さて、先日の自民党外交部会で6日の日韓外相会談でも、玄葉光一郎外相の李明博大統領の表敬の場でも、8月に韓国・鬱陵島を視察しようとした自民党国会議員3人が入国拒否に遭ったという信じられないような非礼について、話が一切出なかったことが確認できました。これが野田政権、というよりも民主党政権の外交姿勢の一端を表していることは間違いないでしょう。

 

 そこで私は昨日、入国拒否とされた1人である新藤義孝衆院議員(元外務政務官)に現在の日韓関係や、野田佳彦首相が18日の訪韓時に一部持参するとされる朝鮮王室儀軌など朝鮮半島由来の文書引き渡しについてどう考えるか聞いてきました。その内容について、新藤氏はブログ掲載を許可してくれたので紹介します。

 

     

 

  外交部会でも、首相の儀軌持参に反対していましたね

 

 新藤氏 今回の儀軌引き渡しの問題は、いわば日本外交の盲点を突かれたと考えています。日韓間ですでに解決済みの問題を、菅政権が日韓併合100年にあたってあえて蒸し返したところにも問題があります。

 

  というと具体的にはどこに

 

 新藤氏 まず、この「図書に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定」は、相互協定と言いながら、日本から韓国に文書を引き渡すばかりで、韓国側にも日本の歴史的文書がかなりいっていることを、昨年11月の協定署名の数日前まで、外務省も含め日本政府側は誰も知らなかったのです。

 

  随分とずさんな話ですね

 

 新藤氏 実は「対馬宗家文書」をはじめ10万点以上に上る日本の文書が韓国に残っていることが分かりました。それなのに、日本側はそれの引き渡しを求めていない。完全な片務条約であり、幕末期の不平等条約並みです。私がこの事実を外務省に知らせたとき、担当者は「本当ですか、まいりました」と言っていました。韓国にあるものも日本に引き渡すようでないと、「日韓両国間の文化交流及び文化協力の一層の発展を通じて、日韓両国及び両国民間の友好関係の発展に資する」という協定の趣旨が生かされません。

 

  結局、日本は韓国にも引き渡しを求めることをしませんでしたね

 

 新藤氏 ええ、問題はさらにあります。この韓国文書引き渡しはそもそも、昨年8月の菅首相談話で「日本が統治していた期間に朝鮮総督府を経由してもたらされ、日本政府が保管している朝鮮王室儀軌等の朝鮮半島由来の貴重な図書について、韓国の人々の期待に応えて近くこれをお渡ししたい」と表明したことに始まります。

 

  この菅談話に関しては、野田首相(当時財務相)は当初反対でしたが、仙谷由人官房長官(当時)に説得されて反対を引っ込めたのでしたね

 

 新藤氏 はい。それで、儀軌167冊を引き渡すことになったのですが、実はこのうち4冊は、古書店で日本政府が買ったものであり、由来が異なるのです。また、儀軌のほかに1038冊の文書も引き渡すのですが、これもおかしな話です。韓国国会はこれまで、昨年2月の「日本所蔵朝鮮王室儀軌返還要求決議」などで儀軌を戻せと求めてきましたが、それはあくまで儀軌だけなんです。

 また、韓国の連合ニュースによると儀軌以外の文書は、実は韓国統監府の初代統監、伊藤博文が日韓併合前に手に入れたもので、菅談話の枠に入っていないのです。これでは日本政府はおめでたいというしかありません。

 

  日韓間で受け止めも違いますね

 

 新藤氏 日本側はこれを善意の「引き渡し」としていますが、韓国側ははっきりと「返還」と位置づけています。今年513日には、ホテルオークラで大々的に「朝鮮王室儀軌 返還記念宴会」を開いているくらいです。しかも、この席には共産党や民主党の国会議員も出席しているのです。これを伝えた連合ニュースは「日本で儀軌返還に努めた笠井亮・共産党議員に感謝牌を与えた」と書いています。「与えた」ですよ。

 また、このときの韓国の権大使は「さらに多くの文化財が韓国に返還されるよう」とあいさつしています。韓国は国会決議では「『文化財の原産国返還』というユネスコ精神が責任感をもって実現されることを期待する」としています。そうであれば、韓国は日本から渡った文化財を返還しなければなりません。日本はその交渉を行うべきです。

 

  日本政府は一方的に譲歩を重ねるばかりで、ピントが完全にずれていますね

 

