今朝の産経は2面で、「菅前首相 あきれた言動」「池田前経産副大臣 震災発生5日間の記録」という見出しの記事を掲載しています。これは、当時現地対策本部長だった池田元久氏が現場で自ら見聞きしたことを整理し、今月19日に「福島原子力発電所事故311~15/2011年 メモランダム=覚え書」という10枚のペーパーにまとめたものです。

 

 池田氏は事故発生から数ヶ月間は取材を断ってきましたが、9カ月がたったのでそろそろありのままを伝えたいと考えたのだそうです。その内容は、本日の紙面でもそれなりに詳しく書いているのですが、よりそのときの雰囲気を正確に生々しく伝え、参考にしてもらうため、菅直人前首相が福島第1原発を視察した12日の部分を、そのままここに書き写してみようと思います(※は阿比留の注)。以下は池田氏の文です。

 

312()

 

 現地には、保安院の福島第1原発と第2原発の原子力保安検査官事務所の検査官の他、東電、地元消防職員が集まっていた。

 

 直ちに横田第1原発原子力保安検査官事務所長から、原発(プラント)の状況について聴く。しかし、原子炉内の温度、圧力、水位などのデータは計器の故障などにより、計測不能のものが多かった。

 

 電話の連絡も容易でない状態。ようやく繋がった衛星電話で海江田経済産業大臣に現地到着を報告した。

 

 海江田大臣らが午前3時にベント実施について記者会見をするという連絡が入った。

 

 内堀雅雄福島副知事、黒木審議官、ヘリコプターに同乗してきた原子力安全委員会の職員らと協議した。

 

 事故対応ではベントは「定石」であるとしても、ベントを実施した場合、周辺住民に与える影響は大きいので、データをできるだけ正確、迅速に把握するよう東電の吉沢班長、横田所長に指示した。

 

 松永次官に電話し、ベントに関連しプラント(発電所)のデータ把握に努めていること、ベントは一義的には事業者の判断で行うべきことを伝えた。

 

 午前2時半前、東電班長より1号機の原子炉のデータ(格納容器の圧力上昇など)の報告を受け、ベント実施を了承した。

 

 午前4時過ぎ、菅総理大臣が福島第1原発を視察するとの連絡が入った。未だかつてない原発事故の現場を観たいという気持ちは分かる。

 

 しかし、今回の大震災は原発だけではない。稀に見る大津波、地震であり、テレビ画面が繰り返し伝えるように、家、建物、船が流され、そこに居た人々の安否が気遣われる状況だ。こうした災害では、人々の生存の可能性が高い初動の72時間が、決定的に重要だ。

 

 指揮官は本部に留まって、人命の救出に全力を挙げ、同時に通信手段の整っている本部で原発事故の対応にあたるべきだ。

 

 また、どうしても現地視察に来るのであれば、重責を担っている本部長(総理)に万が一のことがあってはならないので、視察先は第1原発ではなくオフサイトセンターにすべきだと考えた。

 

 このような考えを黒木審議官に東京に伝えるように言った。(しかし後で聴くと、現地対策本部長の見解は保安院止まりで、総理には届かなかったようだ。)

 

 午後(※午前の誤記?)710分過ぎ、福島第1原発のグラウンドで黒木審議官、内堀副知事、武藤栄東電副社長とともに菅総理を出迎えた。一行はそばに待機していたバスに乗り込んだ。前から2番目窓際に総理、その隣に武藤副社長、後ろの座席に班目春樹原子力安全委員会委員長に座ってもらい、通路を挟んだ反対側に現地対策本部長が座った。総理は武藤副社長と話し始めたが、初めから詰問調であった。「なぜベントをやらないのか」という趣旨だったと思う。怒鳴り声ばかり聞こえ、話の内容はそばに居てもよく分からなかった。

 

 免震重要棟に玄関から入った。交代勤務明けの作業員が大勢居た。

 

 「何の為に俺がここに来たと思っているのか」と総理の怒声が聞こえた。これはまずい。一般の作業員の前で言うとは。

 

 2階の会議室で菅総理は武藤副社長、吉田昌郎第1原発所長から、事故の状況説明を聞き、特に第1原発のベントの実施を強く求めた。吉田所長は総理の厳しい問い詰めに、「決死隊をつくってでもやります」と答えた。

 

 やりとりの合間に、黒木審議官は、第2原発にも原子力緊急事態宣言を発令することと、3キロ圏内の住民に対して避難の指示をすることについて総理の決裁をとった。

 

 また、総理は、県副知事に対して、住民へのヨウ素剤配布などについて質問した。東電側にだけでなく、副知事や班目委員長に対しても総理の口調は厳しかった。

 

 総理は会議室を出てから、現地対策本部長の背中に手を置き「頑張って」と激励した。しかし、総理の態度、振る舞いを見て、同行した旧知の寺田学補佐官に「総理を落ち着かせてくれ」と言わざるを得なかった。また、政権の一員として、同席した関係者に「不快な思いをさせた」と釈明した。

 

 視察を終わって、総理がこの時期に現地視察をしたことと、現地での総理の態度、振る舞いについて、指導者の資質を考えざるを得なかった。かつて中曽根総理が在任中、座禅を組んだことを思い出した。座禅などを組まなくてもよいが、指導者は、短い時間であっても、沈思黙考することが必要だ。思いをめぐらせ、大局観をもって事にあたらなければならない。そして、オーケストラの指揮者のように振る舞うことが求められる。(以下略)

 

 ……池田氏は「僕もあきれた」と語っていましたが、これからもっと、いろんなことが明らかになってくるのでしょうね。菅氏自身は、国会の事故調査委員会で責任追及されかねない立場なので、「共犯者たち」を動員して必死の自己弁護を続けるでしょうが。往生際の悪さでは、天下無双ですしね。

 

 菅氏のこうした常軌を逸した言動については、私もたびたび報告してきましたが、いまわれわれは信用がありませんから、いくら本当のことを書いてもなかなか信じてもらえません。でも、やはり政権内の当事者の証言は重いはずです。みんなの党の渡辺喜美代表は「場合によっては牢屋に入れる必要がある」と語りましたが、私も全く同感です。