのか、気がつくとそういう本ばかり読んでいますね。

 

 高田郁氏の「みをつくし料理帳」シリーズも第6弾を数え、今回の「心星ひとつ」(ハルキ文庫、☆☆☆)ではけっこう大きな展開がありました。主人公は、差し出された幸せを選ぶか大望を選ぶかの選択を迫られます。

 

     

 

 志の小さな小市民である私ならば、間違いなく身近な幸せを選ぶことでしょうが、主人公は結局……。女料理人とその親友をめぐる波瀾万丈、数奇な運命はいかに。地味な主人公と作品かと思ったら、けっこう派手な展開でした。

 

 小説で読む哲学入門と銘打たれた適菜収氏の「いたこニーチェ」(朝日文庫、☆☆☆★)は、まず題名にしぴれ、帯の「ある日、ニーチェが降りてきた」との単純明快な紹介に読まずにいられませんでした。いや実際これ、実に優れたニーチェの入門書となっています。

 

     

 

 主人公はある日、ある日高校時代の知人から現世否定の夢を操る「プラトン一味」と決めつけられ、知人に「降りて」きたニーチェに徹底的に説教され、罵倒され、早く洗脳から覚めろと迫られます。いやおもしろい。

 

 大石直紀氏の「グラウンドキーパー狂詩曲」(小学館文庫、☆☆☆)は、売れなくなったかつてのベストセラー作家が、生活のために暇そうなスポーツ公園管理事務所に務めたところ……というストーリーです。

 

     

 

 市役所から天下りしてきた全くやる気のなさそうな同僚たちと日々をぼんやりやり過ごしている間にも、主人公の身辺は少しずつ変化していきます。市政を牛耳るポス、公務員のあり方、それぞれの事情……といろいろ接しているうちに、主人公の気分、姿勢もまた変わっていく姿が読ませます。

 

 山本甲士氏はかなり好きな作家なのですが、この「バスのから騒ぎ」(双葉文庫、☆☆★)はうーん、正直いまひとつだと感じました。題名の通り、バス釣りをめぐる反対派と賛成派の対立や、それに巻き込まれて右往左往し、あるいは破滅を迎える人たちを描いた連作小説なのですが……。

 

     

 

 結局、好みの問題なのでしょうが、この人の他の作品で味わえたカタルシスが、この本では感じられませんでした。同じ釣りものでも、「あたり 魚信」はとても面白かったのですが。

 

 上田秀人氏の「闕所物奉行 裏帳合」シリーズも第5弾「娘始末」(中公文庫、☆☆☆)が出ていました。ストーリーは、まあもういいでしょう。

 

     

 

 ただ、身分の低い主人公が、上司である目付けの鳥居耀三にふだんは屈服しながらもときに厳しく対峙し、付かず離れず生き抜こうとする姿は、やはりサラリーマンには魅力的です。下手をすると左遷どころか切腹・暗殺の世界ですからね。

 

 ここ2年間は、激動する政局に追われ、常軌を逸した指導者たちの言動に振り回されていましたが、今後はしばらくおろそかになっていた「勉強」に力を入れようと思っています。あと、アルコールの量も減らさないとなあ。