今朝の産経新聞は1面トップで、「民主党の中井洽元拉致問題担当相が今週末にもモンゴルで北朝鮮高官と極秘接触することが分かった」と報じています。また、その際には「日本人妻の帰国問題に絞って協議する方針」とも書いています。私はこの記事に関わっていないので詳細は分かりませんが、中井氏は1月にも中国で宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使と会っており、水面下でいろいろ活動しているようですね。

 

さて、記事では朝鮮籍の人と結婚して北に渡った日本人妻に焦点が当てられていますが、移民政策研究所所長の坂中英徳氏によると、北朝鮮に取り残された日本人には、拉致被害者や日本人妻のほかに、戦後、何らかの事情で北にとどまらざるを得なかった「北朝鮮残留日本人」が存在すると言います。

 

坂中氏が昨年11月、野田佳彦首相と玄葉光一郎外相あてに送った「北朝鮮にいる日本人妻、北朝鮮残留邦人等の早期救出を求める」という書面には、こう記されています。

 

「日本に入国した脱北帰国者の数人が、北朝鮮残留日本人に会ったことがあると言っています。北朝鮮残留日本人の大半は山奥の一角に集団でおしこめられ、ジャガイモを主食として命をつなぐ、原始人のような自給自足の生活をしていると聞いています」

 

 ……なんとも悲惨な状況におかれているというわけですね。そして、坂中氏は中井氏に、この日本人妻と残留日本人の問題を訴え、理解してもらったといいます。坂中氏によると、中井氏が拉致問題担当相時代の2010315日の参院予算委員会での次の答弁が重要なのだそうです。

 

《当時千八百人ぐらいの日本人妻が行かれたと。行かれて十年ほどたちまして、日本にもこの救援をする市民運動等が起こりまして、私も当時、一年生議員でしたが、会費等を払い続けた記憶がございまして、ずっと関心を持って今日まで参りました。

かなり御高齢になっていらっしゃいますので、今御存命と言える方は百人内外じゃないかと承知をいたしております。また、日本へ何らかの手法でお帰りになった方も百人以上いらっしゃると。一時、収容所に在日の方を含めて二百人ぐらい入っているんじゃないかという説もございました。(中略)

こういった状況等を踏まえて、総理(鳩山由紀夫)からは、北におる日本人を、生存者すべてを救い出せと、こう御指示をいただいておりますので、この日本人妻のことも私の範囲の中だときっちりと仕分をして、その中で精いっぱい、日本への帰国がかなうように努力をしたいと考えております。》

 

 坂中氏によると、この「生存者すべて」という言い方は画期的であり、日本人残留者を念頭に置いているということだそうです。また、中井氏は北にいる日本人妻は「100人以上」としていますが、坂中氏は「現在は50人を切っていると思う」と見ています。当然ですが、残留日本人には子供がいるとの証言も聞いているそうです。

 

 なので、もしかすると今回の中井氏のモンゴル行きでは、接触が実現すればこの日本人妻と残留日本人の二つの問題が協議されるのかもしれません。確かに、北朝鮮にしてみれば、いろいろと難しい事情を抱える拉致問題より、日本人妻らを帰国させることでとりあえず、日本から食糧支援などを引き出したいという思惑はあることでしょうし。

 

 実際、今朝の産経の記事も指摘するように、北朝鮮労働党の機関紙、労働新聞は今年1月、唐突に日本人妻の手記を掲載しました。これは、素直に受け取れば日本人妻に関しては、何らかの条件で帰国させる意思があるというメッセージでしょうね。また、政府としてはこの日本人妻問題などをきっかけに、膠着状態にある拉致問題を動かせるものなら動かしたいと考えているはずです。野田官邸としては、いわば「ダメ元」で、中井氏の二元外交的動きを黙認しているというところでしょうか。

 

 ただ、ここで懸念されるのは、仮に日本人妻や残留日本人の一部帰国の件が進んだ場合、それで拉致問題追及がうやむやにされるのではないかという問題です。北朝鮮は当然、そうしたいはずです。一方、これについて外務省担当者はこう主張しています。

 

 「日本人妻の話は人道上、重要だと思うが、拉致問題の代わりには絶対にならない。日本人妻問題がいかに重要でも、(国交正常化など対北関係は)拉致問題を避けては通れない」

 

 坂中氏も「ここで区切ることができるわけがない」と言い切っています。そうあってほしいものです。一方、拉致被害者を救う会の幹部は「日本人妻の帰国問題が進展してもそれで拉致問題がただちに動くとは思わないが、それとは別に日本人を保護するのは政府がやるべきことなのでやったらいい」と語りました。

 

 ともあれ、今回の件で忘れられた日本人残留者にスポットが当たるのかそうでもないのか、関心を持って見ていようと思います。