このところ、ただでさえ年末進行で手一杯なのに、馬鹿げた慰安婦騒動や金王朝3代目の世襲うんぬんのドタバタ劇が続き、エントリ更新が滞っています。書きたいことも材料もいろいろとあるのですが、産経紙面との優先順位、整合性の問題もあって、そして何より忘年会シーズンで二日酔いが常態化しているため、なかなかはかどりません。

 

 というわけで、本日は40日ぶりの読書シリーズでお茶を濁そうと思います。可能な限りできるだけ毎日、書店に行って新刊をチェックしているのですが、まだまだ見逃している良本は多いなあと、当たり前のことを改めて思います。

 

 さて、まずは荻原規子氏の「RDG」シリーズの第5作「学園の一番長い日」(角川書店、☆☆☆★)からです。世俗の垢にまみれた中年親父がファンタジーを楽しむというのも、端から見たらどうなのだろうかと少し自省もしますが、面白いものは面白い。主人公をめぐる人間関係や環境に展開があり、次作が待ち遠しいところです。

 

     

 

 次に紹介する川上健一氏については、新作に接するたびにしみじみとした感動を与えてくれるのでいつも楽しみにしています。ただ、今回の「あのフェアウェイへ」(講談社、☆☆☆)は私がゴルフをやらないもので、いまひとつ物語世界に没入できませんでした。もっとも、ゴルフ漫画「風の大地」は好きで読んでいるのですが。帯には「人生はゴルフに似ている」とありますが、私もずっと以前、麻雀にはまっていたころは「人生は麻雀に似ている」と考えていました。

 

     

 

 今野敏氏の「横浜みなとみらい署暴対係」もこの「防波堤」(徳間書店、☆☆☆)が第3弾です。相変わらず軽妙なタッチで面白いのですが、今回の連作短編はちょっとワンパターン気味かな。古きよき任侠道を生きる「神野のとっつぁん」ばかりが出てきすぎのような…。

 

     

 

 まさか続編が出るとは予想していなかったので、書店で「おおっ」と思わず歓声を上げそうになったのが、堂場瞬一氏の「ヒート」(実業之日本社、☆☆☆☆)でした。これは箱根駅伝を舞台にした前作「チーム」の数年後を描いたもので、主人公らは今度はフルマラソンを走ります。

 

     

 

 それにしても、鼻持ちならない狷介なキャラ、傲慢不遜なトップアスリートを描かせたら堂場氏は天下一品ですね。そして、読者のこっちは、嫌な奴だなあと思いつつ、目が離せずに一気に読み切ってしまうと。

 

 原宏一氏の「東京ポロロッカ」(光文社、☆☆☆★)は、震災前に書かれたもののようですが、アマゾン川ならぬ「多摩川の大逆流」という設定が不謹慎ととられないように最初に断り書きがありました。普通はありえないと分かるはずのデマに踊らされる人々の人間模様を描きつつ、どうしてデマにだまされたがる人が現れるのかも考察したストーリーで、けっこう考えさせられました。

 

     

 

 けっこう新聞や雑誌の書評で話題になっていたので、天の邪鬼の私は無意味に「ほとぼりが冷めるまで読むのは待とう」と考えていたのが、この三浦しをん氏の「舟を編む」(光文社、☆☆☆☆)でした。言葉にとことんこだわる辞書編集部を舞台にするという着眼点と、それを面白い読み物に仕上げる技量はさすがですね。

 

     

 

 260ページほどのそんなに長くない作品なのであっさり読めてしまうのですが、せめて300ページにしてほしかったと、もっと作中世界を味わいたい気分でした。ただ、同僚・後輩記者たちをみても、原稿を書く際に紙の辞書を引くよりも、電子辞書やネット検索を好む人が増えているようです。

 

 作品名にひかれて手にしたのが、この野口卓氏の「軍鶏侍」とその続編「獺祭」(祥伝社、☆☆☆)でした。藤沢周平作品に出会って時代小説に開眼したという作者が、本家の「海坂藩」ならぬ南国の架空の藩「園瀬藩」を舞台に描く連作で、読ませます。特に、のみの夫婦を描いた「ちと、つらい」はいいですねえ。

 

     

 

 で、再び堂場氏の作品となるのですが、「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズも第7弾「遮断」(中公文庫、☆☆☆)が出ていたので早速買い求めました。前作が、主人公自身の行方不明の娘捜しに話が進みそうな終わり方だったのですが、今回はまた別の展開でした。うーん、第何作まで続くのか。

 

     

 

 またまた堂場氏なのですが、勢いづいて別の連作「アナザーフェイス」(文春文庫、☆☆☆★)にも手を出してしまいました。主人公の大友鉄巡査部長は、もともと警視庁捜査一課の一線の刑事でしたが、妻を交通事故でなくし、小学二年生の子供を育てるため、現在は閑職(?)の刑事総務課に勤務しています。それが、特異な能力を買われてときに現場復帰を命じられ…。

 

     

 

 さきほど、堂場氏は狷介な人物の描写が上手いと書きましたが、この主人公は学生時代は演劇に没頭したというイケメンで、むしろ柔和な印象を与えます。それが捜査の上で思わぬ効果を生んで…と続きが読みたくなる展開はさすがです。

 

 この池井戸潤氏の「鉄の骨」(講談社文庫、☆☆☆☆)も、随分前に出版されたのに、あまりに話題になってNHKでドラマ化もされたのでしばらく放っておきました。で、「もういいだろう」(何が?)と手に取ると、640ページもある分厚い本なのに一気読みです。

 

     

 

 本来は技術屋である主人公の務める建設会社が、スーパーゼネコンではない中堅どころという設定がいいですね。役所の横柄な態度も、大手同業者から見下されるシーンも、いちいちつぼにはまり、手放せずにまた歩きながら読んでしまいました。銀行に勤める彼女の離れかけた心の機微も…まあ、あまりここで書きすぎても仕方がありませんね。

 

 で、この読書シリーズでは、原則として小説しか紹介しないことにしているのですが、改めて通読したイザベラ・バード氏の「日本奥地紀行」(平凡社、☆☆☆☆)が興味深かったので、ここに掲載することにしました。明治初期、東北地方と蝦夷地を旅した英国女性が見た日本はどんなものだったか。

 

     

 

 この本は、日本人の美点や自然の美しさを称賛していますが、決してそれだけではありません。繰り返し日本人の容貌の醜さや不潔さを指摘する描写には、読んでいて少々辟易させられるほどです。ただ、そういういいところも悪いところも遠慮なく記した人だから、(もちろん時代的な偏見は多いにしても)その視点はけっこう公正なのだろうなとも感じます。

 

 北海道の「山アイヌ」の人たちが、源義経を神として祀っている描写など、非常に興味深く読みました。あと、読んでいて映画「インディー・ジョーンズ」シリーズを想起させられるのです。現代の日本人には考えられないほど、平気な顔で危険や困難に飛び込むバード氏の冒険家魂は、「一体何が楽しいのか」と疑問に思うほどです。

 

 私は「インディー・ジョーンズ」を初めて観た際、「こんなに好きこのんで危険な道を行くなんてちょっとリアリティーを感じない。やっぱりハリウッド映画だな」という感想を持ったのですが、いやいや不明を恥じるばかりです。ある種の欧米人ってすごいなと、この本を通読して改めて痛感しました。