21世紀の国際社会の最大の課題は、台頭する中国とどう向き合い、どのような関係をつくっていくかだと言われます。中国がここまで大きな存在になってしまうと、もう米国だって戦争はできないし、市場としても大切ですから完全な封じ込め戦略などとれません。かといって、独善的で唯我独尊の論理で世界を振り回す中国の好き放題にさせるわけにもいきません。

 

 相対的地位は低下しているとはいえ、いまだ世界の突出した超大国である米国の関心は、どうにもこうにもにっちもさっちも、という状態にある中東や、経済的基盤を弱めている欧州から、将来的にますます成長が見込めるアジアへとシフトしています。オバマ米大統領も経済的にも軍事的にもアジアに力を注ぐ姿勢を明確にしました。当然、中国は米国の動きに反発し、なんとかこれをはねのけたいと考えていることでしょう。

 

 世界は日本が好むか好まないかにかかわらず、常に変容しています。そして、その中で、世界の構成員の一国であり、米中の狭間にある日本がどうそれに適応し、積極的に変化を国益にしていくかが問われているのだと思います。アジアの緊張はいま、確実に高まっていますが、これを我が国のためにうまく利用すべきことは言うまでもありませんね。

 

 というわけで、過去の戦争を引き起こした要因はたいてい、経済問題にあったように、いまも日本を取り巻く国際環境は虚々実々の外交的な駆け引きや軍事的示威に満ちていて、各国とも将来への布石を打ち、生き残りと有利な生存条件を求めて必死なわけです。

 

 ……と、前置きが長くなりましたが、本日のエントリの主題は、そんな厳しく緊張感が漂う世界情勢の中で、日本の安全保障を司る防衛相がこの人でいいのか、という問題です。首相や閣僚の資質を問うと、すぐ個人攻撃であるかのように矮小化した議論をする人がいますが、そうした人は日本の現状に対する危機感がなさすぎると思います。

 

 というわけで今回は、ここ1週間ぐらい新聞各紙で私が切り抜いた記事の中から、米中、そして日本をめぐる情勢が書かれたものと、一川保夫防衛相の言動について書かれたものを抜き取り、以下に紹介します。この二つを対比することによって、この人を起用し、いまだにかばい続ける野田佳彦首相もその政権も、いかに「ぬるい」人たちかが浮き上がるかなと考えました。

 

【米国VS中国、そして日本】

 

 《東アジア首脳会議の直前の19日午前。オバマ米大統領はあからさまに中国をけん制する球を投げた。F16戦闘機を24機、インドネシアに供与すると発表したのだ。両国で過去最大の規模となる武器売却をわざわざこの日公表したのは、中国軍の増強に対抗する姿勢を示すためだ》(20日付日経)

 

 《海兵隊の拠点を沖縄、東南アジア、豪州に分散させる構想には、中国の存在がある。有事の際には西太平洋近海への米軍の侵入を阻止し、弾道ミサイルで沖縄などの米軍基地などを攻撃するのが中国の戦略。拠点を分けるのは、軍事的な常識でもある》(20日付日経)

 

 《首相は十八日に行われた日・ASEAN首脳会議で、海洋安全保障での連携を盛り込んだ「バリ宣言」を提案し、採決された。中国は南シナ海の南沙諸島領有権問題などでASEAN加盟国の一部と対立している。南シナ海の平和と安定や国際法の順守を呼び掛ける宣言が、中国を念頭に置いているのは明らかだ》(20日付東京)

 

 《アジア太平洋地域の自由貿易圏づくりで米中のどちらが主導権を握るかの競争が始まっているのだ。TPPは米国主導、日中韓(※日中韓FTA)は中国主導なのが現実である。日中韓で日中は五分と言いたいが、もはやそういう力関係ではない》(23日付毎日)

 

 《玄葉氏は東京電力福島第1原発事故を受けた日本産食品の輸入規制の一層の緩和を要請。楊外相は「安全確保を前提に真剣に検討したい」と応じた。一方で、中国海軍の艦艇6隻が22日から23日未明にかけ沖縄本島と宮古島の間の海域を通過するなど、中国側の硬軟織り交ぜた対日戦略をうかがわせる》(24日付産経)

 

