さて、選挙期間中の新聞休刊日とくれば、私のごく個人的な気分転換にもなるし、読書エントリがぴったりですね。というわけで、アレコレ言わずに早速開始します。

 

 まずは、三浦しをん氏の「白いへび眠る島」(角川文庫、☆☆☆)からです。親元を離れて暮らす高校生の主人公が、因習が残る故郷の島に帰省するところから物語りは始まります。幼いころから不思議なものが見える主人公がそこで遭遇する事件と新たな出発は……。ともあれ、その中で、こんな描写があるのに興味をひかれました。

 

 《「あれ」は海と山を行き来していると伝えられる化け物で、その名を口にするのも忌まれていた。(中略)なにしろ、口に出しても文字で書いても禍があると言われているのだ。島の人間はみんな、いつのまにかなんとなく「あれ」の存在と名前を知る。》

 

     

 

  ……いやはや恐ろしいですねえ。でも、これは決して日本の近未来を描いた小説ではないし、「あれ」はどこかの選挙区から出ているとかいう「アレ」ではありません。まあ、アレも「立てば国難、座れば人災、歩く姿は風評被害」と言われていたのだから、将来は本名を忘れられ、似たような位置づけになるかもしれませんが。

 

 というわけで、次も三浦氏の「神去なあなあ夜話」(徳間書店、☆☆☆)です。題名が示す通り、これは以前紹介した横浜出身の若者が三重県の山間部の神去村でなぜか林業に従事することになる「神去なあなあ日常」の続編です。

 

     

 

 20歳の主人公が、前作で告白(?)した年上の憧れの女性と、それなりにうまくやる過程がなんとも……。私も若いころ、気になる女性に思い切り自分の器量の「小ささ」を見せつけてしまい、見事に嫌われたなあなどとあまり思い出したくないことを振り返ってしまいました。

 

 で、このところ新聞や雑誌の書評欄で絶賛されている横山秀夫氏の7年ぶりの新作「64ロクヨン」(文藝春秋、☆☆☆☆)です。さすが納得の横山作品というか、警察組織(D県警)や新聞記者の生態のリアルさはうならされます。

 

     

 

 ……主人公の家庭の事情、警察庁と地方警察、刑事部と総務部、過去の誘拐事件、警察と記者クラブの対立……と道具立てもバラエティーに富み、読ませます。個人的には、主人公の家庭の問題がその後どうなるのか気になります。県警回りの最下っ端だったころを思い出しました。

 

 そしてまたまた池井戸潤氏の新作「七つの会議」(日本経済新聞出版社、☆☆☆☆)が出ていたので早速、堪能しました。どこにでもありそうな中堅メーカー、東京建電内のそれぞれの事情を抱えた人間模様と、ある秘密が引き起こした事件。サラリーマンならきっと引き込まれます。

 

     

 

 池井戸作品は必ずといっていいほどどこかに「カタルシス」を用意してくれているので、読後感がいいですね。まあ、仕事にプライドを持ち、社会のために働くというのは、言うほど簡単ではないと思いますが。

 

 書店でずっと平積みになっていたので気になっていた中田永一氏の「くちびるに歌を」(小学館、☆☆☆)も、とうとう手を出してしまいました。長崎県の離島、五島で暮らす中学生たちが主人公の青春小説です。五島が舞台というと、書道漫画「ばらかもん」もそうですね。

 

     

 

 私は音痴なので今までそんなことを考えたことはなかったのですが、これを読むと合唱もいいものだなあと感じました。あと、この年代というのはちょっとしたことをきっかけに大きく成長するのだなあと。うんうん。

 

 言わずとしれた夢枕獏氏の「陰陽師」シリーズはこの「酔月巻(すいげつのまき)」(文藝春秋、☆☆☆)で第12弾です。一献傾けながらの清明と博雅の掛け合いは、いい意味でのマンネリであり、読むたびに嬉しくなります。

 

     

 

 野口卓氏の「遊び奉行」(祥伝社、☆☆☆)は、同氏の「軍鶏侍」シリーズの姉妹編という趣で、やはり南国・園瀬藩を舞台にしています。藤沢周平氏の創作した北国・海坂藩へのリスペクトがうかがえる設定です。真の武士とは……。

 

     

 

 堂場瞬一氏がイケメンでイクメンの刑事を描いた「アナザーフェイス」シリーズもこの「消失者」(文春文庫、☆☆☆)で第4弾です。確かに面白いのですが、今回はこれまでの3作に比べ、主人公の秘めた凄みがいまひとつ生かされなかったような……。

 

     

 

 プロ野球のスカウトの世界を描いたこの本城雅人氏の「スカウト・デイズ」(PHP文芸文庫、☆☆☆★)は、作者のことを何も知らずに買いました。で、読み進めるうちに、記者と新聞社の描写がやけに詳しいなあと思い、著者のプロフィール欄を見ると、なんと元サンケイスポーツ記者とあるではないですか!。

 

     

 

 なんのことはない、社の先輩に当たる人の作品でした。まあ、それを抜きにしても、 これはスカウトたちと選手の駆け引きやその背景を実に興味深く描写していて、素直に面白いです。

 

 最後に、ここのところ、いいなと感じた漫画作品を紹介しているので、今回も一つ。ヤマシタトモコ氏の「バター!!!」は、題名だけ見ると何の話か分からなかったのですが、これは高校の社交ダンス部を舞台にした作品でした。

 

     

 

 いわゆるスポ根ものではありません。だけど、それぞれの事情と思惑を抱えつつ、社交ダンスを続けていたり、新たに始めたりした若者たちの感覚がみずみずしく、応援したくなりま。5巻で急展開した部長と副部長との関係は……いいですねえ。リア充とは何か。

 

 なんというか、人間には、食欲や性欲などと同様に、実に強い「物語欲」があって、常に没入できるストーリー、新しい説話を求めているのかなあと。