3月は新聞休刊日がなかったので、2カ月ぶりの休刊日です。新聞が発行されようとされまいと、世の中は常に動いているわけですが、やはりこの日は少しほっとした気分になれます。というわけで、本日は読書エントリとします。

 

 安住洋子氏の作品を読むのはこれが2冊目です。前回読んだ「日無坂」は、どこか食い足りない気がしましたが、今回紹介する「春告げ坂 小石川診療記」(新潮社、☆☆☆★)は満足感がありました。

 

     

 

 質の悪い看護人、足りない薬料……と養生所で苦闘する若い医師を描いたもので、爽やかな読後感が残りました。派手な場面はありませんが、時代小説はいいなあと思う作品です。

 

 いつも安心して手に取れる宇江佐真理氏が飯屋を描いたのですから、これは読まずにはいられません。この「夜鳴きめし屋」(光文社、☆☆☆★)は、夜から明け方まで一人で営業する居酒屋・飯屋を舞台にしています。

 

     

 

 父親が営んでいた古道具屋をたたみ、居酒屋を開いた主人公がどうにか新しい仕事にも慣れたころ、ずっと昔の恋の相手が近くに舞い戻り……というストーリーで、この作者らしくしみじみとした味わいがあります。

 

 同じ作者の「日本橋人情横町 酒田さ行ぐさげ」(実業之日本社、☆☆☆★)には6つの短編が収録されていましたが、特に「隣の聖人」が気に入りました。なんともいえないペーソスというかおかしみがあり……。

 

     

 

 「極上お料理小説」という帯の文句にひかれて手に取った橋本紡氏の「今日のごちそう」(講談社、☆☆☆)には、「伊達巻」「のり弁」「ポトフ」……と23の掌編が収められています。日常の哀感が淡々と記されていて、分量的に電車の中で読むのにぴったりだなと感じました。

 

     

 

 佐々木譲氏の新シリーズ「地層捜査」(文藝春秋、☆☆☆)は、舞台が防衛庁担当時代によく飲み歩いた東京・荒木町とあって、興味深く読みました。当時、政治家や秘書さんや自衛官らをよく招いた軍鶏鍋の店(〆の鍋の出汁を使った玉子丼が絶品)はもうありませんが……。

 

     

 

 主人公は不祥事を起こして未解決事件の追跡捜査に当たる「特命捜査対策室」に配転となり、そこで古い殺人事件を追う……というストーリーです。佐々木氏らしく綿密な構成で読ませます。

 

 初めて読んだ遠藤武文氏の「炎上 警察庁情報分析支援第二室《裏店》」(☆☆☆、光文社)は、破天荒というか、性格が破綻した天才キャリアが事件捜査に活躍(?)するというお話しです。素直に楽しめます。

 

     

 

 その中で興味深かったのは、東日本大震災発生後のさまざまな都市伝説のたぐい、あることないこと流布された情報について、主人公が一刀両断する場面です。一例を挙げるとこんなセリフです。

 

 「枝野にマスコミを封じるだけの力があるとは思えないが、仮にマスコミを封じたとしても、小沢や谷垣はどうして口を封じられているんだ。シンガポールの話が本当だとしたら、菅政権を潰す恰好の材料だった筈だが、国会でそんな話は一度も出なかった」

 

 いつも時代小説と警察小説が多いので、たまには違う分野をと、あのベストセラー、村上春樹氏の「1Q84」のBOOK1前編後編(新潮文庫、☆☆☆★)が文庫版になったので、読んでみました。

 

     

 

 この人の作品は大学時代にはけっこう読みましたが、それ以来、疎遠になっていたので久しぶりでした。確かに上手いし、面白いので続きが読みたくなりますが、以前読んでいたときと同様、やっぱり登場人物に共感できないというか、同化できません。それにしても、登場人物の少女「ふかえり」のしゃべり方って、アニメ「エヴァンゲリオン」に出てきた誰かのようだと感じました。

 

 堂場瞬一氏の「刑事・鳴沢了外伝 七つの証言」(中公文庫、☆☆☆)を読み、久しぶりにあの狷介な主人公、鳴沢に触れました。関係者7人の目を通し、鳴沢を描くという設定です。

 

     

 

 相変わらず、知り合いになりたくないタイプの主人公ですが、この作品では結婚後、どこか柔らかく、人間らしくなったことが描写されていました。それにしても堂場氏の多作ぶりには驚くしかありません。

 

 浜田文人氏の「若頭補佐 白岩光義 北へ」(幻冬舎文庫、☆☆★)は、震災後の仙台を舞台に、復興を食い物にする悪い奴らとの対決を描いています。作中に出てくる鯖寿司があまりにうまそうだったので、つい買いました。

 

     

 

 高田郁氏の「みをつくし料理帳」シリーズもこの「夏天の虹」(ハルキ文庫、☆☆☆)で第7弾です。「想いびと」と決別して料理の道を選んだ主人公に、さらなる試練が襲います。この先、どうなることやら……。

 

     

 

 上田秀人氏の「闕所物奉行 裏帳合」シリーズは今回の第6弾「奉行始末」(中公文庫、☆☆★)で完結しました。主人公を闕所物奉行とするという設定は秀逸でした。

 

     

 

 おまけ。産経新聞出版がおそらく緊急出版したのであろう「橋下語録」を書店で手に取ると、巻末に私の署名も入っていたので「何か書いたっけ?」と驚いて買ってしまいました。

 

     

 

 よく読むと、2月に連載した「THEリーダー 救世主か異端者か」に加筆・修正されたものも収録されているとのことで納得しました。ただ、新聞紙上に載ったものの中から一部が削除されているため、巻末に東京本社から署名が掲載された4人のうち2人の原稿はこの本に全く反映されていません。まあ、うちの会社らしいなあ、とも思いますが……。