もうすぐ新年度ですね。何か定かな理由があるわけではないけれど、こういう節目があると気分一新が果たしやすく、妙に有り難く感じます。諸行は無常なので、とらわれず、また新たに前を向いて進んでいこうという気に、ちょっとだけなれます。

 

 で、そろそろ紹介する本がたまってきたので、本日は恒例の読書エントリとします。今回は、またまた警察モノに手を出しました。まずは、笹本稜平氏の「突破口 組織犯罪対策部マネロン室」(幻冬舎、☆☆☆★)からです。

 

 政官財界で巨大な影響力を持つフィクサーに、刑事達が身内の裏切りに遭いつつ挑戦を続けるというストーリーです。それ自体、面白いのですが、感心したのは、作者が意図したわけではないでしょうが、奇しくも北朝鮮に対する金融制裁がどのように効くかの解説にもなっている点です。

 

 

     

 

 《売買代金をアンダーグラウンドで決済する手段が違法薬物の密貿易にとっていかに重要かは、1995年に米国による金融制裁で営業停止を余儀なくされた、マカオに本店を置く北朝鮮系の銀行----バンコ・デルタ・アジアの事例が示している。

 北朝鮮で印刷された成功な偽ドル紙幣の流通に関わる疑惑も指摘されたが、いちばん重要な点は、密貿易の上がりのマネーロンダリングに関与してきたことだった。そこには北朝鮮で製造された覚醒剤の密輸代金も含まれていたはずだった。

 金融制裁の発動後、北朝鮮ルートの覚醒剤の摘発量が激減した。(中略)日本の当局は、バンコ・デルタ・アジアの閉鎖で代金の決済に不自由をきたし、覚醒剤の密輸がビジネスとして成立しにくくなったことが大きいとみている。》

 

 などの説明がはさまれ、新聞も分かりやすく書かなければなあと改めて反省させられました。暴力団担当刑事や、生活安全部が癒着の温床の悪役のように描かれている部分には、ちょっと極端かな、という気もしましたが。

 

 次は、今野敏氏の「東京湾臨海署安積班」シリーズの新刊「晩夏」(角川春樹事務所、☆☆☆)です。周囲の評価は非常に高いのに、自己評価は低く、どこか自信を持てずにいる安積が、今回は生意気な若手刑事の教育係の役割も果たします。

 

     

 

 これは、警察小説であると同時に、やはりサラリーマン小説なのですよね。私ももういい年なので、会社組織やそこにいる同僚、後輩のことをつい思い浮かべなから読んでしまいました。

 

 この本で勢いがついたので、もう一冊、今野氏の「同期」シリーズの第二弾「欠落」(講談社、☆☆☆)も読んでみました。この本では、当初、公安部が「悪役」として描写されていますが、途中から中国の諜報機関などと戦う「公安の正義」も描かれています。

 

     

 

 それにしても、堂場瞬一氏の執筆のこのハイペースぶりは何なのか。前回の読書エントリで「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズの第8作を紹介したばかりだというのに、もう第9作「闇夜」(中公文庫、☆☆☆★)が出ました。しかも重厚な内容です。

 

     

 

 ストーリーは……まあ、これは細かく述べても仕方がないので省略します。帯の「高城は絶望から甦る」がすべてですね。改めて、犯罪被害者の家族が直面する苦しみや絶望について考えさせられました。

 

 だいぶ以前に集中して読んでいた真保裕一氏の「ローカル線で行こう」(講談社、☆☆☆)は、帯の文句通り「読めば元気が出てくる」を目指した作品です。

 

     

 

 廃線も近いとみられている宮城県の赤字ローカル線立て直しの切り札として送りこまれたのは、新幹線のカリスマアテンダント、という設定が楽しいですね。それに当初は反発を覚えながらも協力していく県庁からの出向者……上手い!

 

 私は漫画の「コンシェルジュ」(原作いしぜきひでゆき氏、漫画藤栄道彦氏)が好きなので、題名にひかれて買い求めたのがこの門井慶喜氏の「ホテル・コンシェルジュ」(文藝春秋、☆☆★)でしたが……。

 

     

 

 うーん、登場人物の設定も物語もなんか地に足がつかないというか、軽すぎて感情移入できませんでした。やはり、好みに合う合わないというのはあるようです。

 

 お気に入りの川上健一氏の「月の魔法」(角川書店、☆☆☆★)も出ていたので早速読みました。「大切なことは、言葉にしないと伝わらない」という当たり前のことが、つくづく大事なのだと改めて感じました。舞台が小笠原というのもいいですね。登場人物が愛おしくて、ちょっと泣けました。

 

     

 

 川上氏と言えば、以前当欄で紹介した名作「渾身」がせっかく映画化されていたのに、近くの映画館では上映されず、観ることができませんでした。残念でなりません。

 

 三上延氏の「ビブリア古書堂の事件手帳」の第四弾「栞子さんと二つの顔」(メディアワークス文庫、☆☆☆)も出ていました。まあ、本の方はなかなかよいのですが、テレビドラマの主人公役は明らかなミスマッチですよね。原作のイメージとまったく重ならない(すみません、観ていません。配役を聞いて観る気にもならなかった)。

 

     

 

 浜田文人氏の「情報売買 探偵・かまわれ玲人」(祥伝社文庫、☆☆☆)は、元SPの私立探偵で、実は非常勤の内閣官房特別調査官という設定の主人公が、政権再交代前夜の永田町で活躍します。舞台が私の職場に近いし、主人公の友人として政治記者なんかも登場するので楽しく読めました。物語の中で、政治記者がこう語ります。

 

 「俺たちに守秘義務はない。酒場で聞く政治家のオフレコ話には裏があって、大抵の場合は、政治家が外部に漏れるのを望んでいるのだ」

 

 これは全くその通りだと、うんうんと頷きながら読みました。政治家に限らず、官僚の場合もそうであることが多いのですが。

 

     

 

 一方、「(政治家から)祝儀や車代を受けとらない記者など相手にされない」というセリフには、ちょっと違うなあと感じました。田中角栄元首相の時代やその後しばらくは、そういう時代もあったやに聞きますが、今はそんなにカネを持っている政治家もいないし、世間の目もそういう悪弊に厳しくなっているし、そういう慣習はなくなっていると思います。まあ小説の話なのだから、いいのですが。

 

 瀧羽麻子氏の本は、この「株式会社ネバーラ北関東支社」(幻冬舎文庫、☆☆☆)が初めてです。いろいろあって東京の証券会社を退職した主人公の女性が転職先に選んだのは、納豆がこよなく愛されている某地方だった……。

 

     

 

 納豆がやたらと出てくる割に、さらっと読めます。帯のいう通り、疲れている時の読書にぴったりかもしれません。それにしても、もう転職なんてそう簡単にはできない年齢になってしまったなあ。

 

 話は飛びますが、昨日の参院予算委員会の民主党の小西洋之氏の「クイズ質問」は下品でひどかったですね。どうして民主党の人たちは、あんなやり方は自分たちの評判を下げるだけだと気づかないのか。それが不思議でなりません。