さて、昨日は来日した米国のバーンズ国務副長官が玄葉光一郎外相、森本敏防衛相、自民党の安倍晋三総裁らと会談し、それについては産経もネットで以下のように報じています。私は昨夜、たまたま安倍氏とある会合で同席し、その機会にそのときのやりとりについて話を聞いたので、記事に少し補足してみようと思います。安倍氏は訪中予定のバーンズ氏に対し、重要なメッセージを託しています。太字は、元文に私が新たに付け加えた部分です。

 

自民・安倍総裁「1ミリも譲る気はない」 米国務副長官と会談

 

 自民党の安倍晋三総裁は15日、米国のバーンズ国務副長官と党本部で会談し、沖縄県・尖閣諸島について「日中間でうまく話し合ってほしい」と要請されたのに対し、中国は明確なルール違反を犯している。(中国と)話し合う全く余地はない。領土問題はないのだから、1ミリも譲る気はない」と述べ、日中間に領土問題が存在しないことを明確に主張した。「こちらの考え方、私の意図を見誤らないように(中国側に)正確に伝えてほしい。このまま行くと大変なことになる。我々は防衛省と海上保安庁の予算を増やすつもりだ」とも付け加えた。

 安倍氏は、米政府が対日防衛義務を定めた日米安保条約第5条の適用範囲であると明言する一方で領有権については中立としていることに対し、「(日本と米国は)同盟国なのだから、日本に寄ってほしいというのが日本の考えだ」と述べた。

これに対し、バーンズ氏は「それは理解できる」と答えた。

 ……まあ、ありていに言えば、中国に「脅し」をかけて牽制しているわけですね。力の信奉者である中国にとって、分かりやすい「言語」で日本の意思を発信したということです。民主党政権のように中国に遠慮して曖昧なメッセージに終始すると、かえって誤解や曲解を招き、物事をこじらせるばかりですから、安倍氏の発言は大きな意味があったと思います。口をもごもごさせながら「分かってくれよ」といくら言っても中国(を含む諸外国)には通用しません。

また、それについて米国も理解を示したという点も重要でしょう。今朝の朝日新聞によると、安倍氏はこの席でこうも語ったとのことです。

「政権をとったら集団的自衛権の行使の解釈を改めたい。日米同盟強化にもなるし、地域の安定にも寄与する」

これも大事なポイントですね。日本が集団的自衛権の行使を明確にすれば、その対象は当然、米国なわけですから、米国も日本に対してこれまで以上に重視することになります。在米勤務経験の長いある外交官は、「日本が軽視されていることについて何度も屈辱的な思いをした」と語り、まともな同盟国として扱われない日本の現状に歯ぎしりしていましたが、同時にこうも言っていました。

「せめて集団的自衛権の問題さえクリアできれば、日米関係をめぐる状況は随分変わるのだが……」

現状では、仮に沖縄・尖閣諸島で有事が起きても、尖閣は日米安保条約の適用範囲だと一応認めている米国は、実際には軍事的には何もしないだろうと見られています。そんな無人島のために、米国民の血を流して、重要な市場である中国と決定的に対立するような事態は避けるだろうと。

ただ、これも日本が集団的自衛権の行使を容認にして、いざというときには自衛隊が米軍(米国民)を守るという姿勢を明確にすれば話は変わってきます。日本はもっと対等な同盟国として、さまざまな場面で米国にものを申し、忠告することもできるようになることでしょう。

これまでは、集団的自衛権に関しては左派メディアや社会党、公明党などが、わけも分からず「戦争はイヤ」「対米追随だ」などと反対してきましたし、内閣法制局は「歴代長官の答弁を墨守してむメンツを守れ」と抵抗してきましたが、時代は変わりました。9月の自民党総裁選では、候補全員が集団的自衛権の行使を表明しました。これも、尖閣問題で中国が大騒ぎし、日本国民の目を覚まさせてくれたおかげだと思います。

実は中国や韓国は昔からずっとああいう国であり、最近になってどうかしたわけではありませんが、その実態に多くの国民が気づき、得心したのは民主党政権のあまりに幼稚で拙劣な外交ぶりに、彼らがしめしめとつけ込んできたおかげでもあります。そういう意味では、この3年間は、あまりに高い授業料を払わされたにしても、全く無意味だったわけではなさそうですね。

話を戻すと、昨夜の会合で安倍氏は「私は一度、政治生命をほとんど失った人間なので、もう怖いものはなくなりました」とあいさつしていました。私は政治は「一寸先は闇」であり、あまり先のことに期待するのはよくないと考えていますが、思わず「今後のことが楽しみだな」と感じた次第です。

一昨日の海上自衛隊観艦式で、野田佳彦首相は何か吹っ切れたように旧海軍兵学校の「五省」を読み上げました。

一、至誠に悖(もと)る勿(な)かりしか

一、言行に恥づる勿かりしか

一、気力に缺(か)くる勿かりしか

一、努力に憾(うら)み勿かりしか

一、不精に亘(わた)る勿かりしか

 

……これを聞いて私は、「野田さん、解散を決意したかな」と感じました。まあ、それはただの感想であって特に根拠のある話ではありませんが、「近いうち解散」の約束を破る気でいるなら、この「五省」を読み上げられないだろうと、野田氏にまだ人としての矜持の一欠片があることを信じたいと今は思っています。やっぱり楽しみだなあ。