さて、本日は30日、今年もあと1日を残すのみとなりました。毎年思うことではありますが、今年もいろいろありましたね。特に政治においては、再び政権交代があり、安倍晋三氏が再び首相に就くという一大トピックもありました。なので、少し感想を記そうかと思います。

 ここでも度々書いてきた通り、私は前回政権交代が起きる前の与党、自民党の体たらくと混乱ぶり、先祖返りのような無思想化にも大いに不満がありましたが、それ以上に「民主党には無理だ」という強い思いがありました。それは、主要メンバーの面々を数え上げただけで、明々白々ではないか、火を見るより明らかだろうと、ア・プリオリの前提条件だと考えていました。

 また、民主党内の旧社会党的なもの、GHQの占領政策由来の戦後民主主義的なもの、いわゆる左翼バネにも強い警戒心を抱いていました。ただ、この点は一部は発動されたものの、それが本格化する以前に政権運営の余りに稚拙さ、党内ガバナンスの欠如、そもそもの無能、不能により、予想したほどは危険ではなかったなと振り返っています。

 彼らは一方で、有権者の多くが期待した行政改革、公務員制度改革などは骨抜きにし、国民との契約だと威張っていたマニフェストは反故にし、やらないと行っていた消費税上げに走りました。まさかここまで逆走するとは、私も全く見通せませんでした。

 左翼バネについてはもちろん、弊害はいろいろありましたが、私が当初、もっと日本が長い間かけて培ってきた伝統、文化、社会規範、市民社会のルール、歴史観などがめちゃくちゃにされてしまうのではないかという危惧を抱いてほどには、彼らはそれらを破壊しませんでした。これは敢えてしなかったというより、単に無能すぎてできなかったとのだろうと改めて私の見方を強調しておきます。

 ……と、さまざまな経緯を経て、今回の衆院選に至りました。その評価についてはいろんな角度から分析できるでしょうが、私としてはごく大雑把に感想を記します。特に感じたのは

 まずは、自民党を倒すためだけに雑多な勢力が結集した民主党というプロジェクト政党が、明確に国民に否定されたことです。野党時代から、党内対立を生むので外交・安保や憲法問題については党内議論を避け、政党の憲法といえる綱領すらつくれなかった民主党ですから、いざ政権交代を果たすともう目的も存在意義も失い、迷走するのは必然だったのだと思います。

 これは今後、第3極勢力にしろ、他の政治勢力が出現するにしろ、政策的にあまり差異の大きいところがくっついて政権だけ取っても、ろくなことにならないという貴重な前例となったのではないでしょうか。

 そして今回、ルーピーこと鳩山由紀夫元首相が引退し、傲岸不遜を絵に描いたような仙谷由人元官房長官が落選し、菅直人元首相が選挙区で落選(比例復活は画竜点睛を欠きましたが)したのも象徴的でしたね。彼らはほぼ同世代で、特に菅内閣は「全共闘の学生運動崩れ」内閣と呼ばれましたが、そうした人たちの政治が、明確にノーを突きつけられました。

 合わせて、鳩山、菅両氏と理念なき野合のトロイカ体制を築いてきた小沢一郎民主党元代表の凋落ぶりも鮮明でした。ここ20年間、常に政局の中心にいて政党をつくっては壊し、ときのリーダーの足を引っ張り続けてなぜか蓄財を果たした彼も、もうメディアで大きく取り上げられることはほとんどなくなるでしょう。嘉田由紀夫だか由紀子だかという滋賀県知事は、彼を「使いこなす」と大見得を切った挙句、見事にピエロを演じさせられましたが。

 今後、民主党が生き残るにしろ、さらなる分裂を経て雲散霧消するにしろ、もうトロイカの人たちは檜舞台に立つことはないでしょう。悪い意味での戦後民主主義を最も色濃く体現した世代の退場は、政治に変化をもたらすことになると確信しています。

 で、再び政権与党となった自民党の方はというと、野党時代にかなり、理念的に統一を見たことは留意すべきだと思います。9月の総裁選では、5人の候補全員が集団的自衛権の政府解釈見直しを主張しました。これは、今まではありえなかったことでした。民主党側は、野田佳彦前首相が「時計の針を戻すのか」と自民党の国防軍構想などを繰り返し批判しましたが、あまり効果はなかったようだし。

 また、今回、森喜朗元首相、福田康夫元首相、古賀誠元幹事長が引退し、加藤紘一元幹事長が落選したのもじわじわと党の体質変化につながっていくと見ています。現執行部は、これら占領体制を引きずったうるさい舅、小姑から自由になっていくわけで、政策的にも党運営的にもこれまでと違ったありようが期待されます。安倍首相にとっては、1回目の首相登板時に比べ、党内ガバナンス面でははるかに順風だとも言えます。

 安倍首相は「自民党の中・長期的理念の実現は来年夏の参院選後だ」と明言していますが、それでも相当な強気が言動のあちこちからのぞけています。日経平均株価が大納会で最高値を出すなど、とりあえず順調なスタートだと言えるでしょう。

 民主党や日本維新の会、みんなの党、生活の党などでは、今後も離合集散が起きる可能性もありますね。そうした動きは参院選に向けて収斂されていき、参院選後には政界再編の動きが出てくる可能性もあります。安倍内閣はこの参院選で勝利を収めた場合は、党役員人事と内閣改造を行い、いよいよ安倍カラーをもっと前面に打ち出していくのではないかと考えます。

 ……とまあ、思いつくままいろいろ書いてきましたが、結論を言えば、本当に政治は先のことは分かりません。私はよく言うのですが、小泉純一郎政権が終わり、第1次安倍政権が出発したときに、3年後には民主党政権の鳩山内閣が発足すると誰が予想できたでしょうか。

 そして、衆参ねじれも解消し、国民の高い期待を背負って船出した鳩山政権が8カ月で終わり、33カ月前の衆院選で308議席を獲得した民主党が今度はわずか57議席という惨敗を喫すると、これまた誰が見通せたでしょう。政治予想など当たるものではないと、私は断言します(当たった場合はただのまぐれ)

 なので、新しくスタートした第2次安倍政権の行方も分かるわけはないのですが、この間、国民も多くのことを学んでいることを期待します。いまだかつてなく憲法改正の可能性が現実性を帯びてきたこの機会を、何とか生かす方向で世の中が進んでくれたらいいなあと。

 私の願望など何の意味もありませんが、年末に当たって、数年ぶりに将来に希望が持てると書ける現在を、実にありがたいと感じています。将来に希望どころか不安と絶望しか覚えなかった民主党政権が終わっただけで、何か心が軽く解放されたようで、世の中の空気も変わってきたように感じます。ああ、ホントによかった。