 《防衛省は23日、中国海軍の艦艇計6隻が22~23日かけて沖縄本島と宮古島の間の公海上を太平洋に向けて通過したと発表した。中国は活発な海洋活動を続けており、南西諸島の防衛強化を図る自衛隊の警戒監視態勢をけん制する狙いがあるとみられる》(24日付日経)

 

 《韓国国土海洋省は24日、竹島(韓国名・独島)に5000トンの旅客船などが接岸できる大型のふ頭兼用の防波堤と、海中の様子を観覧できる観光施設を建設する構想をまとめ、施設の基本設計を完了したことを明らかにした》(25日付毎日=共同)

 

 《中国は米国の攻勢に対抗し、「包囲網」を回避するためにも、米国と同盟関係にある日本との関係改善に乗り出しているとの見方は多い。日中外交筋は「日本がTPP交渉参加に踏み出したことで、中国も焦っている」と分析する》(25日付読売)

 

【一川防衛相の動き】

 

 《野田佳彦首相は21日の参院予算委員会で、ブータン国王夫妻歓迎の宮中晩餐会を欠席して民主党議員のパーティーに参加した一川保夫防衛相について、辞任や更迭の必要はないとの認識を示した》(22日付産経)

 

 《一川氏はこれに先立つ参院外交防衛委員会で、「(ブータン国王に)手紙を出すことも含めてしっかり対応したい」と述べていた。しかし、自民党の佐藤正久氏に国王の名前を尋ねられると、即答できず、秘書官に確認した上で「ワンチュク国王と思う」と答弁》(23日付産経)

 

 《今月16日夜のブータン国王夫妻歓迎の宮中晩餐会を欠席し、民主党議員の政治資金パーティーに出た一川保夫防衛相は22日、東京都内のブータン王国名誉総領事館を訪れて陳謝した。》(24日付朝日)

 

 《航空自衛隊小松基地(石川県小松市)所属のF15戦闘機が10月7日に燃料タンクなどを落下させた事故を受け、同基地では飛行訓練再開の見通しは立っていない。最大の障害は、衆院石川2区で過去4回議席を争い破れた自民党の森喜朗元首相に対する一川氏の強烈なライバル意識だという。同県能美市のタンク落下現場は森氏の自宅近く。防衛省の地元への説明が遅れたことに森氏は不満を強めているが、実はこれを妨げたのが一川氏だった。》(25日付産経)

 

 《一川大臣が全く常識に欠けた人物だということは分かる。一大臣が、国王に謝罪の手紙を出すなどということは無礼だということも分からないのである。自分の内閣の閣僚の不始末を国王に謝れるのは総理だけ》(25日付産経、曾野綾子氏のコラム)

 

 ……曾野綾子氏はさすがに鋭いですね。私も一川氏の「手紙」のエピソードにはどこか違和感を覚えていたのですが、頭の回転が鈍く忘れっぽいせいか、この行為自体が不遜であるということに咄嗟に思いが及びませんでした。指摘されて初めて、ああそれはもっともだと分かったのですから、あまり一川氏のことを言えた義理ではないかもしれません。

 

で、裏が取れる話でもないので確証はありませんが、野田内閣の防衛相に一川氏を推したのは輿石東幹事長だという説がありますね。一川氏は小沢一郎民主党元代表の側近の一人でもありますが、輿石氏にも近い人物です。

 

 で、前の防衛相である北沢俊美氏は参院民主党にあって輿石氏とは犬猿の仲のライバルとされていて、だからこそ今回の参院議長人事でも外されたとされています。そういう背景があって、比較的防衛省で評判のよかった北沢氏の後釜には、その影響力を削ぐためにも輿石氏に近い一川氏を押し込んだ、という情報です。そして、省内では早くも無能大臣呼ばわりが始まっていると。

 

 さらに、北沢氏に冷や飯を食わせておいて輿石氏が参院議長につけた平田健二氏との間では、次の議長は輿石氏と「禅譲」の密約があるとの報道もありました。さもありなん、と万人が納得するところですね。

 

 まあ、どんな会社、組織でも人事は好き嫌いで決まる部分が大きいわけですが、この危機と変化の時代にあって、野田内閣の外交・安保軽視としか言いようのない「党内融和が第1」人事で、このまま日本が立ちゆくのかどうか、一国民として不安を覚えざるをえないところです。