またまた、大揺れの政局と直接関係のないことを取り上げたいと思います。野田内閣は19日に、大阪市の橋下徹市長が検討していた地方公務員の政治活動に条例で罰則を設けることについて、「地方公務員法に違反し、許容されない」とする答弁書を閣議決定しました。

 理由は、昭和30年に成立した地方公務員法の提案理由説明で、職員が政治的行為の規制に違反した場合は懲戒処分(行政処分)で十分、との見解が示され、国会審議の過程で罰則規定が外されたからだとのことです。

 また、野田内閣は同時に、教育公務員特例法に関しても、国会審議の結果、罰則が設けられなかったとして、条例制定は法律違反だと指摘しました。現在、国家公務員の政治活動は制限を超えると刑事罰の対象となりますが、地方公務員(教員を含む)の場合は、刑事罰は適用されません。

 橋下氏の主張は、この法律の矛盾と、軽すぎる地方公務員の処分システムを地方自治体の条例制定によって是正しようというものであり、注目していたのですが、政府が「待った」をかけた形です。

 これについて、産経は20日付の紙面で「自治労や日教組を選挙マシンとしてフル活用してきた民主党政権ならではの『お手盛り答弁書』」(力武崇樹記者)と批判しました。確かに日教組の守護天使であり、最近は鵺であるとか、いや「ぬらりひょん」だとかと正体を疑われている輿石東幹事長がほくそ笑みそうな答弁書でありました。

 で、これに対し、橋下氏がどう反応したかというと、罰則規定を盛り込んだ条例制定は断念したものの、政府答弁書を逆手に取って反撃に出ました。政府見解が「職員の政治活動違反は、懲戒処分で地方公務員の地位から排除すれば足りる」としている点を突いて、違法な政治活動を行った職員を原則的に懲戒免職にする条例制定を目指すと表明したのです。

 さすがは転んでもただでは起きない橋下氏ですね。橋下氏は政府見解の「排除」の文言は「免職」と解釈するしかないと強調し、野田内閣への皮肉を込めてこう語りました。拍手したいと思います。

 

 「閣議決定に忠実に従っていく。職員の政治的な行為、政治活動について違反行為があれば、戒告ではなくて懲戒免職にする。普通だったら戒告となるものが甘いということで、罰則をつけようかと(考えていた)。閣議決定は本当に馬鹿だ」

 これには輿石氏も「涙目」でしょうか。それとも、自分はもう上り詰めるだけ上り詰めたので、現場のことなど本心ではもうどうでもいいと思っているのでしょうか。ともあれ、ここで教育公務員特例法の昭和29年の改正時に、罰則規定が外された経緯を振り返ります。

 実は、衆院では教育公務員の政治的行為の制限違反に罰則規定を設ける法案が可決されていたのに、参院で罰則規定を排除し、現在に至っているのです。29年2月26日の衆院文部委員会で、当時の大達茂雄文相はこう提案理由説明を行っています。

 《学校においては、特定の政党を支持し、または、これに反対するための政治的教育が行われてはならないことは、いまさら申し上げるまでもない。ことに義務教育は、国民教育の基本をなすものなので、特に、その政治的中立の確保が期せられなければならない。

 どのような方法によってその目的を達成すかるかと申しますと、この法案の規定するように、何人についても義務教育諸学校の教育職員に対し、児童生徒に対して、特定の政党を支持させ、または、これに反対させる教育を行うことを教唆し、または扇動することを禁止しようとするのであります。

本法の違反行為に対しては罰則を設けておるのでありまして、第四条に示すように前条の規定に違反した者は、一年以下の懲役または三万円以下の罰金に処するとなっております》

これに対し、同年5月14日の参院文部委員会では、緑風会の加賀山之雄氏からこんな大甘な修正意見が出され、それが採用されました。

《教育界の現状は、遺憾ながら教員諸君の幼い者に施しております教育自体に、これは誠に発達段階に適応しない不適当な点があるのが看取される。また教壇を離れた政治活動にも多分の行き過ぎがあるということも毫も否認するわけにはいかない。

従って、これらの偏向は何によって是正されるべきかと申しまするに、私は何より第一に、それらの個々の教員諸君並びにそれらの諸君をもって組織せられたる団体の反省自粛にこれを求めたい。私はこの反省と自粛というものに頼ることは、極めて大切なことだと思う。

できるだけ教育界の内部、教育行政の手によってこれを矯正することを考えてもらいたい。すぐに人に頼んでほかの方法でこれを直そうとしないで、教育界内部でやり、教育行政の手でこれを直すことを、どうして考えられないか。これが特例法においてはこの刑罰を行政罰とするゆえんです。》

……つまり、個々の教員と日教組の反省と自粛に期待して、刑事罰を排除した、ということです。一言述べておくと、私は内政でも外交でも、この種のナイーブな理想論、きれいごとが大嫌いです。結局、世の中のためにも教育界のためにも個々の教員のためにもならない自己満足的な見解に見えます。

で、その揚げ句が現在のありさまです。日教組の組織内候補が衆院議長や与党幹事長を務め、「教育の政治的中立などと言われても、そんなものはありえない」(輿石氏)と言い放って教員を選挙運動に駆り立て、搾取しています。実は昨日、山梨県の知人から、輿石氏の出身母体である山梨県教職員組合が再び教員から次期衆院選に向けた選挙資金カンパを始めたとの情報が入りました。

私は繰り返し書いてきましたが、この地方公務員法と教育公務員特例法については、自民党が小泉政権下で改正を試みました。当時の与謝野馨政調会長は「これは郵政民営化以上の大騒動になる」とつぶやいていましたが、公明党の裏切り、はしご外しにあって頓挫した経緯があります(自民党は先の参院選マニフェストでもこれを主張していました)。そして橋下氏は20日には、地方公務員法自体の改正を求めてこう強調しています。

「地方公務員法について議論しない国政は絶対だめだ。今の地方公務員法のままで地方分権を叫ぶ自治体の首長は、まやかしだ」

正論だと思います。総務省は国家公務員と地方公務員の政治活動での処分を区別する理由について「国家公務員は職務の性質上、社会への影響が大きい」としていますが、これから地方分権を進めようという時代に、こんな認識では困りますね。権利の拡充には義務と責任が伴うのは当然のことですから。

それにつけても衆院解散してほしさよ(下の句)