 新藤氏 この3月の東日本大震災以降をみても、韓国の閣僚が5カ月間で6人も竹島に上陸して式典などを行いました。それまで着工が延期されていた竹島のヘリポート改修工事は、なんと震災直後に着工されました。竹島沖合わずか1キロの海域に新たに建設される地上15階建ての海洋科学基地は4月に入札され、竹島には大桟橋もできます。昨年6月からは竹島に定期観光船も就航しています。

 

  日本の弱腰をみて、どんどん攻め込んでいますね

 

 新藤氏 8月にわれわれが入国拒否された件でも、われわれは韓国側に「その法的根拠と今後の運用について見解を示すように」と求めていますが、一切答えはありません。ことごとく韓国側は日本の国民感情をさかなでする行為を続けているのです。儀軌にしたって、日本は約束をきちんと履行しているのに、日本の主張には一切耳を貸さないという態度です。

 それなのに、野田首相が訪韓に際し儀軌を持参するとなれば、韓国側に「これでいいのだ」と誤ったメッセージを送ることになります。

 

  日本外交はこのところ負け続けです

 

 新藤氏 しかも、それが政権交代後のこの2年間に起きているのです。民主党政権は韓国に対し、まず竹島について「不法占拠」という言葉を使いませんというメッセージを送りました。前述のヘリポート工事の計画は2008年からあったものですが、自民党政権のときは一切触らせなかった。

 それが政権交代後は、韓国が何をやっても「抗議しない」「抗議しても明らかにしない」「国民に知らせない」でどんどんつけ込まれています。領土や国家主権についてきちんと主張しない国は、誰からも信用されないのにです。

 尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件での中国の強硬姿勢も、私は民主党政権の竹島への対応を見てのことだというのは間違いないと思っています。ロシアも、これを見てメドベージェフ大統領が北方領土初訪問に踏み切り、さらに中国と歴史認識を共有すると言い出した。

 この前、韓国の国会議員が国後島へ行った際もロシアは特別な便宜を図りました。気がついたら、中韓露による日本包囲網ができている。にもかかわらず、野田首相がいそいそと儀軌を抱えて持っていくというのですから……。

 

 私 悪循環にはまっていますね

 

 新藤氏 儀軌の話に戻ると、日本にある儀軌は別に強奪したものではありません。そもそも総督府から宮内庁へと儀軌が渡ったのも、朝鮮王族を日本の皇族と同様に差別なく扱いたい、そのためにも朝鮮王族の儀礼を知るべきだという天皇陛下のお考えがあったといいます。

 一方、例えばフランスは韓国の儀軌を強奪したにもかかわらず、17年間もの韓国との交渉の後、返還はしないと決めました。期限付き貸与としたのです。

 

 私 日韓関係を正常にするにはどうしたらいいとお考えでしょうか

 

 新藤氏 実は、8月にわれわれが入国拒否された後、韓国の与野党代表団の竹島視察が「天候不良」により中止されました。その後、誰1人として閣僚も国会議員も竹島に渡っていません。少なくとも私の知る限り。やはり、それなりのくさびはきいているということでしょう。

 何も私たちはナショナリズムを煽ろうなどとは考えていません。ただ、韓国とはきちんともめるべきはもめて、本当の話し合いをしてこそ本当の友人になれるのだと考えています。今までは、ケンカをする前に贖罪意識をもたされ、謝罪しながら外交をしてきました。

 ですが、私たちは本気で韓国と付き合う、だから嫌なことも言うよ、という誠実な外交に切り替えていかなければならないと考えています。()

 

     

 

 ……以上、新藤氏の話をまとめてみました。これまでほとんど話したことのない人でしたが、理路整然と答えてくれました。正直なところ、自民党政権時代の外交にも多々不満はありますし、そのたびに批判してきましたが、日本の地盤が地滑りして崩れていくようなこの民主党外交のこの2年間を思うと空恐ろしくなりますね。

 

 昨日、ある政治評論家と話していたところ、その人は「それでも民主党が学ぶのを待つしかない。全共闘世代が消えたらだいぶマシになる。いま民主党がつぶれたら二大政党制が終わりになる。相互に監視・牽制する政党が必要だ」と語っていました。

 

 これも一理あると率直に思います。ですが、日本にそんなに余裕、残された時間があるかというと、大いに不安になるのでした。